協会理事コーナー
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インハウス・エンジニアリングとは

星野 隆 [プロフィール] :2月号

 「医薬品会社のインハウス・エンジニアリングとは、一体何をするところですか?」という質問を受けたことがある。正直どのように答えてよいものかと迷ってしまいました。というのは、武田薬品工業のエンジニアリング部門に所属していても、私自身は半分以上の会社人生を医薬品以外の食品・化学品・ファインケミカル・研究所の建設プロジェクトに費やしたからです。そして、プロジェクトの形態も様々だったからです。
 例えば、契約形態の観点から見ますと、エンジニアリング会社やゼネコンへの一括発注方式から、基本設計とEPCの分離発注、或いは機器から計器まで個別に購入し、各工事は建築・据付・配管・電気・・・・といった専門職種ごとに発注する方式(社内ではバラコンといっていますが)、或いは設計会社が入り、工事は各専門会社へ発注する方式など、様々な契約形態のプロジェクトを遂行してきました。さらには発注側が武田だけではなく、あるパートナー会社とのジョイントのプロジェクトという場合もあります。プロジェクトの規模やスピード、その背景、形態や契約範囲により、インハウス・エンジニアリングの範囲は大きく異なり、定まった方式はありません。
 以上は対外部との接点ですが、社内接点にもその範囲は様々です。例えばエンジニアリング部門の上流側部門からの成果物の作成能力しだいで、上流側のプロセス検討部門で、フローシートやマテバラまで揃って出てくる場合もあれば、プロセスの実験データとその時の条件だけを渡され、とにかくこの実験に基づいた生産設備を検討して欲しいとの要求を受ける場合もあります。
 以上をまとめると、インハウス・エンジニアリング部門では、社内上流側部門の要求を、外部に発注する橋渡しの役で、化学工学から建築・機械・電気等の工学技術を使ってエンジニアリングを行い、かつプロジェクトとして発揮できるように組立を行っている部門です。しかも定まった方式は無く、そのプロジェクトごとに範囲・形態が異なります。何故、プロジェクトごとに異なるかというと、プロジェクト全体のニーズの優先度が、プロジェクトごとに違うからです。あるプロジェクトでは、とにかく工期優先とか、設備品質最優先とか、コスト重視とか、機能面を第一優先にするとかにより、そのプロジェクトの組立が異なってきます。
 よく、外部側のトップからは、「我々なら何でもできます」ということをよく耳にします。「何でもできるという言葉の裏には、何もできない。」とも聞こえてくるのですが。例えば、この分野は得意だが、ここは不得意と明確に言っていただけると、信頼感が高まりますが。そうは言えないのでしょうね、営業の方は・・・・。
 またエンジニアに求められるものは、インハウスに限らずでしょうが、専門技術は当然のこととして、それに関連する広範囲の技術を有していることがまず挙げられます。しかしそれだけでは単にエンジニアリングをこなすというレベルであり、Excellentと言えるレベルではないのです。よく、エンジニアの方で、「私のやり方が絶対正しい」と主張される方がおられます。しかし、エンジニアは上流側から求められているものは何かを聞き出すことが重要であり、その結果のデザインを上流側に説明確認しながら、エンジニアリングをDevelopしていく必要があります。その為にはエンジニアは謙虚で、技術だけではなく芸術を愛しスポーツを好むようなバランスのとれた人材が要求されます。エンジニアリングには絶対的な解はなく、Betterな解を求めていくことが重要だと思います。
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