図書紹介
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「生きる力」 心でがんに克つ
(なかにし礼著、講談社、2012年12月20日発行、第1刷、149ページ、952円+税)

デニマルさん: 2月号

前回の「聞く力」に次いで、今回も「~力」である。そう言えば、最近「~力」の本が目立っている様なので調べてみた。「悩む力」(姜尚中著)、「選ぶ力」(五木寛之著)、「伝える力」(池上彰著)、「コミュニケーション力」(斎藤孝著)、「別れる力」(伊集院静著)等々。どうしてこの類の本が多いのであろうか。「~力」本の共通点は、手軽な新書版で、人目を惹く題名が付いている。更に、その題名を補完するような強烈な副題が添えてある。今回の本は、「心でがんに克つ」である。この副題と「生きる力」の題名が見事にマッチして読んでみようという気にさせる。そんな動機で購入した。著者は、直木賞受賞の作家であると同時に、作詞家としても著名である。中でも菅原洋一の「今日でお別れ」や細川たかしの「北酒場」では日本レコード大賞、他にも多くの音楽賞を受賞している。こうした華やかな著者が、持病に加えて癌の宣告を受けた。そこで自らの「生きる力」に挑み、最先端医療を受けて癌を克服している。最先端医療による癌治療を知る上で参考になる本でもある。

心でがんに克つ(その1)   ―― がんの告知で持病と闘う覚悟 ――
著者は、若い時から心臓病の持病を持っていた。20年前に大きな発作が起きて意識不明となり、救急病院に担ぎ込まれ蘇生された経験もある。その関係から不整脈を抱え、薬に頼る生活であったという。以前から喉に違和感があり精密検査の結果、食道癌であると告知された。その上抗癌治療では対処出来ず、癌の摘出手術しか治療法がないとも宣言された。持病の心臓が手術に耐えられるのか。他に治療方法はないのか。生きる力との葛藤である。

心でがんに克つ(その2)  ―― 手術をしない医師を執拗に探す ――
食道癌手術の生存率は50%であるが、持病を考えるともっと悪くなる。殆どの医師は手術しか方法がないという。著者は当時70歳を超えていたが、自分にとって手術は死を意味すると考えていた。何れ死を迎えるなら、自分の納得いく生き方を選びたいと覚悟を決めた。著者は、その心境を「私はがん患者という罪名を帯びた一種の死刑因となった」と書いている。そんな或る日、「陽子線治療」という他臓器に影響が少ない新治療法を探し出した。

心でがんに克つ(その3)  ―― 最先端医療法(陽子線治療)でがんを克服 ――
この陽子線治療とは、[水素という最も軽い元素の原子核を加速した陽子線である放射線を利用して「がん」等の治療を行うもの]と物の本に紹介されてある。つまり抗癌治療の様に「切らない癌治療法」である。最先端医療法なので、この治療が出来る病院が少なく、保険が適用されない等の問題がある。しかし、著者はこの「陽子線治療」によって昨年6月、食道癌の治療をした。その後の健診で、癌が完全に消えたと「生きる力」を証明している。

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