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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~関心を持つ力~

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 ダイバーシティな環境をこれまでいろいろ体験してきたが、2月にPMAJ協会の講師としてAOTS(財団法人海外技術者研修協会)で担当させていただいた講習は、その最たるものだった。ベトナム、インドネシア、インド、バングラディッシュ、ネパール、スリランカ、イラン、エジプト、ガーナ、スーダン、ペルー、11カ国から来日した35名の方との出会いと学びは、実に楽しいものだった。
 講習前に主任講師の田中さんと打ち合わせをした際は、講習の進め方はグレーの状況だった。わからない中で、お互いに確認できたのは、「前回のフィリピンの方と比べると、今回はさまざまな国から人が来ているし、どれだけ英語を話すことができるかわからない。私のインタラクティブな講習の進め方は、陽気で話好きなフィリピンの方には好評を博したが、今回はリスクがある。よって、ワークを入れたとしても、個人作業にしたほうが無難」ということだった。インタラクティブな講習ができないとなると、他の方法で、皆さんの関心を維持する必要がある。イノベーションを示す例として、最近の記事を調べたり、彼らの行程に入っていたスカイツリーの建築現場の見学にヒントを得て、スカイツリーの形をしたフリクションボール*も準備したりした。
(フリクションボール*: 温度変化によりインキを無色にする「フリクションインキ」を搭載したボールペン。「フリクションインキ」には消色温度が設定されているため、筆跡をボディ後部の専用ラバーで擦ることで生じる摩擦熱によりインキの色が無色に変わり、筆跡を消すことができる。パイロット社のウエブより抜粋)
 実際にふたを開けてみると、フィリピンの方同様、積極的でフレンドリーな人たちが多かった。休憩時間や講習終了後に次次と近寄ってきて、”Photo?”と語りかけてくる。ツーショットやグループショットなど、何十枚の写真を一緒に撮ったことだろう。ちょっとした有名人の気分だったし、急に人気者になった気分。下の写真は、ガーナの人たちと撮影したもの。この中の一人は特に人なつっこくて、「いつガーナに旦那さんと遊びに来る?来る時は連絡して」と何度も声をかけてくれた。
 これまで遠い存在であった国々の方々が、急に身近に感じられるようになった。不思議なもので、これらの国々の情報も目に入るようになってきた。新聞に記載された記事。例えば、ガーナに日本企業が投資をするという話。ペルーの日系3世の方が、ペルーでNPOを作り、貧困を減らすことに貢献しているという話。会社から帰宅して何気なくテレビを見ていたら、NHKでペルーの街を紹介する1Hの番組が流れたりもした。自国の民芸品をプレゼントしてくれる方もいて、我が家は、異国情緒が漂うようになった。さらに、リンクドイン(ビジネスを主とするソーシャルネットワーク)やフェースブックでつながろうというリクエストもあった。これからも、私のこれらの国々に対する関心が維持される環境が整った。
 関心を持つことで、自分が得ることができる情報の量が増える。相手の国で起きるさまざまな出来事に、思いを寄せることもできるようになる。自分の意識の中で遠くにあった国が身近になり、世界は本当に狭い、つながっているのだと実感できるようになる。この感覚は大事なものだと思う。
 この感覚を突出して持っていらっしゃるのが、主任講師を務められたPMAJ協会の元理事長の田中さんだ。世界中をP2Mの講習で飛び回っていらっしゃる。AOTSでの講習の数日前も、ウクライナから戻られたばかりだった。田中さんから学ぶことは、非常に多い。どんな方とも、Amigo(友達)の精神で接するフレンドリーさ。参加者のために、昼休みの時間を削って買い物に行くサービス精神。参加者の質問に丁寧に答える熱心さ。幅広い経験から、どんな質問にも即座に答えることができる博識ぶり。そして、私が聞き取ることができずにいる、訛りの強い各国の人が話す英語を聞き取る能力。
 そんな田中さんに支えられて、AOTSでの講習の評判はよく、来年も続く可能性が高いという。今回のLessons learnedを反映して、次回はレベルアップをはかりたい。そのための具体的なやり方も、田中さんにはお伝えした。自分をいい状態にもっていって、新たな出会いを迎えたい。次回は、どんな未知の国々との出会いがあるだろう?
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