今月のひとこと
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プロファイリングマネジメントとシステムズアプローチ 再々考 (その1)
Second Thought on Systems Approach in P2M Profiling Management

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :9月号

概要
 前論、前々論にて、P2Mにおけるプロファイリングマネジメントとシステムズアプローチについて考察し、若干のインプリケーションを行いました。それは(SSM+APM)モデルというもので、構想フェーズでSSM(Soft Systems Methodology)を、実行フェーズでAPM(Agile Project Management)を組み込んだ、P2Mの次世代バージョン開発への期待というものでした。本論では、その後の実証研究を踏まえ、このインプリケーションに対する再々考を行い、次世代バージョンとしての共創マネジメント(Syncreate Management)を提案します。

1.P2Mへのインプリケーション
P2Mへのインプリケーション

 前論にて、P2Mへのインプリケーションとして、A.Dホールの学説に準拠したP2Mのライフサイクルに、SSMベースの価値創造モデルとAPMベースの価値実現モデルをマッピングした概念図を提示しました。
 調査研究(Phase1)では、大域的なソフトシステムズアプローチによるシステムズプロファイリングモデル(Systems Profiling Model: SPM)が「価値創造モデル」として、構想計画としての問題の設定を行います。つまりはProgram Designです。ここで炙り出されたプロジェクトミッションを、探求計画(Phase-2)に受け渡します。開発計画(Phase3)と開発(Phase4)では、Phase2と同じ局所的なハードシステムズアプローチによるシステムズエンジニアリングモデル(Systems Engineering Model: SEM)が「価値実現モデル」として、フィードバックループを持ちながら、それぞれのPhaseで求められる粒度に応じて繰り返されることを述べました。

2.製造業のVCM
 筆者が30年間在籍した、コンスーマーエレクトロニクスメーカーのバリューチェーンモデル(Value Chain Model: VCM)を示します。
製造業のVCM

 先のA.Dホールの学説に準拠したP2Mのライフサイクルに比べて、更に上流のフェーズと更に下流のフェーズが存在することが分かります。プログラム以前とプロジェクト以後のフェーズの存在です。これをそれぞれ「価値創発モデル」と「価値提供(維持)モデル」として抽出します。つまりは、製造業のバリューチェーンは、①価値創発モデルとしてのプロファイリングモデル(PM)、②価値創造モデルとしてのシステムズプロファイリングモデル(SPM)、③価値実現モデルとしてのシステムズエンジニアリングモデル(SEM)、及び④価値提供(維持)モデルとしてのサービスエンジニアリングモデル(SvEM)から構成されると考えます。

2.1 価値創発モデル
 価値創発モデルとしてのプロファイリングモデル(Profiling Model:PM)は、演繹的プロファイリング(Deductive Profiling:DP)、帰納的プロファイリング(Inductive Profiling:IP)、及び仮説誘導的プロファイリング(Abductive Profiling:AP)から構成されます。
 プロファイリング(Profiling)とは「前へ(pro)+糸を紡ぐ(file)→形を描く」というところから、「犯罪捜査において、分析に基づき、犯人などの人物像や事件の輪郭(outline)を描くこと」を意味します。諸々の情報から犯人像を組み立てる「推理」のようなものです。この推理の方法には、演繹的プロファイルと帰納的プロファイルとがあると言われます。演繹とは「前提の命題から、経験に頼らず、系統的な論理規則に従って、必然的結論を導く」ことであり、帰納とは「個々の具体的事実から、実験的な一般的命題・法則を導く」推論のことです。
このように両者は、起源・方法論・分析法が根本的に違っています。従って、「演繹か帰納か」という発想ではなく、「両方とも使う」という、両者を止揚する柔軟な発想が必要になります。 そして止揚された柔軟な発想の中から仮説誘導(アブダクション:abduction)と表現されるプロファイル(Abductive Profile)が出現すると考えます。このアブダクションとは「事実からは直接観察しえぬ、別種の事実を閃く」ことを意味し、可謬性は高いが、発見に向いた推論形式だとC.S.パースは説きます。所謂、第六感的な閃きです。帰納法に似た拡張推論ですが、帰納とアブダクションの違いは、帰納は「観察された事実の一般化を行う」だけであるのに対し、アブダクションは「事実を説明する原理・法則・理論・概念の発見を行う」ことにあります。またアブダクションが発見しようとするのは、観察されたものとは別の種類の事実であることがしばしばです。観察できない事実であることもしばしばです。更に、帰納は「正当の文脈」において、仮説や理論をテストする推論です。一方、アブダクションは「発見の文脈」において、仮説や理論を発案する推論です。帰納よりは大きく飛躍した閃きや発見を伴う推論といえます。
 以上のような三つの推理を連携させながら、求むべきものを「炙り出していく」のが、プロファイリングモデルであり、人間本来の推論思考過程に沿うものであると考えます。

2.2 価値提供モデル
 価値提供(維持)モデルとしてのサービスエンジニアリングモデル(Service Engineering Model:SvEM)は、運用&保守(Operation & Maintenance:O&M)、監視&評価(Monitoring & Evaluation:M&E)、及びカレントエンジニアリング(Current Engineering:CE)から構成されると考えます。
 価値提供(維持)モデルは基本的に、WBS (Work Breakdown Structure)とWBN (Work Breakdown Network)を使ってプロセスを見える化し、As-Is/To-Be モデルで表現できます。運用&保守を通じて現行システムのAs-Isモデルと、次に目指すべきTo-Be モデルを描き、その差分(Gap)を比較評価しながら、継続的な改善(Continuous Improvement)を通じて、価値の提供(維持)を目指すことになります。(⇒次号に、続く!)

次号では、
3.P2M to P4M
3.1 受注者のPM
3.2 発注者のP2M
3.3 創業者のP3M
3.4 顧客のP4M
4.共創マネジメント
について言及します。
以上

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