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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (11)

渡辺 貢成: 2月号

A. 先月は「グローバルビジネス能力を身に着けるために私達は何をするのか」?を議論した上で宿題をだした。
Bさん、Cさん、Eさんからグローバルビジネスで実践力を発揮するには、「モノつくり=技術」、「IT=ツール」という見えるものだけでなく、表面的には見えない組織能力を時代に合わせて向上させるというテーマがある。組織のグローバル的成長として、ナレッジマネジメント、責任と権限の明確さ、要求仕様の明確さ、グローバルスタンダードの採用、「意思決定の早さ」と「情報伝達を阻害する組織構造の改革」等を私達が理解しないと、「As is」と「To be」だけでは処理しきれないということを教えてもらった。日本企業がグローバルビジネス能力を得るための意識改革とは何か、2月号では提案してください。
どなたか答えてくれますか
B. 年末に金美徳多摩大学教授著 -韓国企業だけが知っている-『日本企業「没落」の真実』という本が出版されました。私はこの本に宿題の答えがあると思いました。
A. 面白そうだね。説明してください。
B. まず、要約をします。
  日本人には戦略がない
  マーケティングの基本を知らない
  アジアで働ける人材がいない
  グローバルビジネスを知らない
  リーダーシップがない
  日本にあるのは「技術の優秀性」という驕りがある
A. 厳しい指摘だね。だが当たっているかもしれない。
B. その通りです。「日本は国を挙げて、失敗の原因をあいまいにする習慣があり、未だ真因を理解していないから、没落という方向に進むだろう。しかし、今こそ素晴らしい日本の良さを活かすために、素直に反省し、適切な対策が必要だ」と直言しています。日本企業の最大の弱点は「技術がよければ製品を買ってくれる」と言うビジネス音痴が、官僚、マスコミ、経営者、庶民に成功体験として残されていることが問題だと指摘しています。
A. では、①日本人には戦略がないとは?
B. ロンドン・オリンピックで柔道の全敗は日本柔道の技術力の低さではない。世界柔道の規則が変えられている中で、変化に対する戦略的工夫を行う代わりに、堂々と戦うことが柔道だと自らを律している。日本の戦略は世界中が知っており、各国は日本選手に勝つための隠し味を持っている。中国は柔道に太極拳を取り入れ、韓国はテコンドーを加味して、勝利を目指している。
少し古くなるが、浅田真央とキムヨナの対決で、回転の技術は浅田が優れていた。浅田は大技で勝つことを目的とした。キムヨナは弱みをカバーするために、審査員が何に得点を与えるか、各審査員の癖を調べ上げ、総合的な得点が最高になる作戦を展開した。(注  荒川静香は回転の弱さを優雅さでアピールするためにすべての評点でそつなく、最後は優美さで観客を巻き込む戦略が功を奏し、金メダルを獲得した)
A. なるほど、今でも技術を中心に製造業を再生しようと考えているね。悪いのは円高だと決め付けている。この点を反省しないと、円安になっても製品は売れない。しかし、日本の部品類は世界中の商品の基幹部分に使われており、貿易収支に貢献している。これら自主努力した企業には円安で輸出金額が減り、燃料、食料購入費が上がり、ダブルパンチを与えるため、安定していた貿易収支が危なくなる可能性がある。努力をしていない企業は円安になっても輸出が増えることはないと思うからだ。安易な円安論は危険な面があるので、この本の提案を私達は日本人の反省材料として正しく理解してもらいたい。
では②マーケッティングの基本を知らない
B. 日本の企業がサムスンやLGに勝てないのは「何か」が足りないからだ。何かを正しく理解しないと駄目だといっている。その一つがマーケッティングです。日本企業は未だにルック米国で、アジアを見ていない。「ビジネスのお手本が米国」という時代が終わったと言う認識が足りない。今はビジネスのお手本がアジア」になったという発想の転換が日本にはない。それではアジアで勝利を得ることはできない。
韓国はすでに、これからの市場は新興国だと狙いをつけ、多くの社員を各新興国に派遣し顧客の潜在ニーズを徹底的に調べた。 日本の企業は隣国の韓国すら理解できていない、極言すれば「隣国すら理解できない国民が、グローバルを理解できるわけはない」と言っている。
A. いわれてみると、これはマーケッティングの基本だな。日本の自動車産業に勢いのあったとき、「日本企業は米国の市場調査を徹底して行ったが、米国自動車産業は日本市場のニーズ調査をしていない。アメリカの車が世界一なのに何故買わないと言うのはおかしい」と私達は主張したことがある。今、同じコトを指摘されたわけだ。韓国企業の重要な指摘は巨大なマーケットはアメリカからアジアにシフトしていること理解しなさいと言っている。一ツ橋大学の有名な経営学の先生が「アメリカ出羽の守」からの離脱と言い始めたのはつい2年前だから、官民こぞって日本はこんな簡単なことを理解できていなかったといえるね。それは日本人の米国に対する劣等感とその他の国々に対する驕りだと思うな。
③アジアで働ける人材がいないとはどういうことかな?
B. 日本には、新たな経済発展段階を迎えた東南アジアや中国に対するより深い理解が求められる一方、隣国である韓国への理解も急がれている。隣国とうまく付き合えない国が、いくらグローバリゼーションの時代と言っても国際社会からどれほど信頼されるか甚だ疑問である。アジアを理解するには韓国企業を知ることが重要で、アジアビジネスを成功させる最短ルートだと言っている。その理由は韓国企業の情報の中には、日本からはブラインドとなっているアジア新興国市場の情報が豊富にある。
(注:韓国を敵と見るのかパートナーと見るのかで日本の発展は違ってくると言っている)
A. ユーラシアダイナミズムの潮流をつかめと言うことだな
B. 日本はこの20年間流れをつかむという発想がありませんでした。
A. 日本は島国で平和な国だったから、地政学と言う国家戦略上必要な発想が常に欠如している。
B. 日本の企業は有能な人材をアジアに勤務させなかった。言葉を替えると日本にはアジアという新興国市場を体で理解している人材がいない。人材を派遣しても3年で戻ってくるから腰が引けている。韓国では「現地人を社長にするまで帰ってくるな!」が社員を新興国に派遣するときの心構えとして、根付いている。グローバル社会(新しいマーケット)で自社が発展できるのは、仕組みつくりから始めろと言う発想と思います。企業に採用した人々をすべて平等に取り扱う精神的基盤ができていないと企業に貢献してくれない。その点で、日本企業はグローバル人材採用・育成・登用制度が整備されていないといえる。
A. これは大変痛い視点だな。今の日本人はこれから発展するグローバル社会というものの本質を理解していないと言える。2006年に出版された「社員力革命」と言う本に、中国人大卒の働きたい企業の調査(15項目で順位付ける)では、1位欧米企業、2位韓国企業、3位香港、台湾、4位中国で、5位が日本となっている。特に悪評は異文化の受け入れが5位。日本企業では出世に機会が与えられないことが致命的だが、その他種々の点で香港、台湾より評価点が低いのが気になった。日本企業は20年間の居眠り期間中にスピード経営に絡む組織能力の向上という視点の欠如で遅れを取ってしまったといえる。未だに日本人だけで仕事をするという発想を変えていないのが気になる。
④日本人はグローバルビジネスを知らない?
B. 日本企業のグローバル音痴は何かということを指摘している
  a. グローバルに商品を売り込む手順を心得ていない
Step1 : 韓国は新興国向けに文化を伝達する。(フランス、アメリカは昔から文化を輸出している)。
Step2 : 韓流が浸透した国は韓国商品に親しみを感じる。
Step3 : 相手国消費者のニーズを盛り込んで、消費者が購入できる値ごろ感のある(品質、機能70%で、値段が70%以下の商品を提供する。貧困国相手では15%の値段で50%の性能・品質が提供できれば)商品・サービスは爆発的に売れる。
  b. 日本企業は日本企業で生産したものを、国外で売り、その利益で国内投資を考えている(売り物は日本製技術と考えている)
韓国は新興国の潜在ニーズを徹底調査し、ニーズに見合った技術を世界中から集め、安くできるところで生産し商品を売る。その利益は商品を買ってくれた国に投資し、その国の富を増やすことを考える。新興国が豊かになることで、韓国は更なる利益を挙げることができる。
  c. FTAの活用:自国の遅れた産業を保護するより、価値のある新しい産業をおこして、国全体の価値ある雇用を増やす。FTAは双方に利益があることが締結のカギである。たとえば韓国は韓中FTAを2012年5月に開始し、2年以内の締結を目指している。FTAが発行できれば韓国は対中国輸出が278億ドル増加し、中国は対韓国輸出が126億ドル増加する。しかし、中国はそれによって他国への輸出が増えるというメリットがある。
A. いわれてみると賢い対応だな。商品を買った国に投資をする発想は日本にはない。グローバル社会では「心の広さ」がないと世界中誰からも愛されない気がしてきた。
⑤リーダーシップがない?
B. 総理大臣に国家戦略がない。
グローバルという素晴らしい勢いで伸びていく経済圏ではリスクがつき物である。残念ながら国や役人、今や経営者がリスクを取らない経営を求めており、自ら発展の機会をつぶしている。国家規模のビジネスで日本はすべて遅れをとっている。リーダーとは自らリスクを引き受ける能力と胆力が求められる。
A. 痛いところを突いてくるね。実績だから仕方がない。韓国は米国とのFTAで米国の思惑を利用し中南米進出を視野に入れている。20年間の居眠りはやはり痛いね。
⑥日本にあるのは「技術の優秀性」という驕りがある!
B. 日本人は技術の優秀性に対し驕りがあるのは確かです。今でも技術は素晴らしいと思います。しかし技術は必要条件ですが、ビジネスの十分条件ではありません。いいものは売れると言うのは高度成長時代の成功条件でしたが、デフレ化では効果的ではありません。物事にはモノとコトで成り立っています。「モノ」は見えるものです。「コト」は見えないものを取り扱います。両者がバランスしないと物事は成立しません。今日本に欠けているのは見えないもの「インタンジブル」と言いますが、マネジメント(単なる管理でない)のような見えないものに本質的な人を動かす能力がありますが、ここで説明した以外に「社員の頭脳改革」と言う大きな意識改革を実施したことが今日のサムスンを大きく築き上げたと書いてありました。
A. Bさん、今日の話は大変役に立った。今の日本人はこれだけの内容を理解し、反省しているとは思えない。そこでBさん以外にお願いがある。日本再生のためにはまだまだ、いろいろなことがある。今日の話の反論、賛成論、追加論を次回お願いしたい。

以上

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