「グローバルPMへの窓」(第63回) ロシアより愛をこめて (その2)
先月は、モスクワから4日に帰国してから月末まで論文の査読に追いまくられた。ヨーロッパの大学院博士課程生の最終論文2本の審査と、ある国際大会の論文の評価(Peer Review)3本が相次いだ。
私が関係する大学院では、博士論文の合否判定は、学生1名に対して、大学付教授あるいは大学指定の外部教授が務める第1・第2スーパーバイザーが各々論文指導と最終審査を、加えて、2名の論文テーマに関する外部教授が、最終審査のみに参加して、これに研究科長が加わり、合計5名で審査を行う。
今回は審査員というのが役割で、初見の論文査読を25日間で2件行うという難行であった。日本の大学では博士論文(特に理工学部)は100ページから多くて150ページ程度であるようだが、フランスとかウクライナでは大体250ページ+/-10%が必要で、博士課程リサーチの入り口である文献調査は150件以上必要だ。よって、マネジメントというなんでもありの分野で、審査する方が学生より多い知識を持っていることはまずないであろう。ようやく報告書を出し終わったら、入れ替わりで、要請を受けて了承していた、ヨーロッパの国際大会の論文Peer Reviewが入ってきて、これもほぼ終えた。
私は根っからの研究者ではないので、プロの教授のように論文をスキャンしながら評価ができる域には到底達しておらず、神経を使う作業の故か、夢にまで論文のことがでてきたりする。
さて、今月は前月に引き続きモスクワ便りである。
先月号で速報の通り、5月28日と29日にモスクワ市で、ウクライナ・プロジェクトマネジメント協会(UPMA)と、ロシアの教育研修企業Uchycom社が開催し、私が共同主任講師を務めた、ロシア初のP2M研修セミナーには23名が参加し、全員無事セミナーを修了した。また30日には、UPMAがPMAJとの提携協定に基づき実施したP2Mの国際資格試験に18名が挑戦し、全員が合格した。
ロシア語またはウクライナ語で実施する必要があるP2M研修や資格試験は、PMAJ単独ではとても扱える案件ではなく、約2千名に及ぶP2M実践者を有して、P2Mの理論的な研究でも先端にあるUPMAに実質的な統括を委託している。
ちなみに、UPMA版P2M資格は、受験申請者の経歴審査→ワークショップを含む研修受講→筆記試験のステップを踏んで認定している。ヨーロッパではPM資格の認定はこのステップを踏まないと通用しない。
今回、セミナーの受講者の期待を予測して主催者が企画した、P2M活用のターゲットテーマは、
① |
そもそも、ロシアが大国でありうるための生命線である石油・天然ガス開発・生産のプロジェクト群、および石油精製・石油化学産業の近代化による高付加価値製品の増産に向けたプロジェクト群に備えた人材育成 |
② |
ウラジオストクでのAPECサミット開催を今年9月に控え、これをマイルストンとして開発案件が山積の極東ロシアでの大規模インフラ開発プログラムのマネジメント人材育成 |
③ |
社会主義時代の伝統が色濃く残り官僚的なマネジメントがはびこる大規模企業に、機動的なマネジメントであるプロジェクトマネジメント発想を植え付ける |
④ |
一般的にイノベーションというコンセプトを好むが実際には動こうとしないロシア社会のエリート達に日本流の実践的なイノベーションの仕組み作りを仕込む |
といったところがあった。
実際にセミナーを実施してみてこの企画を振り返ってみると、①に当たる参加者は4名であったが、この筋からの今後のセミナー開催は、顧客側から1件、コントラクター側から1件が既に主催者に寄せられており、今後有望、②については参加者無しで、切り込みにはモスクワではなく、極東地区でセミナーを開催し、もう少しこのセクター向けのテーラーメードが必要、③、④は、原子力公社からの参加者が大多数であり、また、日本のゆうちょ銀行にあたるズベルバンク (Сбербанк, Sberbank)がすでに独習でP2Mをイノベーション研修に取り組んでおり、政権の改革の真意がどの程度かにもよるが、①と共に期待できるであろう、という感触である。
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P2M国際資格認定者と主催者一同 |
公社から"Rear Admiral VF Rudnev", ("OIF Commander") 金メダルを戴く |
ロシアでは、ソ連邦からロシアに切り替わった1990年代前半から米国発のPMI®
PMBOK®ガイドが導入され根強い支持がある。引き続き、IPMAのICBが導入されたが、PMAJと友好関係にあるロシアPM協会SOVNETを通じてのIPMA体系の推進では大国としては大きな伸びがないようだ。
SOVNETの協会ジャーナル(学術誌)には毎号P2Mに関する論文が掲載されるほどで、私の2010年度のヨーロッパ向けのやや長編の論文も4回分割で1年間にわたり掲載されるなど、P2Mを高く評価し、日本からの発信に重きを置いている。
このようなことから、ロシアでのP2M普及には、今回築いた現下最強の体制に加え、下記が重要だ。
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今後SOVNETとP2Mを介して更なるWin-Win関係を築き(これには日本のP2M実践者からのSOVNETジャーナル寄稿も重要、これまで日本からの発信が7件ほどあり:興味がある方は、筆者はSOVNETジャーナルの編集ボードの一員であるので、 ご一報下さい 。英語の論文であれば検討いたします)。 |
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ロシアで、IT産業以外のセクターに食い込むには学術的な権威が必要とのことで、ウクライナ・ロシア・他のCIS諸国向けP2M陣営は、旧ソ連時代からトップランクの科学者であった、ウクライナUPMAセルゲイ・ブシュイェブUPMA会長に陣頭指揮いただいているが、現在のロシアでの権威ある科学者とも協調が必要であり、それに向けて関係者が努力中である。 |
P2M研修を了えて1日おいて、5月30日にロシアでのPMソフトウェア最大手企業である、PMSOFT社が毎年開催するロシア最大のPM大会に招待され、私が来賓トップで『プロジェクトマネジメントのベスト・プラクティスからイノベーションのプログラムマネジメントに向けて』、また、締めで、UPMAブシュイェブ会長から『ウクライナ財務省でのP2Mを基盤とした財政再建の取り組み』と題して基調講演を行った。参加者400名から2つの講演に大きな反響があった。この大会は米国のPMI®の大会のごとく華やかで、これまで4回ほど経験したSOVNETのクラシカルな大会とは全く趣が異なっていたが、ひとたび講演に入れば、そこは戦場であることは同じ。P2M研修で時間と気力を費やした後、半日のオフに予習をしようという段取りであったが、結局連れ出され、夕食のあと、眠い目をこすりながらあわてて2時間ほど予習をしただけ、また、前の日夕方まで講演時間が分からなかった、また、通訳とは講演の前に5分の打ち合わせをしたのみと、いう半分ぶっつけ本番で臨んだが、無事自分を乗せることができた。通訳がきわめてプロであり助かった。講演も気合である。 ♥♥♥♥♥
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