PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(105) 「時間の効用」

高根 宏士: 5月号

 プロジェクトにおいて、広くはビジネスにおいて時間が重要であることはほとんどの人が認識している。
 生産性という場合、投入された金額や材料に対して算出された成果物の大きさでいわれる。しかしそのベースは投入された時間当たりの生産高である。時間が変換されて金額になることも多い。特にソフトウエア開発やシステム開発ではその傾向が強い。
 このため各企業は無駄時間(直接生産に寄与しない時間)の排除とか、時間当たりの成果を高めるための改善対策などに必死になる。各個人にはそのために1分、1秒も無駄にしないよう最新のIT機器の活用や効果的なタイムマネジメントが要求されている。そして時間は益々重要になり、人間はその時間の不足に四苦八苦する事態になる。
 時間はある意味において貴重なリソースである。しかし時間をものや金と同じようなリソースとして捉えるだけで本質的な意味で時間の効用を活用することはできない。
 我々は3次元の世界に身を置き、それに時間が加わって、4次元の世界に漂っている。3次元と4次元を分けるのは時間である。時間を除いた3次元の世界だけを想像してみよう。そこでは瞬間的に見えるものは現在見ているものと同じである。しかしそれは写真に近い静止画の状態であろう。動くものは一切ない。そして我々は、見ている静止画以外の何物も想像することはできない。例えばある人物を前から見た時、その背中を想像することはできない。そして背中を見ているとき、前を想像することはできない。我々が一人の人間を表面から見るだけで、全体像を想像できるのは時間のおかげである。
 我々は時間の存在によって、複数の視点を持つことができる。一人の人間を様々な視点から見ることにより、その全体像を把握することができ、その経験の蓄積から、同じような場面で、ある視点からしか対象を見ることができないときでも、他の視点からの場面を想像できるようになるのである。
 また時間があることにより、対象そのものが変化する。対象が変化することを認識できることと、その対象を見る視点を変化させることができるということが、我々が4次元の世界にいる大きなメリットである。これは物理的な世界だけではなく、心理的な世界、情報世界、ヴァーチャル世界においても同じである。時間の中にいるからこそ、視点を変えられるということが時間の効用である。
 我々の中には、4次元の世界に住んでいながら、一つの視点からしか見ることができない(3次元に生きている)ものもいる。このような人をSEの世界ではStone EngineerとかSolid Engineerという。ディジタル的情報社会では、そのディジタル化が一面的な場合、4次元に住んでいながら、1次元的世界に押し込まれる可能性が大きくなる。
 時間の効用の本質を忘れ、日々の1次元的世界での時間の活用や節約にあくせくするのは、時間を有効に活用することにはならない。また3次元の世界に身を落とすことは、自らの世界を小さく、固まったものとしてしまう。
 4次元の世界に存在するものとして、我々は、時間が我々に作用する本質をもっと認識し、その上で対処することが肝要である。
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