図書紹介
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「55歳からのハローライフ」
Life Guidance for the 55-years-olds and all triers by Ryu Murakami

(村上龍著、幻冬社、2012年12月10日発行、第4刷、333ページ、1,500円+税)

デニマルさん: 3月号

今回紹介の本のキーワードは、55歳とその後の人生であろうか。日本の平均寿命は、男性79.4歳、女性85.9歳である。過去世界一の長寿国であったが、昨年の統計で若干変わった。男性が0.11歳、女性が0.40歳縮んで、世界一の順位を下げた。因みに、男性は、8位(1位は香港の80.5歳)、女性は2位(1位は香港の86.7歳)である。この情勢変化は、3・11の東日本大震災の影響であると厚労省は説明している。キーワードの55歳は、平均寿命で20年以上も先のある人生である。今回紹介の本は、この年代の生き様を短編小説に書いている。定年前に職場を追われる不安を抱え65歳まで年金が貰えない経済的問題、親の介護や子供の自立等の家族問題、肉体的に衰えを感じる年代である。著者は、24歳で「限りなく透明に近いブルー」で芥川賞を受賞している。この小説では性と麻薬に溺れる若者を描いたが、今回は定年前の年代を対象に、これからどう生きるか5つのケースを書いている。

55歳からの再出発(その1)   ―― 夢の老後と再就職の現実 ――
会社の早期退職に応じたAには夢があった。退職後キャンピングカーを購入して、夫婦二人でのんびり全国を気ままに旅行する積りであった。所が、妻と娘の思わぬ反対で夢がスムーズに進まなくなる。男の夢はロマンだけを求め、女は現実からシッカリ将来を見極める。年金受給まで先があり、目先の生活を考えると再就職せざるを得ない。その再就職も厳しい現実の壁に阻まれる。夢と現実の乖離は、家族と友人に寄って調整されていった。

55歳からの再出発(その2)  ―― 高齢離婚で自立を求めた女性 ――
定年退職で家に引き込もっている亭主に嫌気がさして離婚したBは、働きながら自立している。その自立の延長線上に結婚相談所があり、別れた夫以外の男性を求めた。しかし、経歴書や写真だけでは自分との相性は分かない。何人もの紹介された人と会っても、満足する結果は得られない。満足するような人は、結婚相談所に来る筈もない。よりを戻したい別れた夫との連絡も断ち切り、自分の気持ちを整理する過程に自立の踏ん切りがあった。

55歳からの再出発(その3)  ―― 会社倒産の失職後に出会った友 ――
会社倒産で定年前にリストラ退職させられたCの再就職は厳しく、ビル清掃や道路工事の誘導員等のアルバイトしかない。妻のパート収入だけに頼る生活となる。経済力の乏しい家庭は、ホームレス転落の危機にある。バイト先で会った昔の友人が、ホームレス同然の山谷暮らしで病人である。そんな友人を亡くなる前に母親宅まで連れて行き、弱者が弱者を助けたのだ。その重く辛い過程で、生きていることで出来るハローライフを探し出した。

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