グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第60回)
春来たる

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :4月号

 長かった冬のような気候もようやく終わり、春が来たようだ。日本経済も株価が回復基調、国内外のインフラ案件の増加など力強いメッセージが伝わって来ている。
 一方、電機大手企業の多くで大幅な赤字決算見通しの報告があるなど、相変わらず閉塞感漂う部門もある。2010年度、政府(経済産業省)の新経済成長戦略・通算第3版が掲げた施策キーワードのひとつに「(産業国際競争力の)一本足打法依存から八ヶ岳連峰型モデルへ」というのがあった。これは、日本の今後の国際競争力は、これまでのようにスター単品だけではなく、システム(ITシステムのことではない)輸出の振興にかかっており、グローバルに通用するシステム統合力構築を早めるという政策方針である。ここで一本足打法とは日本の自動車産業依存を指していた。その自動車産業も絶好調とは言えなくなってきており、また、企業内で一本足打法に頼り過ぎて苦境を招いた例として家電系の電機業界が挙げられている。
 システム統合力と、プロジェクトマネジメント力、また、パーケージ型インフラストラクチャのような大型複合システムのではプログラムマネジメント力、は表裏一体の関係にあり、実際に現在国際市場で躍進している企業は強いプログラムマネジメント力を有している。いくつかの業界の日本企業はいまだに横並び意識が強く、海外のライバルより国内のライバルに目を向けるが、全体に沈みゆく船団のなかで、我が艦は、彼艦より沈み方が少ないという感覚でいては先が無い。現在好調な企業は、国内のライバルではなく、国際市場ひいては国際情勢まで先読みしながら、競争軸を広角化しており、その広角化を進めるためにプログラムマネジメント力を磨いている。
 先月号の当オンラインジャーナルで、本年2月に実施され、11カ国・33名の受講者に大変好評であった(財)海外技術者研修協会主催でPMAJが受託して実施した、我が国インフラ輸出プロジェクトを支援する相手国人材のP2M研修(2週間)について、光藤理事長が「国際協力とP2M」で総括的に報告され、また、井上多恵子さんのコラムで、講師の立場で研修現場の模様が描写された。
 本研修のコースディレクターとして、研修の企画から教材作成(事例は除く)、P2M導入とプログラムマネジメント編の講義、および2回のワークショップの指導まで担当した私には、P2Mマスターに向けて強烈なエネルギーを注ぎ、極めて高い(主催者談)研修成果をきちんと出して帰国した、企業・政府の中堅から上級幹部達の、今後P2Mに賭けてみたい、という力強言葉が心に突き刺さっている。日本人も頑張ろう。

 さて、話変わって、私は、昨年PMAJの理事長を退任後、数か月の休養を経て、大学院非常勤教員で研究者となった。この社会人の第3ステージ突入も大体順調に推移している。
 2011年度の後半は、国内では10月の東北大学大学院の半日講義以外では、慶應義塾創立150 年記念事業未来先導基金プログラム「グローバル・ビジネス・フォーラムによる日本のグランドデザイン策定を行う融合型実践教育」の協力教員として、毎月次フォーラムに出席し、3日間特別セミナーでの講義、数回の報告(講演)、討議への参加を行ってきたが、3月度の年度総括シンポジウム@慶應大学日吉キャンパスで、私からも「グランドデザイン策定のための融合教育について」という総括報告を行った。そして、昨年11月に実施した英語での国際融合セミナー”Project & Program Management for Grand Design”修了生への修了証書授与式を行う栄に浴した。修了証書は慶應義塾大学ビジネス・スクール校長名(日本語)と戦略・プロジェクト&プログラムマネジメント専攻グローバル・プロフェッサーとしての私の名義(英語)の両方を授与した。
 この特別プログラムの特徴は、『社会科学,人文科学、自然科学、工学、医学、法学、マネジメント等の多様な専門領域が横断的に関わる、世代,専門,背景の異なる人々が集い、相互に指導、助言、学習する「半教半学」の教育』を実践することにある。「半教半学」というはプログラムマネジメント教育にもピッタリな概念であると思っていたら、これは義塾の創設者福沢諭吉先生が説かれた義塾の伝統的な学舎精神であるとのこと。
 PMAJの前身JPMFの発起人・初代理事であり、本年度まで大学院工学部教授を務められた横溝陽一先生のご紹介で、本プログラム主宰者姉川知史教授に入門したが、大変充実したインパクトの大きいプログラムであった。4月からの新年度にはプログラムの延長戦に入り引き続き貢献する機会をいただくことになっている。
 また、本年4月から北陸先端科学技術大学院大学のカリキュラムの一部変更に伴い、PMAJがこれまで担当してきたプロジェクトマネジメント講義群も組み換えとなり、私も同学客員教授として実践・応用編(旧上級)の3科目を英語と日本語で担当することになった。これまで上級の一部の講義を担当していたが、今回は上級のすべてを担当するので、テキスト開発もやり直しで準備を行っている。基礎編も含めてプロジェクトマネジメント講義群の所属は同学知識科学研究科であり、研究科の創設者は野中郁次郎先生である。JPMFを創設し私が運営責任者であった1998年から4年間、野中先生にはJPMFの名誉会長をお務め戴いた。これも大変強いご縁であり、身が引き締まる思いである。
 国際的な活動についても報告すると、先月号で述べたとおり、本年1月にJICAの調査団長として、また、ウクライナの国立大学2校の教授(Honorary Professor)として、イノベーション・プログラムマネジメントのマスタークラス4ラウンドを無事終えることができた。
 これらの活動の合間にも、毎月、計画できない(PMでいうところのKnown Unknown)研究者としての仕事が必ず発生する。1月には、フランスSKEMA経営大学院博士課程の外部教授として、博士論文のレフリーの仕事が突如割り振られ、中東某国のエコスマート都市の開発に関する研究の論文審査で、約200ページと格闘した。ウクライナでの3週間の研修を控えての準備に並行して、ピンチヒッターで、2週間の期限での審査は実に大変であったが、キエフに出発の前日になんとか結果を入れることができて研究科長から大変感謝された。
 また、1月あたりから大学院の博士課程に出願する社会人学生が動き出す時期であり、今年は、2008年のSKEMAリール(フランス)キャンパスでの講義を受講したイラン人の修士からの依頼で、フランス、米国、カナダの大学院博士課程教務課宛ての内申書作成を行った。私の経験では、博士課程の内申書(Recommendation Reportと称しているが、内容は教師としてRecommendするか、しないかの判定を求められているので内申書というのが正確であろう)については、フランス、米国、カナダ、スイスの合計7校宛ての経験があるが、すべてWEB内申であった。判定基準はほぼ同じである。
 2月には、東京のP2M研修に参加した中東からの1名がマレーシアのMBA遠隔課程生でもあり、Research Proposal (修士論文または博士論文のリサーチ計画書のこと)の校閲依頼を受けて彼としばし議論を行った。テーマは製鉄産業のイノベーション。また、ウクライナの所属大学の博士課程生から彼女の論文テーマ変更に伴って新テーマ(知識科学関連)の展開に関する相談を受けた。
 現在は、近々慶應義塾大学理工学研究科の博士課程を了えるベトナム人研究者のリサーチテーマの実証プロジェクト化について、プロジェクトマネジメントの面からの指導を行っている。彼女が私の国際融合セミナーに参加したのが縁である。
 2月と3月にはプロジェクトマネジメントのサイエンスジャーナルのリビューアーとして、投稿論文2編の審査を行った。最近のPM研究論文の題材では、実証主義の研究パラダイムに基づく伝統的な論文に加えて、形成主義(Constructivism)に基づく研究論文がかなり増えてきている。P2Mの恩人Professor Christophe Bredillet(PMIのアカデミック誌 - Project Management Journal編集者)が1990年代から説く”Project management as an integrative field”、私も属するSKEMA経営大学院の2009年度と2010年度のEDEN World Doctoral Seminarで集中的に討議され、その後も形成が続いている”Nine Schools of Project Management”、1900年代初めから15年のリサーチを経て2007年に世界的に脚光を浴びたドイツのManfred Saynischによる“Project Management Second Order”、あるいは、国防プロジェクトが発祥の場でオーストラリア・英国連合で2007年から展開している”Complex Project Management”、などが形成主義論調の代表であり、これらの研究から派生した研究論文が増えているという意味である。P2Mも学術的には形成主義のパラダイムに区分されるとみてよいであろう。
 大変残念ながら、私の記憶では、米欧のアカデミックはほとんどの人がP2Mのことを知ってはいるが、アカデミックジャーナルの論文でP2Mの引用は一回もなかった。この意味で道はとおい。
 春が来ると気持ちが解き放たれ良い発想も生まれるのではないかと思う。
 私の新年度初仕事は、慶應義塾大学の三田キャンパスで開催されるある学会の研究部会でプログラムマネジメントの話を行い、集うオペレーションズリサーチ、インダストリアルエンジニアリング、サプライチェーンマネジメントの研究者諸賢と交流を行うことで大変楽しみにしている。  ♥♥♥♥♥

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