ダブリンの風(103) 「復興庁」
高根 宏士:3月号
2月10日復興対策の目玉となる復興庁が発足した。目的は東日本大震災(福島第一原子力発電所事故による災害も含む)からの復興に関する内閣の事務を内閣官房とともに助けること、主体的かつ一体的に行うべき東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を図ること(設置法3条)である。遅ればせながら復興庁の発足は復興支援対策の推進を加速することに貢献するであろう。
ところで復興庁設立のポイントは「主体的かつ一体的に行うべき・・・の円滑かつ迅速な遂行」である。既存の省庁は復興に関してはそれぞれ部分的、別個の役割を持っている。それら部分的な対応では、震災からの復興という大きな目的を達成することが困難である。いわゆる縦割り行政といわれるものの弱点である。この弱点を排除し、迅速な対応を図るためには復興庁の設置は当然ともいえる。
ここで組織を云々するとき話題になる「縦割り」について考えてみたい。縦割り組織は悪い組織の典型のように言われるが、必ずしもそうではないかもしれない。例えばプロジェクト体制を作る場合、そこには必ず役割分担がある。役割分担が明確になっていない場合、プロジェクトの動きは効率的にはならない。プロジェクトが大きくなればなるほどこれは重要になる。役割分担をするということは、ある意味で「縦割り」にすることである。したがって縦割りという考え方は仕事をする上では必要である。
縦割り(または役割分担)という場合、考慮すべきことは目的と作業の関係である。プロジェクト体制を例に挙げると先ずプロジェクトの目的がある。システム開発のプロジェクトならば開発するシステムの目的がある。プロジェクトを推進していくために、この目的のブレークダウンがある。そしてブレークダウンされた目的が役割となり、最下層の目的が作業となる。その役割、作業を担当するメンバーがアサインされる。この場合アサインされたメンバーはそれぞれ担当部分の作業をする。この場合作業は縦割りである。プロジェクトが成功するかどうかのポイントの一つは目的の設定と分解が妥当かどうかである。これが妥当でなければプロジェクトは効果的、効率的に機能しない。縦割りの弊害が言われるときの要因の一つに、最終目的と分解された役割との関係が妥当でなかったり、曖昧だったりすることが想定される。
もう一つの要因として担当するメンバーの意識の問題がある。プロジェクトメンバーを大きく分けると、実際にアウトプットを出す作業をする者(T)とそれをマネジメントする者(M)になる。Tは決められたアウトプットを出すことに専念することにより、役割を果たすことになる。問題はMである。大規模プロジェクトになるとMは単独のプロジェクトマネジャーやプロジェクトリーダーだけではなく、マネジメントチームが作られることが多い。そのチームではやはり役割分担ができる。例えば進捗管理担当とか品質管理担当である。進捗管理担当が該当時点の進捗状況にばかり注力して、その時点の品質に目が向いていない場合、進捗管理担当は自分の役割を果たしていることにはならない。なぜならば、その時点の進捗が計画通りの進捗だったとしても、品質が計画時想定したレベルより低い場合、以後の進捗は必ず遅れてくることになる。進捗管理の役割は該当時点において計画した進捗通りに実際の進捗結果を出すことではなく、プロジェクトの最終フェズで予定通りに完了させることだからである。したがって該当時点以降の進捗をできるだけ正確に予測する必要がある。そのためには該当時点の品質を把握することが肝要である。もちろん品質データの提供は品質管理担当の役割である。
品質管理の場合も同じである。品質管理担当の目的は最終品質の確保であり、常にその視点から品質を見なければならない。したがって該当時点の品質にばかり眼が向いて、進捗状況を見ていないならば、品質管理の役割を果たしていることにはならない。進捗が遅れた場合、以後の作業は焦りと手抜きから品質は低下することは自明のことだからである。
またMが単にその役割の視点からのみTに対してコントロールや指示をするとTの作業を阻害することになる。進捗管理担当がTに対して単に進捗の回復ばかりを強制したり、品質管理担当が進捗を無視し、品質の視点からだけの要求をすると、Tは両方からの強制で作業は益々遅れ、品質は益々低下することになる。Tは常に両面を考慮して作業をしなければならない立場にあるからである。Mが限られた部分的視点からの発想からマネジメントされてはTはやっていられない。
マネジメントにおける役割分担は作業としては、その役割部分についての「見える化」を図ることである。そして意識は常に最終目的を達成できるかどうから判断し、行動する心構えを持たなければならない。そうでなければマネジメントは不要な飾りであり、極端な場合はプロジェクト進捗の大きな阻害要因になることを銘記すべきである。
|