投稿コーナー
先号   次号

リスクベース・アプローチの実践-整理

河合 一夫 [プロフィール]
 Email: こちら :2月号

 リスクベース・アプローチの実践例として、ある中堅企業の基幹システムの再構築プロジェクトを例に説明しようと考えましたが、プロジェクト状況の関係で少し時間がかかりそうです。そこで、本稿では、これまで説明してきたリスクベース・アプローチを整理し、今後の展望を述べてみたいと思います。
 リスクベース・アプローチは、リスクアセスメントに基づいて意思決定をする考え方であり、費用と便益との兼ね合いを社会が受け入れる基準を用いてコントロールするという考え方をベースにしています。ここでリスクとは、「目的に対する不確かさの影響」(ISO31000:2009)と定義されています。プロジェクトが複雑で多様な環境で実施される中で、リスクに対する適切な対応手法を持つことが必要となります。将来の事象(リスク)が予想つかない状況下でどのような意思決定をして行動すればよいのか、その規範が必要となります。

 リスクベース・アプローチの効用は二つあります。第一にリスク文化が醸成されるということです。リスクベース・アプローチにより「この決定により、我々は今後どうなるのか」を考える文化が作られます。リスクが組織目標に与える影響を常に考えるようになります。第二に既に発生した事象(事実)に注意を払い、より大きな事象の発生を予見した行動がとれるということです。ハインリッヒの法則に見られるような小さな事象の発生に潜む問題を見逃さない文化が作られます。
 リスクベース・アプローチに取り組む際に必要となるのがリスクに対する認識を共有するための技法です。リスクは、個人が認識するモノやコトです。リスクを「見える化」することが重要です。本連載では、5つの要素と6つのプロセスを用いた手法を紹介しました。5つの要素とは、1) 問題、2) モデル、3) リスクシナリオ、4) シナリオマップ、5) リスクメタ言語、です。問題を定義し、その問題に対してモデル、シナリオ、シナリオマップ、リスクメタ言語を利用してリスクを特定し分析します。


 リスクベース・アプローチは、スコープマネジメント、タイムマネジメント、コストマネジメント、品質マネジメント、人的資源マネジメント、コミュニケーションマネジメント、調達マネジメントといったプロジェクトマネジメントの各要素をリスクマネジメントにより横串にするマネジメントです。各マネジメントにおいてプロジェクト目標に対する阻害要因を早期に取り除き、プロジェクト目標の達成確率を上げる活動をリスクベースで行うものです。


 本稿では、これまでに説明をしてきたリスクベース・アプローチを概観しました。リスクベース・アプローチについては一旦筆を擱き、次稿ではプロジェクトにおけるベンダーとの関係に関する連載をスタートする予定です。リスクベース・アプローチの実践については、適宜紹介していこうと思います。
ページトップに戻る