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高度サービス業とP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :6月号

 かつて栄華を極めたパックスブリタニカの英国は、その栄光の道を米国に譲った。そのパックスアメリカーナの米国も、日本にその道をあけ渡そうとしていた。それは、1979年に出版された米国の社会学者エズラ・ヴォーゲルの「Japan As No.1」の本に象徴され、No.1を気恥ずかしく思っていた日本人ですら、しばらくはバラ色の経済大国になると確信していた。日本人は、勤勉でチームワークに長け、かつ数学や理科などの科学技術の基盤となる学科が世界でも優れてトップレベルだからだと紹介されていた。英国も、米国も、労働生産性の高い製造業が牽引してその国の富みを築いてきた同じ様に、日本も世界を制覇する原動力は製造業であった。しかし、21世紀直前に起きた“IT・インターネット革命“と社会主義国の自滅によるグローバル化の進展は、日本が世界一をエンジョイする機会を与えなかった。以降、期待されていた日本は、失われた20年を経て更に迷走を続けている。

 東日本大震災とそれに伴う福島第一原発の事故により、混迷は更に深まった。火力発電にシフトしたエネルギーコスト上昇の先行きは不透明であり、円高や高い人件費により労働集約型の製造業は海外展開をせざるを得なくなっている。貿易収支の悪化を見て、原料を輸入、加工して輸出するいわゆる「輸出立国は終わった」という識者も増えた。しかし、日本は世界一の対外資産保有国となっており、海外投資先からの配当が主である所得収支は、リーマンショック後の一時的な調整はあったが、確実に増え続けている。

 今後さらに製造業の海外展開が進んでも、投資額は増えその利益や配当は国内に還元されれば、国家収支上は問題ないが、国民は国内生産が落ち込めば大問題である。個人所得格差は拡大傾向にあり、日本の全世帯数約5,000万のうち、世帯年間所得200万円以下の割合は20%弱に迫る。国内に製造業に代わるあらたな雇用を生み育てなければならない。既に第一次産業の農林水産業は、全労働人口の5%前後、第二次産業の製造業も25%前後である。残りの70%を占めるのがサービス産業であり斬増している。一般的にはサービス産業の労働人口の増加は、平均国民所得を押し下げる効果があると言われている。従来なら国内に存在した多くのサービス業種が、低賃金労働者のいる新興国に流れ、加工製品となり輸入されることで価格の低減化が進み、デフレの原因の主要因と云われている。

 所得を押し上げる“高度サービス業”を国内に増やさなければならない。しからば、高度サービス業とはいかなるものか。新興国にアウトソーシングされない仕事とはなんであろうか。トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」によれば、“サービスの達人”の仕事を三種類あげている。まずは“かけがいのない人”で、このところ調子を落としてはいるが石川遼とか宮里藍など各界のスターたちがあげられるが、単なる努力だけではなりえない限られた人達である。第二には、“地元にいる人”で地場から離れられない職業人であり、床屋さんの例を挙げているが、日本人が中国に居る床屋さんに日常的には頼めない。この達人達は、市場原理が働くので、うかうかはしてられない。第三が一番重要だそうで、“新ミドルクラス”の人達である。色々な例をあげているが、協同作業者=まとめ役、偉大なインテグレータ、難しい事も優しく説明する偉大な説明者、偉大な梃(てこ)の様な人=コンピュータなどを利用して自己以上の働きをする人、偉大な適合者、など環境やコンセプトなどが変わってもそれに合わせて自己の仕事の仕方を変えられる人で、新分野でも学ぶことを学ぶ力、適合する力のある人だそうです。このコンピテンシーの高い人は、現代の日本人の場合には、具体的にどのような職業であるかは、残念ながら記載がない。

 振り返って、この“新ミドルクラスの人”をP2Mの資格に当てはめてみると、PMR資格保有者であろう。簡潔に言えば、コンピテンシーの高い人であり、ある特定分野のみならずあらゆる分野のプロジェクトでも、プロジェクトマネジャーとして立派な仕事をすることが出来る人である。日本では資格など明確な差がない限り個人の能力差は認めたがらない。たとえ差を認めたとしても当該者があからさまに能力差を自慢することは自制するように育てられてきた。能ある鷹は爪を隠す、その様な“平等社会”である。

 韓国や中国の教育過熱が伝えられているが、そのベースには厳しい競争がある。僅かな能力差も、結果としては大きな所得格差に繋がりかねない。透明さと公平さが担保される競争基盤が整っていれば、競争は持って生まれた能力と普段の努力が結果を生むだろう。日本人がこの割切りをしない限り、フリードマン流の高度サービス業を許容する日本にはならないし、高い所得を生む出す高度サービス業の拡大もないように思われる。この分野におけるアジアとの競争が激化する前に、国内でその基盤を築きたいものである。

以 上
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