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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (10)

渡辺 貢成: 1月号

B. 新年おめでとうございます。
先月はインターネット以降の企業は「勝者の原理・原則」を理解したうえでビジネス戦略を考えなければならない、次回以降は「勝者のためのビジネスモデルを考えていこう」というところで終わりました。これが私達の宿題と思って調べてきました。
幸い本年8月に出版された本「競争に勝つ条件」経営イノベーション50研究会編の中に過去50年の経営イノベーションにヒントがあるとして、11の勝利の条件を述べています。

  成功する経営者の資質と役割が求められている
  その企業にしか担うことができない「役割」を見出す
  その企業にしか提供できない商品やサービスを開発し、世界一の座を目指す
  何かに絞って深堀りし、「本物」を生み出す
  自社の強みは何か、改めて見つめ直し、見極める
  経営者自身が「絶対に負けない、必ずかつ」という確信を持つ
  経営の「見える化」、顧客の「見える化」を実現するICTは不可欠
  情報の質と量を確保し、素早く分析して次の手を打つ
  激動の時代こそ、強いリーダーシップが求められる
  経営者自身が自分の頭で考えて経営判断する
  必要な投資に対して決して躊躇しない
  他社の真似はせず、他社ができない独自性を出す
  と書いてありました。

A. おめでとう、今年もよろしく。
Bさん、君が示した、この条件は経営者としての必須条件かもしれないな。本に書かれるということは、今の経営者の大多数が条件に満たないとこの本はいっていると思うよ。今年の10月に出版された「ミスター円」といわれた榊原英資(元財務官)氏の『「円」の真実』を読むと、経営者が円高で売れないと言っているのは誤りで、今の円は「妥当な値」だ。また、現在為替介入しても円安を人為的につくり出すことはできない。円高が原因で「日本の製品が売れない」のではなく、売れないのは従来と同じ発想で行動しているからで、円高を自己弁護に利用するなと言っている。
 上記11の条件を持った経営者は「経営の見える化」、「顧客の見える化」をし、経営者が自分の頭で考え経営判断をし、他社ができないことをしていると思うね。
 さて、経営者の資質と努力はわかったが、インターネット以降というところが大切だな。世界経済が180度転換してしまった。もはや国内戦場の意味が薄くなったということを君達は知っているかね。
C. はい。私が勉強したことを並べて見ます。

  グローバル社会とは何か
  1. グローバル・ネットワーク社会の法則
    国の規制はインターネット世界では通用しない
    国内を制覇しても、グローバル征服者に飲み込まれてしまう
    変化のスピードが速く、意思決定の早さが経営に求められる
    情報発信・受信コストがやすくなり、権力構造が決定的に変わってきた。
わかりやすく言うと製品の価格決定はメーカーから消費者に移ってしまった。
情報が集まる政府・役人・社長の権力が弱くなり、実質的に生きた情報の集まる下々へシフトした。
  2. グローバル社会は発展性も、またリスクも大きなビジネル領域である。リスクを吸収できる企業だけが成功する。
  3. ネットワークという化け物を制すると巨万の富を獲得できる
非常に大きく育つ新ビジネスの3つの特徴は
    市場が大きいこと
    皆がそこにペイン(痛み:非効率的である、業界の動きに大きな不満がある)を感じている。
    変化があって、ペインを取り除けるビジネス
    これは大きく成長する。(先月先生が話しました)
  4. 情報通信産業はデジタル・エコシステムである。
「ビジネスモデル」の時代から「エコシステム」の時代への転換
(解説:エコシステムとは生物学における生態系を意味するが、近年ではビジネスにおける特定の業界全体の収益構造を意味する単語として使われている。1企業の収益構造は「ビジネスモデル」と呼ばれているが、ある業界にかかわる複数の企業が協調的に活動して業界全体で収益構造を維持し、発展させるという考えに基づくものをエコシステムという新しいビジネスモデルの形態)
例えばスマートフォンは4層(レーヤー)構造をしているエコシステムである。
    コンテンツ・アプリケーション
    プラットフォーム
    ネットワーク
    端末である。
    企業はこの4つの構造のどこかに関与し、それぞれが役割分担してスマートフォンビジネスが成立している。
しかし、最も重要なレーヤーを制した企業が巨万の富を独占することになる。

A. Cさん、いろいろと提案してくれてありがとう。この説明はわかりやすいね。この基準に照らして新聞記事を読んでみると、いろいろなことがわかるね。

  グローバル社会との格差を自問自答して見よう
(自社のおくれ、自己の遅れがみえる)

この基準でわが社の将来性、自分の将来性を見るため自問自答してみると面白いと思うよ。今まで見えなかったものが見えてくるから不思議だ。
  あなたの会社は国の規制で保護されている業界ですか
  あなたの会社の意思決定方式は稟議制度ですか
  あなたの会社は階層構造で業務を進めていますか。その場合は何階層ですか
  各階層には適所に適材が配備されていますか。あなたの意見は通りやすいですか
  あなたの会社はグローバル社会に進出していますか
  グローバルリスクとは何か実感したことがありますか
  グローバル進出の企業は「現地の意思」と「本社の意思」が頻繁にぶつかり合います。どちらの意思が多く優先されますか
  この急激な社会変化の中で、あなた自身の仕事が発展的な方向に変わっていますか
  逆にあなたは自ら発展的な業務を選んで行動していますか
  将来のグローバル変化の中で自信を持って仕事ができそうですか

  さて、自問して現在の社会、会社の動きが身近なものとなったかな。この質問を出した理由は4つある。
第一は「グローバル人が考える変化の速い社会の要求」と「あなたの会社の変化に対する対応」の落差を認識することだ。
第二はあなた自身がグローバル社会の変化に追従できるか真剣に考え、答えを持っているかという問いかけだ。
第三は多くの日本人は気にしていないが、私が最も重要だと認識しているのは、新しい時代にマッチしていない組織が温存されて、機能しなくなっていないかということだ。米国は1990年当初に組織のスリム化を終了し、グローバル化時代に突入しているが、日本の組織はこの20年間変化していないことを理解してほしい。

  日本的商習慣の弊害を知ろう
第四はさらに重要だ。あなたが常識だと信じている日本的商習慣がグローバルでは全く機能しないことを多くの社員が全く知らないことだ。日本的商習慣の中で困った問題は発注者と受注者が対等でないという習慣である。発注者のわがままは当たり前というビジネス習慣だ。
 例を挙げるとITシステムの納入業務である。欧米では生涯コスト(LCC:Life Cycle Costing)を最低にする方式でシステムの運用費が最低になる発注の仕方を採用している。多くの日本企業の発注者は現代的感覚が豊かで、短納期、低コストが流行で合理的と考え実行している。しかも自らの要求事項を曖昧にし、次々に変更と追加を要求している。結果的にシステム追加費用と納入前のテスト費用が膨大となる。これが受注者の損失によって成り立っている。さて、システムが運用されると次の問題が浮上する。変更が多く、急ぎの仕事で作られたシステムの品質は低下し、保守費が大きくなる。計画性の薄いシステムの導入は更新的な新システム導入が求められ、この費用を含むと保守費用はシステム構築費の50から70%にもなっている。幸いなことに更新的なシステム導入は、前システム納入者になるので、受注者は先のプロジェクトの赤字を解消できる仕組みになっているが、運用費の高さで致命的な痛手となり投資が回収できない悲劇に遭遇している。だが、幸いなことに発注者は投資回収評価をしていないので、自社の損出を知らないという幸運に恵まれている。この幸運のお陰で、日本的商習慣を変えずにグローバル社会に乗り出そうと考えている経営者が多い。
 さて、Bさん、Cさんご意見を出してもらったが、両者のご意見を活かすにはどうしたら言いか考えてもらいたい。
B. 私が提案したのは優れた経営者のあり方でした。現実は理想の経営者は数少なく、普通の企業にはいないかもしれませんね。理想をいっても始まらない。私達自身が現実を踏まえて何をするべきかを考え、実行しないといけないことがわかりました。
C. 私の提案も「あるべき姿」の提案です。この提案がないと目標が定まらないので、目標に向かい、現実的な方法で目標に近づけるロードマップが必要だと思います。
A. Bさん、Cさんの意見でいいかな。

ロードマップ作成は有効か
B. ロードマップの提案は素晴らしいと思います。しかし、先生が示された自問自答をすると、わが社の実情がわかります。現状ではロードマップの作成でつまずいてしまいそうです。私達は業務改革委員会をつくり、「組織の長」をトップに据えてスタートした経験があります。この選ばれた「組織の長」は私が示した11か条に該当する人物ではなく、委員会は成果をあげられません。また、委員会は意思決定機関ではなく、答申機関ですから、矛盾が発生すると解決するのではなく、2つの意見があるという形で答申されます。
C. Bさんのご意見には同感です。日本では「モノつくり技術」、「ITは技術とツール」を主に進めれば成功すると多くの人々は考えています。技術、ツールは内容を絵に書き「見える化」しながら説明することができます。説得しやすいのでロードマップつくりは難しくないと思いますが、実行段階で挫折します。Bさんのいう委員会は各機能組織の要求が多く出されます。内容は矛盾した要求が並列的に提示されます。Bさんの示す11条の資格者は少ないので、通常ロードマップは紆余曲折しても正しい方向でまとまることはまれで、報告書はつくりますが実行されません。
A. Eさん、あなたはエンジニアリング会社で大きな海外プロジェクトを実行し成績を上げていますね。何かご意見ありますか。

グローバル企業になるための意識改革を学ぼう
E. 私はエンジニアリング会社でプロジェクトマネジャーをしています。
 まず、私どもが成功している理由をお話します。私どもは始めて海外(南米)の石油精製プラント建設をしました。建設・運転は成功し、顧客から評価されたのですが、経営的には赤字という結果となりました。効率のよい組織運営ができなかったからです。その後シェル石油の仕事をしました。英語という問題を除けば、日本の顧客と仕事をする1/2の手間で仕事ができることがわかりました。石油メジャーの仕様で仕事をすると変更もなく、彼らは無理難題を持ち出さず、当方の正しい意見はすべて認めてもらえました。日本で顧客に「あなたの案は間違っていますと説明するのに10の労力がかかるのに、シェルでは「No+理由」だけで事足ります。シェルは国際的に認められたスタンダードを使っているので、一度仕事をすると、優れたスタンダードをベースに仕事ができるので、楽に仕事ができます。基本的に残業をさせるような要求は全くありません。私達が脱日本人化すると仕事がスムーズにできることを痛感しています。
 逆のケース(塔・槽類の発注)では苦労しました。ドルで受注するために、ドルで支払うには海外の企業に発注することになります。ここでは日本の製造業者と海外の製造業者の相違に苦労しました。日本企業が求める製品の品質が違うことです。日本並みの品質を理解させるのに時間がかかりました。それ以上に困った問題は日本人が海外の人間を使うことが下手なことです。欧米人はアジア人をアニマル的感覚(マニュアルを提示し、命令で従わせる)で使っていきます。アジア人はそれになれています。日本人がフレンドリーに接すると、平気で手抜きをします。日本人はアニマル感覚で人を使うことは感覚的にできません。一時プラントの建設工事を英国の企業に請けてもらい、共同受注の形をとりました。現在は日本人も進歩し、最近の事例では受注金額1兆6,000億円、工事参加者52,000人、インドからアラブ系の人々を取り扱い、50,000人の臨時の都市建設をおこない、終了までに死亡者1名という類を見ない業績を上げています。
A. Eさん、最近では海外の人々をうまく使えるようになったのは何故ですか。
E. 多分日本人でなくなったのが原因と思います、というのは冗談です。明確な仕様書と工事マニュアルの完備というエンジニアリング的進歩があると思います。エンジニアリング会社が世界で一番大きなプラントを定額受注できるのは組織の成熟度が高いことを示しています。プロジェクトマネジャーに明確な権限と責任を与えており、想定外が起こってもプロマネの処理能力が高いことが上げられます。ちなみに米国企業は米国内の工事でも実費償還型契約を主体で、リスクを負わない契約をしています。彼らは日本企業をリスクを被って受注するという手法を笑っていましたが、リスクをとる戦略は企業に企画、計画、リスクマネジメント、予知能力、変化への素早い対応という現在のグローバル社会に要求される諸要素をマスターすることができ、顧客からの信頼感を高め、米国企業を競争力で上回ったと認識されています。

グローバル的ビジネス能力を身に着けるためには私達は何をするのか?
A. Bさん、Cさん、Eさんからグローバルビジネスで実践力を発揮するには、「モノつくり=技術」、「IT=ツール」という見えるものだけでなく、組織能力のグローバル的成長、組織ナレッジマネジメント、責任と権限の明確さ、要求仕様の明確さ、グローバルスタンダードの採用、「意思決定の早さ」と「情報伝達を阻害する組織構造の改革」というものを私達が理解しないと、「As is」と「To be」だけでは処理しきれないということを教えたもらった気がする。日本企業がグローバル的能力を得るための意識改革無しに将来はないという観点で、2月号では「今回の提案+何をすること」でグローバル企業になるための方法を提案してください。

以上

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