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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (9)

渡辺 貢成: 12月号

A. 日本は今元気がない。しかし、本質的に日本は素晴らしいものをもっている。持っているから世界一になれたと思っている。そこで日本再起のために、今月は君に日本の良さを説明してもらうことになっていた。準備できたかね。
B. 準備してきました。調べてみると日本は素晴らしい国ですね。しかし、日本の良さを話す前に気がついたことがあります。まず、それを言わせてください。
  言い方は少し悪いけれど、日本のエリートは昔から外国かぶれで、日本の良さが見えていないところがあります。彼らは日本の良さを逆に遅れと理解してきました。
  多くの日本のエリートは卓上派(勉強した知識礼賛派)であって、現場を知らない実力派エリートではないようです。このため、現実と向き合って日本の遅れを究明することをしないで、表面的に現れた現象を捉えて、エリートとしての立場を強調する習性をもっています。
  日本人は基本的に権力に弱いので、新聞等活字になった言葉を信じてしまう習性を持っています。
  マスコミはこれを悪用して、新聞が売れるためのウソを平気で書いていますが、20%程度は真実を書くことで、80%のウソも本当らしく操作しています。
  そのため正直者の日本人は記事にだまされて、自分を卑下してしまいます。ですから世界一になったときも、新聞は正しく報道しなかったので、日本人は世界一になった実感をもてませんでした。
A. 君は面白いことを言うね。君の言っていることは本当かもしれないが、何故、この話を取り上げたのかね
B. 私が日本の良さを説明しても、マスコミに毒されている多くの人は、私の説明を正しく理解してくれないと思っているからです。悪気はなくても業界の常識というものがあります。それが時代にそぐわなくても、多くの人が信じている事実を否定すると、彼らは腹を立て、聞く耳を持たなくなります。そこで、事前に先入観なしで聞いてほしいと願ったから話しました。
A. 面白いだけでなく正しい発言と認定しよう。明治時代の政府は「文明開化」を旗印に政策を進めるために、江戸時代を全面的に否定する方策を行った。当時の教育は欧米文明が正しく、日本文化は劣っていると国民を教育した。この政策は見事に成功し、江戸時代の美術品の価値が2足3文になってしまった。来日した日本政府お雇いの外国人教師が江戸文化に興味を示し、没落公家、武士が所持する美術品を買いあさって、米本国に送ってしまった。当時のお雇い外人教師の給料をべらぼうに高かったため、国宝級の美術品の多くが、米国に移ってしまった。しかし、彼らはありがたい事に系統的に美術品を評価、収集してくれたお陰で、美術品の逸散を防ぐことができ、立派な美術館で丁寧に保存さているのは不幸中の幸いだった。そのおかげで、米国に保存された浮世絵は江戸時代の色彩をそのまま残しており、日本に現存する浮世絵では見ることのできない当時の色が保存されていた。さて、雑談はこの程度にして、早速君の意見を聞かせてほしい。
B. 日本人の特徴を考えてみました
  モノづくりの職人は作品に自分の魂を植えつけた。これは職人だけでなく、一般人も製作したモノを擬人化してまで大切にしてきた(ロボットに名前までつける)
  庶民の美的センスが高い(センスの良い消費者がいる)
  日本人は美食家である(日本には世界中のうまい料理が食べられる)
  日本人は基本的に創意工夫が好きである。(阿吽の呼吸があり暗黙知X暗黙知で商品開発に優れている)
  自然を愛している。これを大切にしている(多くの自然が残されている)
  厳しい自然の中で暮らしてきたため、自然の脅威に対処するために関係者が集団として協力する習慣が身についた。同時に我慢強さも持っている。(自然への敬意)
  日本は一神教でないため、神への絶対服従的な厳しさがなく、多神教なため、少しの相違は完全に合意しないものの、受容性(ある範囲で認め合う)を持ってまとめている。(日本は宗教戦争がなくてよかった)
  好奇心が強く、昔から新しいものずき。(江戸時代に世界の多くの情報を持っていた)
  勤勉
B. まだいろいろあると思いますが、気がついたところは以上です。
A. やあ、ありがとう。君の説明で、日本人の「ものづくり日本」を世界に認めさせた理由がよくわかった。では日本は何故、元気がないのだろうか。ここでまた質問だが、日本が低落してきたことと、社会で何か大きな変化があったことに関連がありそうだがわかるかね。
B. わかります。日本が競争力1位だったのは1990年でした。まず社会に現れた現象はバブルの崩壊です。これは1995年ごろまでです。1996年になるとインターネットが普及し始めました。これで世界が大きく変わりました。
A. 正確に理解しているね。米国は1978年に日本の製造業との戦いでの敗北を認識し、マルコム・ボルトリッジ賞を創出した。日本には「製品の品質では勝てない」から、「経営の品質を高めよう」ということになり、米国経済の再建をはかった。
まず、1990年MIT教授だったマイケル・ハマーがBPR(Business Process Re-engineering)を発表し、企業改革のために既存の企業組織やビジネスルールを抜本的に見直す必要のあることを提案した。これを受けて多くの米国企業はBPRに取り組んだ。この間日本企業はBPRを一種の改善で、日本のお家芸だからと関心を示さなかった。
B. 日本の改善は「製品の改善」で、BPRは「ビジネス組織の改善」ですからその違いに気がつかなかったのではないですか。
A. そのとおりだね。ところでインターネット時代になり何が変わったと思うかね。
B. 情報が国境を越えて飛び交いますから、グローバルなビジネスの機会が増えたことですね。しかし、日本企業は国内向きの製品開発に終始したのではありませんか。
A. 君のいうグローバル向け製品の開発という発想は悪くない。だが、それ以上に大切なことがあるんだ。マルコム・ボルトリッジ賞で米国企業は「経営の品質を変える」という方針を出したことを覚えているね。1990年代は「組織のスリム化」を実行した。2000年になり米国企業が考えたことは、インターネット時代は「経済の変化のスピードが速くなる」ことだ。そのためには経営に「意思決定の速さ」が求められると考えた。そこで米企業の経営者は何をしたと思うかね。
B. そこまで考えていませんでした。
A. マネジメントを変えようと考えた。これまでのマネジメントは「モノ」をベースに管理することだった。たとえばトヨタのカンバン方式だ。ラインに部品がなくなると、補給する部品がラインに届く。在庫管理も製品で管理するというように「モノ」で管理していた。これを電子化された情報(ビット)で管理すると、安くて、正確で、その情報は世界中どこへでも飛ばせる。管理がグローバルになるよね。これを米国ではDBD(Digital Business Design)といって「経営のデジタル化」方式で組織のスピード化を促進させた。米国かぶれの日本人がこれに飛びつかなかったのが不思議だね。なぜなら、これで生産性が10倍にあがった企業もあるからだ。米国では経営全体がますますICT(Information Communication Technology)を利用する方向に動いた。
B. 私はITが専門でが、多くの日本の経営者はITが苦手なようです。IT技術は新しいものが続々現れますから、やっと覚えても、また、新しいものでてきます。経営者も楽ではないですよ。そこでIT投資になるとIT専門部署に任せてしまうようです。
A. 確かにそうだね。私もIT関連の本を読むと、省略アルファベット文字の意味がわからない、また解説を読むと中の単語が理解できない。あれにはまいるね。しかし、経営者はITのことを考える必要はないと思う。経営者がするのは、インターネット以降の大きな変化を踏まえて、自社の特徴を効果的に活かせる戦略を考えることだろうと思うよ。経営者のビジョンを明確に示せば、その方針を基にどのようなICT化をするかCIOとその配下に考えてもらえばいい。
B. わかります。その通りでしょう。しかし、戦略的に考えるとは具体的にどんなことですか。
A. ICTの世界では「仕組みつくり」が大切だと思うよ。「モノのづくり技術」というキャンペーは正確には正しくない。技術は単に成功のための必要条件ではあるが、一要素に過ぎないからだ。面白い例を話そう。IBMはすごい会社だった。大型コンピュータで世界に君臨した。IBMはコンピュータのOSをうかつにもビル・ゲーツに任せた。時代はパソコン(PC)が出現する時代となった。ゲーツはPCにウインドウズという優れもののOSを搭載した。このPCの使い勝手が優れていたため、世界中の多くの人々が購入するようになった。これがいわゆる「デファクトスタンダード」というもので、世界中のアプリケーション・ベンダーがこのOSに合わせたアプリケーションを提供すると、このPCはますますゆるぎない力を持ち始めた。PCの性能が向上すると、メーンフレーム時代からPC時代へと変化した。ここでIBMもPCを発売する羽目となり、一時期PCでも世界一となった。ところがウインテル(ウィンドウズとインテルの連合軍)は更にすごい戦略を考えていた。高級品商品としてのPCのコモディティ化戦略である。ウィンテル以外の部品を新興国で製作できるように関連技術を公開した。次にPCの製造標準マニュアルを新興国に提供することでPCのコストが新興国の人々が買える値段まで下げることに成功した。ここでIBMはPC製造を断念し、IBMは経営危機に直面した。では今までの話で、私は何を言いたいか、君はわかるかな。
B. おおよそ見当がつきます。「ものづくり技術」などといっても、グローバル競争では「勝てる仕組みをつくった」ところが勝ち、どんな大企業も、仕組み作りに失敗すると、覇権を奪われるということですね。
A. そのとおりだな。仕組みつくりに成功すると、これがグローバル・スタンダートとなり、全世界の人々が購入するため、以前では考えれない莫大な収益をえられる。そして過去の成功者は敗者となるという現実だ。これが、このエッセイのタイトルに記した「グローバルに通用する常識を学ぼう」の本当の意味だ。「インターネット以降の勝者の原理・原則」がある。非常に大きく育つ新ビジネスの3つの特徴を調べてみた。
  市場が大きいこと
  皆がペイン(痛み)を感じているものが存在する。理不尽に値段が高い、効率性がわるい等の何らかの不満が多い製品やサービスが対象
  変化があって、そのペインを取り除くことができるビジネスが、大きく成長する

ビジネスの世界にも基本がある。
基本が守られていないビジネスが長続きしない。
しかし基本は必要条件であるが十分条件ではない。基本+人を喜ばせる価値を追加できる人が勝者となる。

MS(マイクロソフト)の勝利は「プラットフォーム」を構築するという原理に基づく。
第一にコンピュータのOSを抑えたこと。 ウィンドウズというOSが優れていたため、それを搭載したPCがデファクトスタンダードとなったこと。OSはアプリケーションのための「プラットフォーム」としての機能を持つため、多くのアプリケーションベンダーがウィンドウズ用の製品を製作したため、このOS搭載のPCのデファクトスタンダードは更に強固なものとなった。
第二の成功要因はPCの価格が高いという「ペインを除去する仕組み」を構築した。従来はPC製作者が「垂直合型自前主義で自社系列企業が部品購入から製作まで行っていた。ウインテル連合は「グローバル水平分業型組合せ方式」という仕組みを提案した。具体的には「組み立て専用の企業」がブラックボックス化されたウインテル部品を入手し、それ以外は標準部品をグローバル化市場から最安値で購入し、新興国の人々が購入できる価格で発売し、新興国という巨大なマーケットを制覇した。

インターネット以降の企業は「勝者の原理・原則」を理解したうえでビジネス戦略を考えなければならない。
次回以降は勝者のためのビジネスモデルを考えていこう。

以上
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