投稿コーナー
先号   次号

「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (12)
~地政学的戦略論からのアプローチ~

渡辺 貢成: 3月号

A. 先月は「グローバルビジネス能力を身に着けるために私達は何をするのか」?
の議論でBさんから、なぜサムスンが活躍し、日本企業がグローバル化社会で活躍できない理由を説明してもらいました。日本企業はグローバル社会という新しい変化を理解することなしに、従来からの成功方式を継続し、更に国内低価格競争で疲弊した事例を取り上げ、日本企業および政府の戦略のなさを指摘する話があった。今月はBさん以外の方々からの反論、賛成論、追加論をお願いしたい。
D. 私はこの討論に参加するのは初めてです。Bさんのご意見への対策論を話すのが妥当と思いますが、その前に「戦略を持たない日本人」という韓国人の指摘を表面的ではなく、深い意味で捉え、グローバルビジネスがどのように変わってきたか、どのような方向に行くのか、その勉強が必要と思いました。この理解なしに日本人に戦略が大切と言っても、何の対策も出せないわけです。日本人に地政学と言っても、多くの人は言葉すら知りません。国境が陸続きの国々は何時攻め込まれるか分からないので、地政学は国家戦略の重要課題で、韓国が地政学を研究するのは当然です。そこで私は読者に「地政学的戦略論からのアプローチ」を知ってもらうために、2010年1月に発売されたロバート・J・シャピロ著『「2020」-10年後の世界新秩序を予測するー』とジョージ・フリードマン著「100年予測」(2009年10月発売)を読みました。ここに書かれた内容を説明します。今年は「2020」発売後3年になります。予想と現実を眺めてみるのも面白いと思いました。
  注: シャピロ氏: 1992の大統領選でクリントンの主席経済顧問、1998~2001米商務省次官
    フリードマン氏: 1996インテリジェンス企業ストラットフォ創設、政治・経済・安全保障にかかわる独自の情報を提供し、「影のCIA」の異名を持つ企業のCEO
A. 今月の話は面白そうだな。
D. 最初に「2020」を読みました。日本に厳しい内容でした。厳しい内容は心を暗くします。これでは100年後に日本はなくなっているかもしれないと思い、「100年後予測」を読みました。
まず、「2020」の内容をまとめます。
  1 ) グローバル社会が直面する難局:ここには3つの大きな難問がある。
  高齢化社会が世界をゆるがす:人口問題への取り組みが成長を決める
    少子・高齢化で就労人口が減り、高齢化で生活費支援、医療費の増加で、税金が上がり、投資が衰える問題
    解決策:人口問題への取り組みが成長を決める
  新たな経済地図:世界の主要経済圏の仕組みが根底から変わった事実の認識
    ソフトウエアがもたらすサービス部門のグローバリゼーション
    グローバリゼーションに眼をつぶる欧州諸国
    何故、米中の未来に楽観できるのか
  共産主義なき時代の地政学:世界唯一の超大国(米国)の出現
    益々激化する各国の利害の対立
A. ①の高齢化社会の問題は日本にとって大きな問題なのはよく分かる。現実の問題として、最も重要だが、まず②と③を説明してくれないか。
D. まず、③からお話します。ソ連の崩壊で、地政学的な世界地図が根本的に塗り替えられました。第一は中国が社会主義と決別することが可能になり、今日の中国の台頭が実現し、世界経済の中心がアジアに移り、同時に世界の安全保障もアジアに移りました。その結果欧州は脇役的地位に追いやられました。ソ連崩壊で資本主義の勝利が確定し、金融資本の活動が活発となり、実貿易で使われる流動通貨量の100倍以上の金融の流れが起こり、グローバル経済の発展に良くも、悪くも貢献し、この経済問題の解決に国際機関の役割が大きくなりました。なかでもWTO(世界貿易機関)、IMF(国際通貨基金)WIPO(世界知的所有権機関)等が重要な役割を果たしています。
ソ連崩壊による経済的繁栄と政治的安定を目指す世界には、米国・欧州型のモデルが残され、1997~1998年のアジア金融危機には国際機関の活躍で問題を解決し、その存在をゆるぎないものにしました。この結果市場経済を志向している国でも、広範な国家主導の産業政策を採れば失敗すると言うメッセージが明確になりました。1990年代末には中・東欧から東アジア、南米諸国にいたるまで「市場の自由化と規制緩和」をどこまで広げるかという議論が進められました。これに対し、米国主導で発足したWTOがその答えを提供したことで、ほぼすべての発展途上国がWTOのルールを受け入れ、国が独占または主導してきた産業部門を次々に国内市場に開放し、海外資本による投資や所有に門戸を開いていきました。この変動は世界を一変させ、これまで国際社会では端役であった国が主役に躍り出る効果をもたらしました。
A. このグローバリゼーションで利益を挙げた国は何処かね。
D. 中国を筆頭とする、新興国です。先進国からの資本と技術の導入で広がった機会を拡張するために「人材の開発」や「インフラ整備」を行い、経済力を高めています。中でも韓国は優等生です。「門戸開放か規制」かの政策判断で、その国の明暗が出ています。
A. 日本と欧州は恩恵を受けているのかね
D. この本によりますと、中国の台頭と米国経済の持続的発展に比べ、欧州3大国(ドイツ、フランス、イギリス)と日本はグローバリゼーションの変化に対応できず経済が悪化しています。その理由は
  欧州3国は新興国の資源(人的資源も含む)活用や、市場としての販路拡大を考えていません。
    日本は新興国で生産する製品の重要な部品や生産設備を売っていることで、貿易上は新興国に対し、黒字国となっていますが、最終製品の新興国販売に失敗し、家電産業は国内市場にとどまっている状況です。
  日本の弱点は規制緩和を効率的に実施せず、自国の経済から世界各国を締め出し、脆弱産業保護に大金を投じて、グローバル市場の開発、新製品開発がおろそかになっています。
C. Dさんの言われる②の件ですが、実は日本のお役所も新しいことに挑戦しています。現代の開発案件は複数の省庁にまたがっており、省庁が協働して実施しなければなりません。ところが日本の官僚の成績は予算の獲得量で決まりますので、各省庁が同じテーマで争うことになり、共同案件が極端に少なく、効果的な対策を取れないでいます。また、官発の研究開発テーマについては民間の協力が必要ですが、民間は各省庁と平等にほどほどのお付き合いをします。結果としてほどほどの成果しか出ません。また、新規予算を獲得しても、実施段階では担当官僚が転勤となり、予算は既得権者へ流れるなど、国民の目に見えない習慣が成果を阻んでいるのが現状ではないでしょうか。時代の変化に、日本も変わっていくと言う意識が感じられません。
B. 国内産業に従事している我々は日本の商習慣の中で人間関係をつくりながら仕事をしています。そのためグローバル社会のビジネス習慣からかけ離れていながら、自分がかけ離れているということを理解していません。例えばグローバルインフラは新興国の大きなテーマです。金のある日本が資金を提供できるテーマでもあります。日本は従来からインフラとは箱物行政と言って「箱」をつくることだと考えられていました。本当は違うのです。例えば港湾施設をつくるとします。役所はゼネコンと設備業者にハードの納入仕様を決めて発注します。運用は港湾を管理する役所が行います。
日本に外国の船が入り通関手続きをします。シンガポールでは即日完了ですが、日本では書類が種々の箇所を回って日数がかかります。しかし役所は何の不便も感じていません。利用者より役所が偉いという立場で仕事をしていた習慣が残っています。従って外国船はハブ港湾として日本の港を利用しません。韓国の釜山は日本のすべての港湾施設を足したより大きなハブ港湾を運営しています。中国―米国間の膨大な数の船舶が津軽海峡経由で運行されています。そのメリットを日本の役所は利用することを考えていません。香港はその3倍のハブ港湾を持っています。
さて、本題に戻りますが、日本のコンソーシアムが相手国にプロポーザルを出しますが、日本のコンソーシアムは「運用力」で負けてしまいます。日本人の多くは「サービス第一」と言って、顧客への「サービス」を口にしますが、その「サービス」は無料を意味します。欧米の「サービス」はお金を取れる「価値あるサービス」を提供することをモットーといています。「只のサービス」から「有料のサービス」を売ると言う発想の転換がないと、種々の分野でグローバル競争に勝てないと思います。グローバルインフラを受注できない要因がここにあります。
A. Dさん、Cさん、Bさん、ご意見ありがとう御座いました。それぞれ、私達にとって気がついていないが、重要な対策案を提供してもらえました。
D. 今日は「2020」の内容の話をしました。3年後の話を言い忘れました。「2020」に書かれていた内容は今もその流れに沿って進んでいることをお伝えします。
A. それは困った事実ですね。
D. 笑い話のような話をさせてください。今日お話しする予定の「100年予測」です。
本書を大雑把に説明します。本の表紙に示された図です。
・ 2020年 第二の冷戦
・ 2020年 中国分裂の危機
・ 2050年 日本、トルコ、ポーランドが力を蓄え、アメリカと戦争へ!
・ 2080年 宇宙開発が進み、宇宙での太陽光が、主要エネルギー源に
・ 2100年 メキシコがアメリカと覇権を争う
「2020」は現状を細かく分析し、10年間予測をしています。従って私達から見て信憑性が高いという感覚を与えてくれました。「100年予測」は地政学と大局観で分析を進めています。日本に関しての論評も含めて概要を話します。ロシアは力を失い、米国に対する次の挑戦はイスラム帝国の再現を目指すイスラム教徒の米国への攻撃です。しかし米国はイスラム教徒に対し勝利でする必要はなく、イスラム世界の集団同士の反目によるイスラム帝国実現を阻止することを行いました。二番目が中国です。中国は物理的に孤立している国であり、また海軍国でもない。問題は本質的に不安定です。これまで外の世界に国境を開放するたびに、沿岸部は豊かになるが、内陸部は貧困のまま残され、それが緊張、対立、不安を引き起こしています。その結果経済的意思決定が政治的理由で決定され、非効率と腐敗を導いてきました。米国はロシアとの均衡を保つための錘として、中国をてこ入れし、つなぎとめるだけで、現在の中国経済ダイナミズムは、長期的成功につながらないと見ています。
三番目が21世紀半ばに台頭する国で、日本、トルコ、ポーランドを上げています。その第一が日本です。日本は(出版当時)世界第二位の経済大国ですが、資源に乏しく、輸入依存度が極めて高い最も脆弱な国です。軍国主義の歴史を背負う日本が平和主義的な二流大国のままでいるはずもない。深刻な人口問題を抱えながらも、大規模な移民受け入れに難色を示す日本は、他国の新しい労働力に活路を見出すようになります。日本の脆弱性は危機が切羽詰まったときに、大きな政策転換を達成し、突然強力になった過去数回の事例がある。(日本はコンセンサスを得るのに時間がかかり、決断できないでいるが、切羽詰ったとき決断するとその団結力で見事に立ち直る)。
日本の次はトルコ(説明省略)で、これと日本が組むと強大な力となるが、しかし2050年戦争でも米国は負けないと書いてありました。
A. Dさん、この議論を面白く纏めてくれたね。2050年にまた負けることは御免こうむりたいが、言われてみると日本はいざとなると底力を発揮する国民でもある。来月は新年度なので、皆で戦略について議論してみたい。戦略がないとプロジェクトやプログラムは成り立たないからね。

以上

ページトップに戻る