PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(111) 「不適格なPM群像 2」

高根 宏士: 11月号

1.2 仮面例(権力拡大志向)
 先月は不適格なPMの例として「いい子いい子・短所是正型」の中で典型的な例を挙げた。この例は上司から見ると素直に自分の言うことに従うだけのまじめ人間であるが、今回の例では、自分の権力を拡大しようとする思いが根っこにあり、そのために上司に対して「いい子いい子」を演じ、上司からの信頼を得て、その信頼関係を誇示し、部下や関係者を自分の思い通りに動かそうとするタイプである。このタイプは抜け目ない頭の持ち主が多い。上司の考えを、上司以上に具体的展開することができ、周囲から切れ者という評判を取る。しかし上司が替わると、新しい上司の考えに合わせて具体的展開を図る。したがって一定の時間経過した中で見るとつじつまが合わないことになる。しかし本人はそのようなことには頓着せず、ひたすら上司の先兵(らしく振る舞う)として能力を発揮する。その本質は自分の権力基盤の拡大である。
 このようなタイプに見られる現象としていくつかのパターンがある。
 第一の例は「プロジェクトの成果を自分のものにしてしまう」ことである。プロジェクトメンバーの一人が考案したアイデアをさも自分が出したアイデアのごとくにして、上司や顧客などの関係者に説明することである。このようなPMは事情を知っているメンバーからの潜在的な軽悔と冷淡さを招くことになる。
 第二の例は「えこひいき」である。すなわちメンバーの評価について、行動、成果、結果、課題に対する姿勢や考え方を基に判断するのではなく、自分が気に入っているかどうかからのみ判断することである。このようなPMに気に入られる人間は、当然同じように仮面いい子いい子である。したがってこのような場合、気に入られたメンバーの傲慢性を助長し、気に入られなかったメンバーの士気を挫くことになる。プロジェクトは主流派と反主流派に分かれ、チームワークは崩れる。
第三の例は「わからないまま介入する」、「すぐに破壊したがる」タイプである。このタイプは、プロジェクトが順調に進捗していないとき、その要因についての深い検討や吟味をせずに、体制を弄くり回したり、要員のすげ替えや、やみくもな投入を図る。このタイプは仮面例の中で最も低レベルであり、自分としてプロジェクトの見通しを全然持っていない。それでいながら、自己保身や焦りから、上司に対して、「私はこれだけ手を打ちました」という言い訳の証拠を作っているだけである。このようなPMはまともな見解を持っているメンバーをスケープゴートにして自分は助かろうとする。またこのタイプは上司と親密な顧客に対しては一所懸命勤めるが、そうでない場合はあまり力を入れない。
 昔、その当時としては比較的大規模なシステム開発のプロジェクトがあった。ところがベンダー側のPMがプロジェクトマネジメントについてほとんど無知であり、しかもこの第三の例のタイプであった。ユーザー側PMはベンダーの作業結果の品質があまりに悪いので品質を上げる対策を検討し、改善するように要請した。ところがベンダー側PMは品質が悪い要因は何かを検討もせずに、やみくもに要員の投入を図った。終に追加投入した要員だけで100名を超えてしまった。ユーザー側PMはベンダーに対して「もう結構です」といって、プロジェクトを中断し、システムは一部機能だけの運用になってしまった。ベンダー側PMは上司に対して「あのユーザーは煩さすぎる」といってベンダー内部では煩いユーザーの被害者を装い、遠からずして昇進した。最後はある会社の社長にまでなった。しかしそこで社員からはこれまでの史上最悪の社長という陰口をたたかれていたようである。
 後日談であるが、ユーザー側PMが筆者に語ったのは「私は品質の見通しをきちんと立ててくれと言っただけなのに、100名も要員を追加投入して、反ってプロジェクトを混乱させて、対応したつもりになっている。こんなPMも世の中にいるんですね」という言葉だった。
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