「聞く力」 心をひらく35のヒント
(阿川佐和子著、文春新書、2012年11月30日発行、第22刷、253ページ、800円+税)
デニマルさん: 1月号
今回は、2012年で年間ベストセラーの総合1位にランクされた本の紹介である。出版物流通・取り次ぎ大手の日本出版販売(日販)とトーハン(旧東京出版販売)は、毎年12月にその年で一番売れた本を部門別に順位発表している。その総合部門で今回紹介の本が9ヶ月間連続のベストセラーとなり、100万部を超す売り上げとなった。因みに、2位「置かれた場所で咲きなさい」(10月号)、3位「新・人間革命24」と続き、5位「舟を編む」(7月号)、6位「大往生したけりゃ医療にかかわるな」(6月号)が入っている。()は、この話題の本で取り上げた掲載月である。ここでは話題になった本を紹介するだけなく、話題になりそうな本の先取りもモットーとしている。然し本の目利きは難しく、中々思うようにはいかない。さて本題であるが、著者は週刊文春で対談連載をしている。その連載が今年で20年、1000人以上の方とインタビューをしている。有名人やタレントの普段の姿やエピソードを引き出し、相手の心をひらくヒントを纏めた。読んで参考になる点が数多くある。
聞く力は「相手を観察」する ―― 北野武(監督、タレント)のケース ――
著者は、インタビュー前にその人の過去の足跡、考え方、人生の転換期や人間関係等から3つに絞って聞いている。所が、筋書き通りいかないケースが多いという。北野監督が映画「HANABI」でグランプリ受賞の対談で、“おしぼり”で頻繁に目を拭いていた。これがバイク事故の後遺症に話が進展する。その事故での心の傷が映画「HANABI」の花を描くワンシーンとなり、質問を躊躇していたことが相手の観察から思わぬ展開となったと書いている。
聞く力は「素朴な質問」をする ―― デーモン小暮(ミュージシャン)のケース ――
この本のサブタイトルは、心をひらくヒント集である。インタビュー中に得た貴重な体験から、その極意を纏めている。ミュージシャンのデーモン小暮とのインタビューで「ヘヴィメタって何?」と単純な質問をした。そこで「ロック」の歴史的流れから、「ハードロック」「ヘヴィメタ」「パンク」の違いを分かり易く話してくれた。更に、ボーカルの音質の問題にも話が及ぶ。実は素朴な質問に、物事の本質を探るキーがあると教えられたという。
聞く力は「みんなが共感」する ―― 尾崎将司(プロゴルファー)のケース ――
毎回のインタビューには、編集ライター、カメラマン等の対談チームで臨んでいるという。更に、対談相手のマネジャーや広報担当等がいて多くの人が同席している。尾崎プロとの対談で、国内であんなに強いのに海外で勝てない不調の理由を大胆にも聞いた。その答えが「だって言葉、通じないだもん」だった。その場に居合わせ人一同がガッハッハと笑った。相手の何気ない言葉に場が和み、みんなが共感することで聞く力は、飛躍するという。
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