PMP試験部会
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「作る技術と、使う技術」

イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭:1月号

 2012年新年おめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。

 新年早々あまりいい話ではなく申し訳ありません、昨年の12月18日のNHKスペシャルで「シリーズ原発危機:メルトダウン~福島第一原発 あのとき何が~」と題して福島第一原発でのメルトダウンがなぜ防げなかったのかという放映があった。また12月21日NTTドコモの「spモード」のメールが間違ったアドレスに配信された事故があったと報道されていた。

1.福島第一原発でのシビア・アクシデントではイソコン(Isolation Condenser)は重要なものと認識をしなければならいと米国のNRCで認識され、また平成4年日本の原子力安全委員会のアクシデントマネジメントにて必要なものとして決定されていた。しかし東京電力の現場では、その使用方法を知らず、特に電源喪失時は一度バルブが閉鎖され、手動でバルブを開く必要があることを知らなかった。その為イソコンの使用の遅れをまねき、確実にメルトダウンに至る時間を短縮してしまったと報道された。NHKの独自調査番組だったが、大本営発表をたれ流すだけの報道が多い最近のマスコミュニケーションの報道の中では出色の番組であった。また反応も非常に多く、大事事故ならではの反応だった。

2.NTTドコモの「spモード」のメールが間違ったアドレスに配信された事故は関西地区で影響が10万人であったためそれほどマスコミは大きく取り上げていなかったが、通信の世界での宛先間違いは、本業の致命的誤りであり、報道以上に大きな問題を含んでいる。
原因の発表もドコモの副社長が行い、原因が単なる通信量が多いことが原因で自然復旧し詳しい原因の説明も行わなかった。通信を本業とする企業としての自覚が極めて不足していると言わざるを得ない。

3.両事故の共通性。
原子力発電所事故はGEが設計を行った物を国内の企業が施工し納品され、東京電力が運転をしているもので、NTTドコモの事故は要求仕様をNTTドコモが行い、国内メーカーに設計・製造を委託し納品したものをNTTドコモが運転している物である。そこに共通しているのは、基幹業務の根本を成立させるH/W、S/Wを外部の企業に委託して作成し、納品されたものを運転している時に発生していることである。筆者がプロジェクト・マネジメントの指導を行っている場合もよくあることだが、納品された物に対する知識が非常に貧しく、本来の機能、性能を発揮しないことにはよく遭遇する、なぜこのような問題が発生するのだろうか。

4.原因
 発注時の仕様の提示を行うことは物作りの一歩であって物作り全般を指すのではないこと理解していない発注主が日本では非常に多い。「あれは我が社が作ったものだ」という発注側の発言をよく耳にする、それは資金を提供するという面から見ると、物作りのステークホルダーの一員ではあったことは間違いではないが、作る行為の主体者ではない、先を見越し有効な要求仕様を出すことも物作りのステークホルダーの一員としては重要な役割を演じていることは間違いないが、作る行為の主体者ではない。
 なぜ物作りの主体者でないことに拘るかというと、運転中にアクシデントが起きた際に必要とされる技術の全てを製造の主体者から発注主に伝えられないからである。
 原子力発電所のイソコンに関する技術知識を製造者から運転者に、どちらに責任、手抜かりがあったか分からないが不備であったことは疑いようもない事実となってしまった。そこには運転している炉の全て電源が失われることを想定していない、また運転中の炉全てが同様に電源を失うことを想定していなかった。電源喪失時イソコンが極めて重要な機器である認識がなかった。様々の訓練が行われたのだろうが、日本では非常時の訓練といってもあまり深く認識することなく漫然と訓練を実施することが多く、東京電力もこの病にかかってしまったのだろう。訓練は訓練のマニュアルを見直すことを含むという習慣は日本では殆ど存在しない、行わないよりマシという程度のアクシデントに関する訓練が殆どである。
 NTTドコモの事故に関しては、原因を大量の通信のせいにしているだけで真の原因は分からないが、通信会社で多い事故は、サービスの拡充が急速で、H/W環境の整備が追いつかず、試作の環境を増強したままで本サービスを実施し、大量の通信量を消化することが出来ないことがよく発生する。また原因追及を制作したH/W、S/Wメーカーに頼らないと行えない場合が多く、だが全体を熟知したメーカーが存在せず原因究明が中途半端になることが多い。また要求仕様を出しただけの運転者側に全体を俯瞰出来るに必要な技術力が無い場合が多く、真の原因追及がおざなりになってしまうことが多いようである。又事故発生時のマスコミの追求も甘くその場限りの対応で済ませることが多く、毎年同じようなトラブルを発生させてしまっている。
 両者とも日本の代表的企業であり、片や関東の電気全てをまかない、片や日本の携帯電話の半数近くを担っているが、共にその基盤である技術知識に疎いという自覚が乏しいのではないだろうか。

5.スポンサーの姿勢
 スポンサーは確かに資金の担い手という極めて権利の高いステークホルダーではあるが、自分たちは物作りの主体者ではないということを自覚し、技術に対し謙虚であらねばなるまい、過去のように発注先に対しスポンサーであるという護岸不遜な態度を取っている限り、技術を尊重しメーカーから教えを請い安全に運転する技術を確立することは出来ないであろう、このことは、今回取り上げた二つの事例だけではなく、日本における発注主と受注者、元請けと下請けとの関係すべてに共通して言える。
 システム開発では、発注主が発注した通りの物が出来たか受入検査を出来ないことが殆どであり、受入検査自体を別の企業に発注し受入検査の意味をなさないこともよくある。受注者側を受入検査にどのように参加してもらうかは発注者が責任を持って工夫を凝らすべきことで、他の誰もそれらを変わるとこが出来ない。受入検査以降、運転も含め将来かかる費用に適正な価値を見つけている企業、団体は少ない。
 今までは「作る技術」と「使う技術」の繋がりが明確でなかったが、今回取り上げた二例を見ても、運転の技術が極めて重要なことは明確なので、「作る技術」と「使う技術」をステークホルダーの協力で融合させ、技術知識の継続性を失わないようにしなければならない。

6.PMBOKにおける受入時の検査
 PMBOK(4版)の調達での検査に関する記述は、納入者は協力をすることくらいの記述はあるが、現実の世界での話題に応える水準ではないので、今後納品後の運用保守に役立つ検査、納品行為がどのようなものであるべきか参考になる記述がされと良いのではないだろうか。
以上
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