プロファイリングマネジメントとシステムズアプローチ 再々考 (その2)
Second Thought on Systems Approach in P2M Profiling Management
概要
前論にて、製造業のバリューチェーンは、①価値創発モデルとしてのプロファイリングモデル、②価値創造モデルとしてのシステムズプロファイリングモデル、③価値実現モデルとしてのシステムズエンジニアリングモデル、及び④価値提供(維持)モデルとしてのサービスエンジニアリングモデルから構成されることを述べました。本論では、その後の実証研究を踏まえ、P2Mへのインプリケーションに対する再々考を行い、次世代バージョンとしての共創マネジメントを提案したいと思います。
3. P4M
製造業のバリューチェーンにおける「価値創発・創造・実現・提供モデル」として、P4M (Profiling, Program, Project and Process Management)を抽出し、P2Mの知識体系にマッピングしながら、「受注者のPM」、「発注者のP2M」、及び「創業者のP3M」、「顧客のP4M」を提起します。
3.1 受注者のPM(Project Management)
価値実現モデルに対応するプロジェクトマネジメントは、受注者のPM (PM for Contractors)として位置づけられます。
プロジェクトマネジメントは基本的に、要求仕様が明確になった後に、つまりは問題が明確で、実現すべき目的が与えられているときに、そのための適切な手段(How to do)を決定します。ここでは従来型のシステム工学、システム分析、オペレーションズリサーチ(OR)などハードシステムズアプローチ(Hard Systems Approach:HSA)が機能します。
関係者が目的について合意している状況で有効であり、ハードモデルを前提とした問題解決指向になります。問題に内在する構造は物理的に客観的に記述されるので、戦術的であり、良構造問題に対して有効です。数学的に洗練されているものが対象になります。
P2Mガイドブックでは、主に4章5のプロジェクト目標マネジメント(ライフサイクルマネジメント、スコープマネジメント、タイムマネジメント、コストマネジメント、アーンドバリューマネジメント、品質マネジメント、報告・変更・課題管理、引渡し管理)として記述され、テーマ解決に向けた施策の実践手法を学びます。
3.2 発注者のP2M(Project & Program Management)
価値創造モデルに対応するプログラムマネジメントは、発注者のP2M (P2M for Owners)として位置づけられます。
プログラムマネジメントは基本的に、問題、目的自体がよく分からないとき、つまりは、関係者が目的について合意していないときに、実現すべき目的(What to do)を決定(合意)します。ここではSSMなどのソフトシステムズアプローチ(Soft Systems Approach:SSA)が機能します。
解決案作成より価値観、見解をアコモデート(accommodate:折り合う)するために、ソフトモデルを前提とした課題設定指向になります。問題状況に対する理解と学習を支援する学習プロセスであり、何が問題なのかを明らかにし、その構造化を行います。戦略的、悪構造問題に有効であり、主観、知覚、価値観といった人間的側面を強調します。
改訂P2Mガイドブックでは、3章プログラムマネジメント(ミッションプロファイリング、アーキテクチャマネジメント、プログラム戦略マネジメント、プログラム実行の統合マネジメント、アセスメントマネジメント)として記述され、テーマ解決に向けた戦略を構築します。
3.3 創業者のP3M(Project, Program and Profiling Management)
価値創発モデルに対応するプロファイリングマネジメントは、創業者のP3M(P3M for Creators)として位置づけられます。
プロファイリングマネジメントは基本的に、問題、目的が未だ認識されていないとき、つまりは系(プログラム)以前のテーマについて、その意義(Why to do)を発見し、抽出し、定義することから始まります。
演繹的プロファイリング、帰納的プロファイリング、及び仮説誘導的プロファイリングの推論を駆使し、幅広く探索(Searching)し、オヤと思うものを発見し、更に探求(Researching)し、遂には自らの「ビジョン & ミッション & シナリオ(Vision & Mission & Scenario)」として炙り出し(Redefining)、その全体像を記述します。
Researchingとは「Re(再び)+search(捜し求める)」であり、Redefiningとは「Re(再び)+define(範囲を定める)」という語源があるように、常に問題意識を持って考え続けることが重要です。ここでは、外部環境調査分析、内部環境調査分析、ガイドライン設定、候補分野発見、重点分野フィールド調査、KSF(Key Success Factors)設定、マーケティング戦略、ビジネスモデル構想、ロードマップ、As-Is Model、To-Be Vision等を通じて、プログラムミッションを導出し、価値創造モデルとしてのプログラムマネジメントに引渡すまでを担います。
3.4 顧客のP4M(Project, Program, Profiling and Process Management)
価値提供(維持)モデルに対応するプロセスマネジメントは、顧客のP4M(P4M for Customers)として位置づけられます。
価値提供(維持)モデルは基本的に、WBS (Work Breakdown Structure)とWBN (Work Breakdown Network)を使ってプロセスを見える化し、As-Is/To-Be モデルで表現できます。運用 & 保守を通じて現行システムのAs-Isモデルと、次に目指すべきTo-Be モデルを描き、その差分(Gap)を比較評価しながら、継続的な改善(Continuous Improvement)を通じて、価値の提供(維持)を目指すことになります。
このAs-Isモデルは、売り手の視点(4P)から抽出されることが一般的です。4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)の四つです。一方、To-Be モデルは、買い手の視点(4C)から抽出されます。4Cとは、顧客価値(Customer value)、顧客コスト(Customer cost)、コミュニケーション(Communication)、利便性(Convenience)の四つです。詰まりは、4Pを4Cに読み替える作業です。製品(Product)を顧客価値(Customer value)の視点から、価格(Price)を顧客コスト(Customer cost)の視点から、プロモーション(Promotion)をコミュニケーション(Communication)の視点から、流通(Place)を利便性(Convenience)の視点から見直し、顧客への価値提供(維持)モデルを洗練化します。
4.共創マネジメント
以上の考察から、系(システム)以前のカオスに対処するプロファイリングマネジメント、複雑系に対処するプログラムマネジメント、システムに対処するプロジェクトマネジメント、プロセスに対処するプロセスマネジメントの四層構造からなるP4M(Project, Program and Profiling, Process Management)を、次世代バージョン共創マネジメント(Syncreate Management:SC)として提案したいと思います。共創マネジメントは、共創エンジンとしてのP3M(Project, Program and Profiling Management)と、共創インフラとしてのp3m(platform, process, and people management)から構成されます。
共創(Syncreate)とは、「Syn-(共に)+create(創造)」を意味する造語です。「共に創る」という意味と、「Symbiotic Creation(共生的創造)」の意味を持ちます。
自然界は多様性に満ちています。その中で、それぞれの種が、それぞれの生命を謳歌しながら、共生しつつ持続可能な世界を創っています。共生という言葉は、もともと生物学の symbiosisの訳語で、「生物が互いに、利益を交換し合って生活すること(相利共生)」を意味します。社会学では「社会の中で異質なものがお互いに助け合い、共に生きる」 という意味で「共生社会」という言い方があります。つまり、「共生社会」とは、「様々な異質なものの共存の承認の上に、新しい結合関係の樹立を目指す社会」 であり、「共生関係」とは、「お互いの違いを認め合って、生かしあう関係を創発すること」と定義できます。
適者生存が前提ですが、多様性の中の対立・矛盾をエネルギーとして、更なる創造的な関係を積極的生み出し、持続可能な社会を実現することが、21世紀の最大の課題となりつつあります。ここに、共創マネジメントが、問題の発見と解決に貢献できると期待します。
5.結論
サブプライムローン問題に端を発した経済の三重苦(需要減、円高、金融危機)が、日本経済に重くのしかかっています。企業はそれぞれの存立基盤の見直しを迫られ、自らを再定義する格闘を続けています。わが社とは何か、わが社はどうあるべきか、何をめざすべきか。自分らしさとは何か。わが社は甦るのか。甦るとすれば、どのように生まれ変わるのか。真実のわが社はどこにあるのか。誰が担っているのか。新しいわが社を創る、新しい人材はどこにいるのか。その胎動は聞こえているのか・・・。
「われわれはどこから来たのか。われわれは何ものか。われわれはどこへ行くのか。」(ポール・ゴーギャン)という根源的なテーマを、組織も個人も、改めて問い直さなければならない時代になりました。答えの難しい、原点回帰の旅は当分続くと思われます。
以上
【引用・参考文献】
[1] |
「システム工学方法論」A.D. ホール著/熊谷三郎監訳、共立出版、1969年 |
[2] |
「P2M標準ガイドブック」小原重信編著/プロジェクトマネジメント資格認定センター企画、PHP研究所、2003年 |
[3] |
「ソフトシステムズ方法論」P.チェックランド/ジム・スクールズ著/妹尾堅一郎監訳、有斐閣、2003年 |
[4] |
「アジャイルプロジェクトマネジメント」ジム・ハイスミス著/平鍋健児、高嶋優子、小野剛訳、日経BP社、2005年 |
[5] |
「新版P2M標準ガイドブック」日本プロジェクトマネジメント協会、日本能率協会マネジメントセンター、2007年 |
[6] |
「アブダクション 仮説と発見の論理」米盛 裕二著 勁草書房 2007年 |
[7] |
「新 共生の思想―世界の新秩序」黒川 紀章 徳間書店 1996年 |
[8] |
「ソニーは甦るか」日経産業新聞(編集) 2009年 |
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