図書紹介
先号   次号

「メルトダウン」  ――ドキュメント福島第一原発事故――
(大鹿靖明著、講談社、2012年01月27日発行、第1刷、366ページ、1,600円+税)

デニマルさん: 4月号

2012年3月11日、東日本大震災から一年が経った。この3月に入って、テレビ・新聞・雑誌等のメディアは、大震災特集で復興の現況やこれから起きるかもしれない首都直下大震災に向けた警告等を報道している。東日本大震災では、死者1万5千人強、行方不明者は今年3月現在でも3千人を超え、被災者約34万人、被害総額20兆円以上である。こうした被害は、マグニチュード9.0の地震だけでなく、その後発生した津波、更に福島原発事故による放射能汚染等を含んでいる。一年経過した現在、東北3県と関東を含む被災地の復旧・復興は、思うように進んでいない。その大きな問題は、放射能を含む瓦礫処理と福島原発のある市長村の放射能汚染対策にあるといわれている。今回紹介の本は、その福島第一原発の事故に焦点を当て地震発生以降、現場で何が起き、それにどう対処したのかを克明に調べ書いている。著者は、元新聞記者なので直接取材だけでなく、政府、省庁、各種メディア等の情報源から「メルトダウン」を追跡したドキュメント本を書き上げた。

福島第一原発メルトダウン   ―― 地震・津波・原発事故・放射能洩れ ――
メルトダウンとは、原子炉内の核燃料が加熱して融解することで炉心溶融とも言われ、重大な原子力事故である。この事故は、津波で原子炉冷却装置が破壊され機能しなかった結果である。こうした最悪事故を想定した原子炉の安全は、フェールセーフ装置で何重にも保護されている筈である。所が、全電源喪失という想定外の事故が、原発建屋の爆発となり放射能を拡散させた。本書は、その時の現場危機対応を詳細に追った資料に纏めてある。

東電本社メルトダウン  ―― 原発事故・会社対応・現場退避 ――
福島原発の事故現場では、原子炉メルトダウン防止の為に必死の対応に追われていた。ベントといわれる原子炉内の圧力低下を図り、原子炉爆発防止作業を悪条件の中で決死的な活動が行われた。その結果、原子炉の暴発は抑えられたが、1号機と3号機の原子炉建屋は水素ガスにより爆破された。そんな中で東電は、操作員の安全のため現場退避を考えていた。この国家存亡の危機に東電本社が果たすべき役割は、全く機能していなかったという。

菅政権メルトダウン  ―― 現場対応・避難勧告・脱原発政策 ――
政府は大震災の発生で、地震・津波被害の人命救助と福島原発事故に懸命な対応をした。特に、原子炉の冷却と放射能被害対策の為の地元避難を最優先した。自衛隊や消防隊による懸命な放水冷却指示や電源回復作業統括等、その時点の官邸内の緊迫した動きが克明に描かれている。一方、原発事故賠償補償に向けた政府、東電、銀行筋がどう対処したかにも触れている。更に脱原発のエネルギー政策の道筋を付けた菅政権崩壊までを追っている。

ページトップに戻る