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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (1)

渡辺 貢成:4月号

はじめに
 昨年度は国際P2M学会の中にある「経営とITの融合」という研究会のメンバーとして勉強してきました。この研究会の目的は「日本企業のこれまでのIT化が経営的に本当に貢献しているか」というテーマを取り上げ、問題があればP2M的手法で、どのように問題を取り扱うべきか考えよう」というものです。

 P2Mは今から12年前に全世界に発表したグローバルPMの1つで、グローバル世界の進化を想定して開発された最先端のPMです。発表当時はグローバル化が今ほど進むと予想していなかったため、国内志向の強い日本ではあまり理解されませんでした。それは既に改定したばかりのPMであるPMBOKが存在したからです。

この時期のIT化は、米国産のソリューションパッケージの導入が主流でした。当然のことながらITプロジェクトのPMはPMBOKでした。1996年のPMBOK 改定以前のPMI会員の数は6,000程度でしたが、米国のIBMが「業務をプロジェクトで進める」という日本IMBの進言を取り入れたこと、同時にそのプロジェクトマネジャーはPMIのPMP資格保持者であることを必要条件としました。IBMがPMIのPMBOKを基準にしたこと、米国のIT関連他社がこの決定に追従したことで、PMP資格保持者はうなぎのぼりに増え、PMBOKは世界的に認知されたデファクト・スタンダードになりました。

さて、話をITプロジェクトに戻します。米国で実績のあるパッケイジの導入ですから、発注者は提案者(ベンダー)の言い分を信用して導入を決めます。ところがITは単なる物品の購入と違い多少厄介です。お客様のいろいろな要求を受け入れないと機能しません。そこでベンダーは「お客様のご要望を書き上げてください」という要求仕様の提出を求めます。

ここまでは日本企業も米国も同じですが、日本企業は「IT技術はドッグイヤーで変わるから難しい。我々の基本的なスタンスを話すから、それを加味して提案書を持参せよ」ということになります。そして発注者側の要求を追加させます。
米国ではどのようにするでしょうか。発注者は自分の要求を明確に書類化します。時に自社が新しいものに能力不足であれば、コンサルタントに依頼し、REP(案)を書きます。そこで不備がないかベンダーに検討させ、RFP(見積もり提出のための要求書)を提出します。

両者を見比べてどのような違いがあるかわかりますか。多分日本の発注者はこのように言うでしょう。「日本式は内容に詳しい業者に先に書いてもらい、不足分を我々が追加する。米国式は発注者が要求をまず書き、不足分がないかベンダーに正し、不足分を追加する。どちらが先に書くかの相違で結果は同じではないか」と。

先に書くことと、後で書くことの内容的な相違を考えてください。

私はITの専門家ではありませんからITのことは何もわからないのに等しいのですが、「何のためにIT化するのか」を最初に考えます。目的は何かということです。

これまで私たちは「同業他社がやっているから」という理由を最優先して来ました。しかし、競争の激しい現代で、他社と同じコトをしていたのでは競争に勝てません。ベンダーに書かせるという習慣は同業他社と同じという発想です。業者はあなたの会社の経営者が何を欲しているかわかりませんから、よそ様と同じものを持ってくるだけなのです。それがベンダーのつくった要求書です。それにIT専門家と現業の人が追加した要求書は現状の業務と同じものです。それでグローバル競争に勝つことができるのでしょうか?

再度「何のためにIT化するのか」を考えて見ましょう。答えは簡単です。「IT化の特性を活かして競争に勝つ経営力をつけること」です。

では、質問します。
「IT化の特性とは何か議論したことがありますか」
「米国人の考えたソリューションパッケージの中にそれが入っています」
「そのパッケイジを使うのは誰ですか」
「現場の人です」
「現場の人は、どのようなデーターを入れたら経営が強化されるか知っていますか」
ここで話は途切れてしまいます。実はこのような簡単な議論もなしに、多くのITシステムは日本の企業に数多く導入されています。

最近の経営者は成果の出ないITシステムに腹を立て、IT投資を減らしています。では、この発想は正しいでしょうか。
ところがここに来て、クラウドという救世主が現れました。世の中こぞってクラウド(雲のように中身がわからない)モノに血道を上げ始めました。

過去の問題を反省することなしに新しい物に飛びついても新しい価値をつくることはできません。近年になり社会の複雑性、不確実性、新しい分野のニーズの増加があり、P2Mが脚光を浴び始めて来ました。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」といいます。歴史には長年培われてきたグローバル社会で通用する仕組みがあります。まず、それを学び、次に仕組みを乗り越えることを考えるという手順を踏む必要があります。

本年度のテーマは「グローバルで通用する発想、仕組み、常識」です。このテーマを私と一緒に勉強しようではありませんか。
以上
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