投稿コーナー
先号   次号

「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (15)-BMの勉強⑧-

渡辺 貢成:3月号

-「私たちのP2M」とは何か、かんがえてみませんか-を書き始めて2年になります。私がこのコーナーを書いた意図は、目まぐるしく変わるグローバル化社会の流れの中で、行動を起こしている企業は伸び、課題を先送りしている企業の衰えが明確に見えてきたからです。国内に目を転じると、危機だ、危機だと騒ぐ割には、20年前と同じ仕事のやり方をしていながら、そのことにまったく危機感を持っていない多くの人々を見かけます。
ここで私たちのP2Mをテーマにしたのは、P2M創出者の小原教授のコンセプトが「21世紀を乗り切るための新しいPMとは何か」ということを議論、検討した結果創られたのがP2Mだからで、グローバル社会は現在もその方向で流れています。

1.危機に直面している日本経済をどのように理解していますか
 最近の新聞では日本の家電製品はすべて韓国勢に席巻され、パナソニックでさえ大量解雇に迫られているという大見出しが出るようになりました。実はこのことはドラッカー博士がいう「既に起こった過去」で、既にわかっている問題です。ただ、日本社会に暮らしていると、多くの人々は目先の忙しさに追われ、最も重要なことに関心をむけなかっただけです。しかし関心がなければ、何の手を打つことも出来ません。社員に関心がないことは、経営者に関心がないことの証明です。実はこのことが最も大きな日本の危機なのです。この危機を乗り切るには何をするべきか、P2Mを全面に出し書いてきました。

これらの危機に大きく関係するものとして、IT経営が叫ばれています。経産省は2006年にITプロジェクトは超上流で経営者がビジネス要求を出しなさいと示唆しています。2008年には「IT経営ロードマップ2008」を報告書にまとめています。報告書によると日本のIT経営は遅れていると書かれています。他方IT産業の実情は短納期、低価格と厳しさは増し、3K問題は一向に解消されていません。私はこのオンライン記事を書くに当たって、優れたITの関係者から多くのことを聞きました。しかし、納得できる答えを得ることができませんでした。そこで「経営とITの融合」というP2M学会の研究会に参加し、多くの見識者のお話を聞きました。経営情報学会のシンポジウムにも出ました。ITの要求定義を解析する研究会の発表も聞きました。日本企業のCIOが何故機能しないかと思い4冊の本を読みました。IT関連の方々に色々と質問をしました。質問相手はそれなりの実力者ですから、答えは共通して「私達は既にやっています」です。でも全体として成果が出ていないことも事実です。

私は長年プロジェクトマネジャーを職業とし、すべてのプロジェクトを成功に導いてきました。新しい、経験のないプロジェクトも含まれます。プロジェクトを成功させるために、「成功の鍵は何か」という自らの問いに納得に行く答えを出すことが不可欠です。この鍵は部分的なものではなく大局的に見た成功の鍵です。これは知識ではありません。プロジェクトにはまだ問題があります。プロジェクトマネジャーは顔もあわせたことのない大勢の人たちと一緒に仕事をします。従って多くの人々を納得させ、なるほど、これならばできるという暗示を与える何かを考えます。これも知識ではありません。その理由は「プロジェクトは実行して成果を出すことであり、プロマネはいかなる環境下でも責任を持ってプロジェクト成功に導く責任感」が必要条件だからです。
私が述べたプロジェクトマネジャーの心構えは、企業の責任者である経営者、国を動かす官僚、政治家すべてに共通の問題です。平時は従来どおり仕事をすればよいのですが、変化の速いグローバル社会となっては、従来と同じことの踏襲では新興国にすら負けてしまいます。知識があっても責任を持って行動しなければ、知識を持った価値がないことになります。

このエッセイも3月号で2年になりますのでエッセイのまとめをします。2年間の各号で何を書いたかダイジェスト版を末尾に添付しますが、この2年間書いたことは「経営とITの融合」研究についてのまとめを意味します。「経営とITの融合」こそ、IT関係者に一番知ってもらいたいことでした。

2.1990年以降グローバル社会は「アトム」管理から「ビット」管理の時代へと進んだ
1990年までは日本の製造業全盛時代でした。これまでの経営の管理は「モノ」を中心として行われてきました。わかりやすい例はトヨタの「カンバン」方式です。90年以降米国は「電子情報」を活用して経営を変えていきました。
「モノ」による管理をアトムの管理と呼びます。「電子情報」による管理を「ビット」の管理と呼びます。
2.1 ビット管理の効用
ビットの管理とはデータの収集、分析、分類、共有、複製と言った情報の操作をいう
ビットの管理は世界のどこでも、同時に、低コストで伝達できる
2.2 ビット・エンジンとは
定義:
社内外の情報を獲得、管理、分析、蓄積、増大、配布、活用するためのシステムをいう
BMの創出:
経営にこのエンジンを搭載すると、新しいBM(ビジネスモデル)を創出できる。
事例:衛星を利用した貨物配送システム、セメント会社のミキサー社配送システム(3倍の生産性向上)、
使いやすいチョイス・ボードの活用で顧客の必要最小限の要求を把握し、売上を急増させたデル・コンピュータ、チャールス・シュワブは証券取引で顧客満足度拡大した
2.3 経営とITの融合の定義
経営にデジタル技術を導入し、従来のアトム管理ではできなかった以下のことをビット管理で実現する。
ビット情報による顧客自身の価値向上の提供
モノの生産性から必要情報の生産性で10倍の価値生産
社員の「より価値の高い業務」へのシフト
正しい情報の収集による意思決定の確実性の向上
社内で必要な情報の選択と確実な流れの構築
重要情報のキャッチシステムと組織の効率的活動とその評価システム開発等に貢献する。
IT経営とは単にソリューションパッケージの導入することではありません。経営にデジタル技術を導入することで、これまでの業務の進め方を大幅に改革することです。これは経営者が心を決めて取り組む問題です。まして従来から行われていたアトム管理にあわせて、パッケージをカストマイズする手法は経営の革新に繋がらず、投資効果も期待できません。

3.「規模の経済」から「組合せの経済」X「スピードの経済」への転換
3.1 先進国の必需品飽和時代の経済
 1990年までの世界の経済は「規模の経済」でした。その中で日本はデミング博士の指導と日本人の器用さで製造業を世界一にしました。1990年以降は先進国消費者は基本的に欲しいものが満たされ、国内市場は「規模の経済」を求めるマーケットではなくなりました。
 「規模の経済」は新興国というマーケットに移行しました。日本企業はいまだこの切り替えができておりません。残念ながら「規模の経済」では新興国に勝てる要素がなくなっています。唯一中進国で「規模の経済」に挑戦し、勝利しているのが、サムスンをはじめとする韓国企業です。韓国企業が「規模の経済」を実施できたのは2つの有利な条件と彼らの努力によるものです。
国内市場の独占的な立場にあり、国内で独占的収益を確保できた。
財閥が最も有利な立場にあるが、韓国産業全体が有利な立場を維持しているわけではなく、結果的にウオン安である。
韓国財閥は組織のデジタル化経営を徹底し、組織の市場変化への対応能力を高めている。言葉を替えると、基本的に日本商品を解体し、無駄な部品の削減し、低価格化対応と対象国別の潜在ニーズの取入れを徹底しています。悪い言い方をすればパクリの名手です。日本が米国から学んだことを見習い、「アメリカ出羽の守」ではなく、製造業は「日本出羽の守」を踏襲しました。賢いやり方です。現在は企業レベルの実力が向上し、「アップル出羽の守」により、スマートホン市場で、アップルより多くの台数を売り大きな勝利を収めています。サムスンの次の狙いは日本市場で、日本製造業丸裸作戦に遭遇します。日本企業は国内企業との競争をやめ、サムスンに負けない組織能力を充実しない限り国内市場で韓国勢に席巻されることが予測されます。
3.2 日本経済の行方
1 )日本経済は何故低迷しているか
日本経済が低迷しているのは企業が「規模の経済」体制から、抜け出せないからです。日本で規模の経済を求めても、サムスンに勝てないのであれば、戦略的に方向転換をしなければなりません。結論的に云うと国内には「大量の資金」、「技術」、それに「潜在ニーズ」がありながら、それを有効に活用にする知恵者がいないことが原因だと思います。家電製造業は2社もいれば゙十分です。
2 )日本には潜在ニーズがないのか
日本人は目標を与えると、たちどころに目標を達成してしまう庶民の能力があります。大震災後の停電対策の業績を見るとよくわかります。
日本では1社が「世界中が欲しがる高級品」の開発をすると、アリが群がるように他社がマネをし、日本企業が血みどろな努力を重ねて、コモディティ化の道を推し進めています。この間韓国は日本製品を改良し、世界に売り歩くことでしょう。自滅の道を選ぶより、ゼネコンに頭を下げて、国内談合のノウハウを取得し、世界に向かって、高級ブランド化戦略を開発すれば新しいビジネスが誕生するはずです。
日本は世界最大の自然災害国です。ところが世界一自然の恩恵を受けている国でもあります。自然の恩恵を100とすれば、災害による損出は少ない(100年に一度の災害としても全国規模でないので、実は0.00Xぐらいの確率です)。
自然の恵みを最大限に活かすと、観光日本は実現します。日本人は恵まれた日本の環境を宝と感じていないから、これをビジネスにする発想がないのです。この宝を考えてみましょう。
四季があり、自然が美しい
温泉があり、日本式の温泉効用を考える。(昔日本に来たフランスの技術者が帰国時に日本式風呂桶をフランスに送った)。
最近中国から白馬へのスキー観光客がきました。誘致の努力が効をそうしました。温泉と粉雪に満喫して帰りました。再来したいと言っています。
日本人そのものを「売り物」にする。日本と日本人は彼らに「優しさ、親切さ、安らぎ」を与えます。
これらはすべて「組合せの経済」です。日本人相手と同じ商売をしても彼らが来ることは難しいが、色々な組合せすることを考えましょう。観光事業を例に取ると「行く先の組合せ」、同じ場所で「見学、買い物、体験、交流」という組み合わせを考え、彼らが喜ぶものが何か自ら体験し手見るべきです。中国の金持ちは基本的に日本に来たがっています。これらの発想で新しい企画をつくり行動すれば、大きなビジネスに展開できます。
3 )日本最大のニーズ
 日本にもこんなに多くのニーズがあることを知ってください。
高齢者ビジネス
少子化ビジネス
健康ビジネス
コミュニティ・ビジネス
医療ビジネス
教育ビジネス
農業高度化ビジネス
 これらは国内でできるビジネスで、私達が渇望しているものです。スピード化時代に病院での待ち時間の長さは対処できない問題ではありません。保育所不足、人材育成不足とニーズに満ち溢れています。しかし、ご覧いただくとわかりますが、すべて官庁支配の産業です。これらビジネスは世界的に見れて最先端ビジネスなのです。収益が上がらないのは規制が多くて、ビジネスにならない。また、残念ながら役人が関与するとすべてのビジネスが赤字となっているからです。

日本の危機に対する官僚の動きの鈍さに号を煮やしている国民が増えてきました。そして大阪では維新の会が立ち上がっています。
本来ならば、官僚が立ち上がるべきですが、見方を替えると官僚自身が身動きできない大きな壁があり、これが新しいビジネス構築の邪魔をしています。これは「省庁間の壁」です。国民にとってこの壁は不要です。この際新しい農業を経産省と農水省との共同プログラムとして実行すれば、現行組織のままでも近代農業として企業化できます。医療も然りです。ベルリンの壁ですら、時代とともになくなりました。日本にだけ無意味な壁を残す必要はありません。各省庁が獲得している予算を共同で使えば、無駄が多かった官庁予算を2倍に活用できます。2倍に活用できれば、日本の勢いは倍増します。難しいのは役人にその気になってもらうことですが、日本人は目標が見えると急変し元気になります。特にこの発想は若手官僚にとって望ましいものです。有能で、誇り高い、彼らのキャリアを活かすことができます。若手は最初から天下りを求めて官僚になったわけではありません。本来の目標に近づくことができるわけです。若手に大きな動機を与えることができます。一石三鳥のアイデアです。役所に勢いが出れば、日本は世界一棲みよい国として多くの観光客や移住したい人々で人口問題も解消されると思いませんか。能力の高い官僚が誇りを持って働き、世界に貢献できれば、天下りなどにこだわる必要がなくなり、自分のプロジェクトで得た実績で企業家となることも夢ではありません。このプログラムではP2Mは将に鬼に金棒的存在となるだろうと期待しています。

話は替わりますが、私はこのシリーズを通じて、国内向けの仕事をしている方々に接し、グローバル・ビジネスの常識に余りにも無知なことに驚かされました。
4月からはグローバル・ビジネスのやさしい常識をお伝えしたいと考えています。読者の皆様には、2年間読んでいいただいたことに対し感謝いたしております。

末尾に各号の概要を添付しました。
第1回(2010年4月号) 私たちのP2Mとは何か、考えて見ませんか。
8つの質問でP2MはPMBOKと違って、成果物つくりだすことが第一目的だと書きました。言葉を替えると「発注者のためのPMです」という説明をしました。そしてITプロジェクトに対し、経産省は「ITプロジェクトは経営を扱うのであるから、現状の業務をどのように改革するか社内で合意して要求仕様をまとめなさい」と指摘しています。
第2回 5月号
1990年以降グローバル社会の変化を説明し、日本の家電製品の没落を示唆しました。
第3回 6月号
米国は1990年以降米国企業は「モノ」の管理で経営していたのを「電子情報」の管理に切り替え、新しいビジネスの出現、10倍の生産性向上と経営を活性化させました。
第4回 7月号
デジタル化による経営の改善には是非P2Mを使ってください。このようなメリットがあることを書きました。
第5回 8月号
ここでP2MとPMBOKとの根本的な相違を示しました。PMBOKのPMはプロジェクトそのものの工程、コスト、品質を管理しながらプロジェクトを終了させますが、P2Mは主に経営に貢献する成果物(ITシステム)をどのような手順で創出するかを取り扱ったものでと言う説明をしました。
第6回 9月号
プロジェクトのスタートは契約であると、グローバル社会での常識である契約について皆さんの理解を深めてもらうことを意図して書きました。
第7回 10月号
P2Mの特徴である、プログラムのライフサイクルを、スキームモデル、システムモデル、サービスモデルに分離して管理することを示しました。
第8回 11月号
経産省が示した、ITプロジェクトの超上流の説明をしました。経産省は超上流ではIT化を進める前に、業務の見える化(業務のどこを改革するか提示)し、社内のコンセンサスを得なさい。しかる後にITシステムを考えなさいと言っています。
第9回 12月号
11月号で云われた業務の見える化をP2Mではどうするかを説明しました。P2Mでは、この仕事をミッションプロファイリング(何をしたいのかを明確にする業務)の手順を示しました。
第10回  1月号
ミッションプロファイリングで大事なのは、現状の経営の問題点の「ありのままの姿」を俯瞰することです。P2Mの経営を俯瞰するモデル(OWモデル)を使って、問題点の摘出をします。
 第11回~14回6月号まではOWモデルの説明です。
 (この間4月号休刊としました)。
第15回 7月号
日本の家電製品がサムスンに席巻された理由。米国のデジタル経営に負けた理由を説明しました。
第16回 8月号
ここから経営の「あるべき姿」を描くために、必要と思われるBM(ビジネスモデル)について書きました。
第17回 9月号
アナログ型のBM、デジタル型のBMを紹介しました。
第18回 10月号
第19回 11月号
ともにデジタル型のBMを説明しました。
第20回 12月号
第21回 24年1月号
第22回  2月号
3ヶ月間はBMG(ビジネス・モデル・ジェネレーション)に付き説明しました。
第23回 3月号
23回分の総括としました。

以上
ページトップに戻る