PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(110) 「不適格なPM群像 1」

高根 宏士: 10月号

 プロジェクトが成功するかどうかの大きな要因にPM(プロジェクトマネジャー)の総合的人間性があることについてはこれまでに折に触れて述べてきた。今回から数回にわたって、この意味で不適格なPMの例について述べてみたい。

1 いい子いい子・短所是正型

 この例は自分としての価値判断基準を持たないで、その基準を上司の判断基準に合わせていくPMである。まだ判断基準を持たないで親や周りの大人たちの反応を見て褒められれば喜んで、それを繰り返し、叱られたり、いやな顔をされると止めて、周りから「いい子いい子」といわれている幼児と同じタイプである。PMの上司は通常プロジェクトが所属する母体部門長であるが、稀に母体部門長の上司の場合がある。この場合は母体部門長に実質的力がなく、その上司が権力を乱用する傾向がある場合である。すなわちこのタイプのPMは「力のある上司が公理」になる。このタイプのPMではその上司が変わるたびに、プロジェクトの方針が変わることになり、プロジェクトの筋が見えなくなる。そして人心を不安にさせる。メンバーはプロジェクトの本来の目的に向かって進むことよりも、PMの言動にばかり注意が向くようになる。見通しを持ったメンバーはしらけてしまい、見通しのないメンバーは右往左往することになる。

1.1 典型的な例

 あるSIベンダーにあった、システム開発プロジェクトの話である。そのプロジェクトは、ユーザー企業の組織(ステークホルダーの関係)が非常に複雑であり、全体の要求を1つのシステムとしてバランスのとれた形にまとめることは困難であった。ベンダー側だけでは不可能であり、ユーザー側内部における強力なリーダシップが必要であった。このときベンダー側プロジェクトの母体部門長はPMに対してソフトウエア開発(プログラミング)を急がずに、要求の明確化とシステムとしての具体的なまとまりが見えるようにすることを方針とした。そして納期に抵触する場合は自らユーザーと折衝して説得することを覚悟していた。すなわち品質第一を方針とした。PMはその指示に従って、一所懸命努力していた。それは誰もが感心するほどの頑張りであった。ところが母体部門長の上司はそのような実態を理解しないまま、工程の遅ればかりが目について不安になり、ついに母体部門長を更迭し、自分の息のかかった部下を母体部門長にした。彼はとにかく工程を進めることを最優先し、プログラミングを急ぐようにPMに指示した。PMは彼の指示通りにメンバーに対してプログラミングにかかるようにフォローした。その時の具体的指示は「仕様が多少曖昧でもコーディングに掛かれ。プログラムが出来さえすれば何とかなる。」であった。これはそれまでの指示とは逆であったのでメンバーは混乱した。しかし評価基準がコーディングした量になったので、皆コーディングに精を出した。そしてプロジェクトは進んだ。しかし組み合わせ(統合化)テスト段階に入ると仕様の曖昧さが仇になり、進捗は停滞するどころか、実はそれ以前の段階の作業が杜撰だったことが明確になり、ユーザーからのクレームで、母体部門長は再度交代になり、前の長がカムバックした。PMはカムバックした母体部門長の方針通り、品質第一をメンバーに指示した。
 母体部門長の何度もの交代劇の間、PMは本当に一所懸命、身を粉にして頑張った。しかし彼はプロジェクトメンバーから本当の意味で信頼されるようにはならなかった。彼らはPMを単なる事務官としか考えないようになっていた。そしてユーザーからはその存在をあまり意識されなくなった。残念なことである。
(続く)

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