「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」
(山中伸弥著、聞き手:緑慎也、講談社、2012年10月10日発行、第1刷、190ページ、1,200円+税)
デニマルさん: 11月号
今回紹介する本は、現在最もホットな話題の本である。話題のポイントは本と言うより、ノーベル賞を受賞された山中先生とその功績かもしれない。この本が発行される数日前に2012年のノーベル医学生理学賞が発表された。日本人として19人目、医学生理学賞としては利根川進さん(1987年受賞)に次いで2人目である。その発表では「体のあらゆる細胞に変わる能力を持つ万能細胞『人工多能性幹細胞(iPS細胞)』を世界で初めて開発したこと」と述べている。iPS細胞については後述するが、何故この細胞が世界的な注目を集めているのか。本来、生物の細胞は、精子と卵子の受精卵が分化成長して個体となる。人間の場合は、200種以上で60兆個の細胞から成っているという。その大元である受精卵でない細胞(人の皮膚等)から臓器が作れるのが「iPS細胞」なのである。この本は従来の万能細胞(ES細胞)を超えたiPS細胞研究の苦労や、遺伝子研究の過程が分かり易く書いてある。
山中伸弥先生とは、どんな先生? ―― ジャマナカからヤマチュウ ――
山中先生の現職は京都大学iPS細胞研究所長であるが、学校卒業後は外科の研修医であった。当時は、外科助手として手術に立ち会ったが、指導医から「邪魔だから、ジャマナカ」と叱咤されていた。基礎医学に進路変更して多くの実験を重ねる中で「ヤマチュウ」に格上げされと書いている。その後、アメリカの研究所に分子生物学研究員として留学し、現在の遺伝子研究の道に入った。iPS細胞を見出し創り出したのは、帰国から14年後である。
iPS細胞とは、どんな細胞? ―― ES細胞とは基本的に違う ――
iPSとは、induced Pluripotent Stem cellの略で人工多能性幹細胞と言われ山中先生が命名した。このiPS細胞に類似した万能細胞は、1981年からES細胞(Embryonic Stem cell、胚性幹細胞)として存在していた。このES細胞は、受精卵を取り出して実験室で培養して創り出していた。この実験の延長線上にクローン山羊の誕生(ドリー、1997年)があった。しかし、ES細胞は受精卵を体外に排出するので、生命を実験に使う倫理上の問題があった。
iPS細胞の将来は、どんな活用? ―― 難病治療等の医学的活用 ――
iPS細胞は、皮膚などの細胞から心臓等の臓器や神経などを創り出すという画期的なものである。どうしてそれが可能となったのかに興味のある方は、この本をジックリ読んで頂きたい。このiPS細胞は、目的の細胞から臓器を創り出すことも可能なので、『再生医療』(元気な臓器細胞を大量に創り出し、患者さんに移植することで臓器の機能が回復出来る)や『創薬』(新薬を作る過程での実験反応や効果検証)に役立つことが大いに期待されている。
|