PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(104) 「マニフェスト」

高根 宏士: 4月号

 最近の政局は流動的である。選挙において消費税の増税はしないといっていた民主党は現在消費税増税をしようと必死になっている。かたや消費税増税を主張していた自民党はそれに協力しようとしない。
 民主党の破たんの第一の要因はマニフェストにある。マニフェストはプロジェクトでいえば、プロジェクト計画に相当する。計画が杜撰ならば以後のプロジェクト推進は混乱と手戻りの連続になる。計画時点で工期(時間)と予算を考慮せず、ステークホルダー(選挙民)の当面の顔色(投票)ばかりうかがい、できもしないことを約束するならば、プロジェクトが破綻をきたすことは自明の理である。児童手当、高校授業料や高速道路の無料化などは瞬間的なステークホルダーの顔色ばかりを気にして、アクセサリー的な機能の提供を約束する主体性のないプロジェクトに酷似している。しかも予算は無駄を省けば何とかなるという、神頼みしかなかった。この無駄の排除は鳴り物入りの「仕分け」でできるはずであったが、マスコミ受けしただけで実質的な資金のねん出はできなかった。そして財政赤字は益々膨らみ、遠からずギリシャ以上の問題になるのは、誰でも感ずるところである。したがって野田内閣が税収を増やすために消費税に目をつけたのは、妥当である。しかも所得税などと異なり、景気変動の幅が少ないため、財源としては安定する。しかしこれは民主党のマニフェストには書いてないことである。野党からはその点を突かれている。しかも与党の中でも、ステークホルダーの瞬間的顔色ばかり気にしているチャイルド議員達からもその点を突かれ、二進も三進もいかない状態になっている。
 民主党はプロジェクト計画を立てるとき本気でプロジェクトを請け負う気はなかったのではなかろうか。本気で請け負う気があったならば、もっと実質的で緻密な計画を立てていたであろう。実施した途端破綻をきたすような計画は少なくともプロならばしないであろう。単に政権という権力を獲得することが目的だったのではなかろうか。日本を財政的な破綻から救い、安全と食を確保し、発展させていくという困難なプロジェクトを完遂する気はなかったのであろう。だから杜撰な計画と、その計画を現実の問題よりも重要としてしまう教条主義的(内心は落選したくないという自己保身)考えが蔓延しているのではなかろうか。
 プロジェクトを成功させるためには、計画時点においてはリスクを考慮した実行可能性を読み切る覚悟で計画を立てることであり、実行時点においては計画を、その時点における状況を踏まえ、そのままでよいか、改良すべきかを虚心坦懐に吟味し、その結果を関係者が共通認識し、進めることである。民主党は逆を行っていたようである。
 一方自民党は今のままでよいのであろうか。消費税の増税を最初に提唱したのは自民党である。しかし現在は野田政権の協力要請に対して拒否の姿勢である。その理由は民主党のマニフェスト違反である。そしてこれを梃子に政権奪回を画策している。自民党も日本をどうするかというプロジェクトの成功を願っているのではなく、自分の勢力拡張のために行動している。自民党に少しぐらい損なことになっても消費税増税が日本のためと思うならば、なぜ賛成に回らないのか。遅れれば遅れるほど日本の財政状態は深刻になることはわかっているはずなのだが。やはり日本の将来よりも自分の政権獲得の方が、プライオリティが高いのであろう。
 彼ら国会議員は一部の人間を除いて、プロジェクトを完遂し、成功まで持っていくという覚悟もなく、プロジェクトのある一期間のみ権力を振るい、金を使える快感を味わうことだけを考えているのではなかろうか。
 一般国民としての日本は東日本大震災における行動でもわかるように世界から称賛されている。しかし日本を動かすリーダーとしての国会議員が、その自覚もなく、単に自己保身(落選が怖い)に汲々としているようでは日本の将来は暗澹たるものになるであろう。

 「魚は頭から腐る」
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