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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~価値を明確化し、提供することができる力~

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 「あなたのミッション、ビジョンは何で、あなたはどんな価値を提供できるのか?」2012年の秋以降、この問いに対する答えを考えてきた。これまでも、なんとなく考えたことはあった。しかし、時間をかけて本格的に考えたのは初めてだった。月1回のペースで既に3回通った出版塾。人々に手にとってもらえる本を書くためには、まず、自分が何を世の中に提供できるのかを知る必要がある。”USP: unique selling proposition” 他の人が持っていない私自身の売りは何か、それを様々なワークを通じて考える。自分がお金と時間をかけてやってきたこと、関わってきた仕事、趣味、人脈を棚卸してみる。その上で、周りの人にも聞いてみる。一連の作業を通じて抽出された私のUSPは、「グローバルなコミュニケーション、楽しくかつプロフェッショナルな英語指導、ストーリー」だった。最後のストーリーというのは、小説にせよ、映画にせよ、ニュースにせよ、すぐ感情移入ができて、朗読や演技は得意なほうというのからきている。しかし、このレベルではまだ、一部の人にしか理解してもらえない。少なくとも、「グローバルなコミュニケーションが得意です」でピンときた人は、出版塾の中にはほとんどいなかった。塾長によると、小学生にも納得してもらえるUSPが言えて、初めて世の中に受け入れられるとのことだ。
 11月に参加した「グローバリーダーのセミナー」では、「ミッション、ビジョン、バリューと行動規範」を問われた。どんな役割を今果たしているのか、3年後どういうことをしていたいのか、何を大事にして、どのように行動するのか。日本では、組織でさえこういったことをきちんと定義しているところが多くないと思える中、セミナー参加者の大半が、「個人でここまで考えないといけないのか!」と衝撃を受けていた。講師によると、これらを提示できることが、グローバルリーダーの要件だ。言われてみると、そう思える節がある。会社の上層部から降りてくる指示を単にこなすだけの人、軸が無く、何かを言われる度にぶれる人には、ついていきたいとは思わない。特に、このシリーズのテーマである、多様な人々が共に仕事をする「ダイバーシティー時代」には、PMも、そしてプロジェクトのメンバー一人ひとりも、「自分がどんな役割を果たし、何を目指してどんな価値を提供するのか」を明確にしていく必要があるのだろう。ましてや、何年か先には、各人が自分の強みを提供して複数の組織と契約を結んで仕事をする時代が来ると、予測する人もいる。そうなると、ますます、「価値を明確化し、提供することができる力」、セルフブランディングへのニーズは高まる。
 こういったことについて、より一層真剣に考えるきっかけになった出来事があった。会社で実施されている早期退職支援プログラムだ。せっかくの機会なので、いろんな方に会いお話を聞いている中で、「井上さんの人事の仕事における強みは何ですか?」と聞かれる場面があった。その際、自分なりには回答したつもりだったが、どうもそれはまだ漠然としすぎているようだった。「それって具体的にどういうことですか?」という問いに満足な答えを提供することはできなかった。レジュメにしてもそうだった。他の人のレジュメは数多く作成してきたが、自分のレジュメを作成する作業がこんなに難しいとは思ってもいなかった。独りよがりではない、読み手にわかるレジュメに変えていく必要がある。社内に残る場合も、これからは、「自分は何で勝負していくのか?」を言えることが求められている。
 2013年は、「私が提供できるのはこれです」と、小学生でもわかる形で伝え、実際に世の中に提供するものの価値を高めていきたい。はっきりとした目標として見えているのが、本の出版と、マルチ・カルチャー・コミュニケーション塾の開催だ。後者は、これまで「言葉としての英語を指導する」ことを中心にしていた「英語塾」を、「異なる文化を持つ多様な方々と、どうコミュニケーションをしていったらいいのか」を含めて支援する形に変えたいという想いから、名称を変えたものだ。その時々の参加者の要望に従って、英文記事を読んでディスカッションをしたり、仕事で必要な英文メールやスピーチのチェックをしたり、所属する組織や自分が関わっている仕事を説明する自己紹介をしたりしている。最後にあげた、仕事を説明する際には、最初は表面的な説明かもしれないが、最終的には、「提供する価値」にまで踏み込んでいきたい。「提供する価値」を英語でしっかり伝えることができることは、これからの時代を生き抜いていく上で、とても大事なことだと心の底から思っているからだ。

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