PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(57)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :12月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

4 涙
●肯定的落涙の原因
 前々号で論じた肯定的原因に基づく「肯定的涙(Positive Aspect Tears)」と否定的原因に基づく「否定的涙(Negative Aspect Tears)」について再度を振り返ってみたい。

 肯定的落涙の原因には、①自己原因、②他者原因、③その他原因がある。

 ①は、自分の努力の結果に他者から高く評価された場合である。例えば、スポーツ選手が苦難の末、オリンピックの金メダルを獲得した時、目指す大学に苦労の末に合格した時、或いは長年の演技努力にアカデミー賞主演女優の栄誉を与えられた時などに本人は落涙する。

 ②は、自分の努力の結果ではなく、誰かが何かを自分に与えた場合である。例えば、ある女性が生涯思い続ける永遠の愛を自分に捧げていた事実を知った時に本人は落涙する。

出典 永遠の愛 出典 永遠の愛
naturalawakeningscnj.com

 ③は、誰かが誰かに何かを与えた場合である。例えば誰かが誰かの命を命がけで救出した様な感動的行為を目撃した時、またTV番組、映画、演劇などの「メディア」を通じてその感動的行為の事実を知った時、或いは感動的な「演技」に観客が共感した時などに本人は落涙する。こららの落涙はエンタテイメントに深く関係する。

●否定的落涙の原因
 否定的落涙の原因は、①自己原因、②他者原因、③不可抗力原因、④目撃原因などがある。

 ①は、自分が何かに失敗した場合である。例えば、もっと注意深く運転しておれば、死亡事故など起こさなかった。世界や日本の新しい動きに対応した新事業を立ち上げておれば、倒産しなくてすんだなどである。取り返しがつかない事態に後悔し、反省しても手遅れ。そしてその様な事態に招いた自分を責めて落涙する。しかし幾ら泣いても精神浄化の効果はない。

出典:涙 出典:涙
sultanknish.blogspot.jp

 ②の他者原因には、②―(1)として他者の私利私欲や責任回避などの「裏切り」によって自分が失敗させられた場合である。例えば、自分が心血を注いで立ち上げた事業プロジェクトを当該社長が失敗を恐れて中止する時、社内出世競争に勝つためライバルの自分に故なき責任を取らさ、現職を追われた時、最も不幸なケースとしては冤罪の罪を自分に着せられ、監獄で悪夢の日々を過ごす時、怒り、憤慨、憎しみで落涙する。この場合は幾ら落涙しても精神的浄化の効果は全くない。

 ②他者原因には、②―(2)として以下の場合がある。例えば、戦争によって愛する肉親、恋人、子供などの命を奪われた時、不注意による交通事故で命を奪われた時、強盗や窃盗に遭い、犯人の顔を見たため殺された時などは残された家族が怒り、憤慨し、憎しみで落涙する。この場合も幾ら落涙しても精神的浄化の効果はない。

 ③は、本人にとって不可抗力な事態に遇った場合である。例えば、伝染病、地震、津波などで命を奪われた時である。残された家族の悲しみは、言い表せない。最近、放射能の危機まで起こった。福島原発事故による放射能を浴びた子供達が将来、人体にどの様な影響を及ぼすかは現時点では全く分からない。その影響で将来、本人や家族が落涙するかもしれない。この場合も幾ら落涙しても精神的浄化の効果はない。

 ④は、不幸な事態を知ったり、目撃した場合である。例えば、TV番組、映画などで悲劇の事実を知った時、映画、演劇などの悲劇の「演技」に観客が共感した時などに落涙する。この場合は、落涙すると精神的浄化の効果がある。またエンタテイメントの機能が働く場合である。

●戦争と裏切り
 否定的落涙原因は、紙面の制約からこれ以上の原因追及しないが、肯定的原因より遥かに多いことは確かである。言い換えれば、我々は「笑う」ことよりも、「涙」することが遥かに多いことを意味する。残念なことである。だからこそ人々に「笑い」、「喜び」、「楽しさ」を与えるエンタテイメントが重要なのである。

 人類の歴史に於いて最も多くの涙を、最も多くの人に、同時期に流させた原因となったものは「戦争」である。この戦争による落涙は、幾ら泣いても精神的に癒されず、深い傷が残る。20世紀は「戦争の歴史」と言われた。21世紀もその様に言われるかもしれない。しかも過去の戦争の歴史にあまり無かった形態の戦争、即ち「敵の姿」が見えない戦争が21世紀になって目立って増加してきた。その代表例が2001年9月11日に起こった米国での同時多発テロである。

出典:NY世界貿易センターに激突した2機の航空機によるテロ 出典:NY世界貿易センターに
激突した2機の航空機によるテロ
wikimedia.org/wikipedia

 次に否定的落涙の原因として多いのが「裏切り」である。これよって失敗さられ、夢を破壊され、怒り、不満、恨みの「悪夢の様な日々」を送る人々が数多くいる。筆者もその一人である。

 「戦争」と「裏切り」は、小説、映画、TV番組、演劇などの分野に於いて様々なテーマで扱われ、多くの問題提起がなされた。そして多くの人々の共感、実感を生み出し、多くの「涙」を誘った。

出典:涙と心の傷 出典:涙と心の傷
Yahoo USA Images

 なお「戦争とエンタテイメント」、「裏切りとエンタテイメント」のそれぞれの関係を議論したいが、そうすると、議論の範囲が拡大し、本論の焦点がぼけ、読者に混乱を与えると懸念される。そのため機会を捉え、別の号で議論する。その代わり、身近な問題である「裏切り」を取り上げたい。どの様な人物が裏切るか? その人物をどの様に識別するか? 識別したら如何に対処するか? などを紙面の許す限り、次号で議論する。「戦争」は、別途の機会としたい。
つづく

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