図書紹介
先号   次号

「エンジェルフライト」  国際霊柩送還士
(佐々涼子著、集英社、2012年12月23日発行、第3刷、279ページ、1,500円+税)

デニマルさん: 5月号

今回の本は、昨年末から書店店頭に積まれてあったが、タイトルから購入を躊躇していた。所が、今年の開高健ノンフィクション賞受賞のニュースがあり読むことにした。この本は、あまり馴染みのない霊柩送還士という仕事がリアルに書かれてあり、「おくり人」(青木新門著「納棺夫日記」を映画化し、2009年日本アカデミー賞等を受賞)と違った感動的内容を紹介している。実は、今回開高健ノンフィクション賞があることも知った。ノンフィクション賞と言えば、大宅荘一ノンフィクション賞(1970年が第1回で文藝春秋社が運営)が有名で、現在まで43年の歴史がある。因みに昨年は、増田俊也著「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」が受賞している。他に、講談社(1979年から開始)や小学館(1994年から開始)もノンフィクション賞を主催運営している。ノンフィクションは、小説とは違ったジャンルの文学である。今回の本は、死や弔いの儀式から「命の尊さ」や「人間の幸福観」や「無言の相手から魂を感じる仕事」等々を考えさせる深い内容である。

エンジェルフライトとは   ―― フライトはフレイトの進化 ――
エンジェルフライトを直訳すると、天使の飛行となる。実は、この会社の仕事が、亡くなった方の遺体を運ぶことである。航空会社は、遺体を貨物扱いで運ぶのでフレイトという。だから正確にはエンジェルフレイトである。しかし、この会社の社長は敢えてフライトに変えたという。この本で同社の仕事は遺体ビジネスと書いているが、同じ様な言葉でもイメージが全く変わる。人が亡くなり天に召されるなら、フレイトよりフライトの方がいい。

国際霊柩送還士(その1)  ―― 国際の意味するもの ――
国際霊柩送還士は、遺体送還業務を専門とする人の呼称で、海外で亡くなった方を遺族の元に送り届ける仕事と書いてある。日本人が海外で事故や天災等々で亡くなる人が年500人近くいる。その方々は、地元警察や病院や葬儀社を経由して日本に送られてくる。しかし、外国でのことなので法律や宗教や文化・習慣が日本とは違う。だから普通の人が外地に行って自分で送還業務をするのは簡単でない。そこで専門的に仕事する人が必要となる。

国際霊柩送還士(その2)  ―― 「おくりびと」との違い ――
先の「おくりびと」は、日本での納棺士のことを映画化した。この本での国際霊柩送還士の仕事は、遺体を海外から日本の家族に届けるだけでなく、「生前の表情に戻す」ことであるという。事故死は病死と違って、遺体が損傷しているケースがある。更に、海外送還なので時間的経過もあり、エンバ-ミング(防腐処理)も必要である。この点が「おくりびと」と違うが、生前の状態で家族に逢わせる使命感がこの会社の底流にあると書いている。

ページトップに戻る