関西P2M研究会コーナー
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「コンシューマリゼーション」

馬場 孝司 [プロフィール] :12月号

企業の情報システムは、給与計算や経理伝票の処理のため人事部や経理部などバックオフィスの業務処理からスタート、生産現場・設計開発現場・物流現場そして営業現場などフロントオフィスの業務処理へと発展、そしてネットワークを通じて直接顧客企業や個人と接続し、データ交換や受発注処理システムへと進化の歴史をたどってきた。
一方、インターネットの爆発的な普及とコンシューマデバイスの進展は予想をはるかに超え、生活者のデジタルライフスタイルは急速に発展した。
従来のPC文化がスマートフォンやスレートなどマルティデバイスに変化し、万能生活ツールとして浸透している。メール・スケジューラ・カメラ・ビデオ・電話・ゲーム・ソーシア ルメディア・基本ビジネスアプリ(文書作成、表計算など)・ショップなどなど、身体の一部となりライフスタイルそのものになっている。
東北の震災時、様々な事後処理の場面において「表計算ツール」が多くの人々に極々普通にこともなげに利用されたことでも理解出来る。そういう時代になったのだ。
「コンシューマリゼーション」と言われる所以である。
このように「生活者」個人のデジタル利用環境及びデジタルスキルが高度化した結果、相対的に企業の情報化の遅れが目立つことになり、個人と企業のデジタルデバイド(情報格差) が進んでいると思われる。最新の技術水準を踏まえ、顧客との接点を構成するシステムをチェックすべきである。
特にB-Cのビジネスモデルでは高度なデバイスとスキルを持った消費者とのリレーションシップの在り方についての見直しは不可欠である。
従来のホームページやメールについてもきめの細かさ、楽しさやスピードアップに一層気を配り、動画の採用そしてソーシアルメディアの取り入れその他デジタルライフにふさわしいシステム構築への研究を怠ることは出来ない。
又、先に述べた企業の情報システムの進化は、古いシステムを改造しその上に新しいシステムを積み上げてきた歴史でもある。従って、デジタルライフスタイルの視点から現行基幹業務システムを見た場合、必ずしも合理的とは言えない可能性もある。
例えばスマートフォンとの対話を考慮したインターフェースになっているかなどだ。
再評価が必要かもしれない。
もう一つの課題は、「生活者(消費者)」は同時に自社の従業員でもある。
運用している情報システムと社員が持つ高度な(或いは多様な)デジタルライフスキルとのギャップにも配慮する必要があるだろう。
自社の情報システムが高度なデジタルスキルを持つ従業員に十分応えているかどうかビジネスワークの生産性を向上させるためには不可避の検討テーマだ。
誤解を恐れずに言えば、企業情報システムの高度化のポイントは、恐らく先行しているであろう「生活者」のデジタルライフスタイルをビジネスワークスタイルへ取り込むことだ。
さて今、デバイスの公用・私用の切り分けの議論が盛んに行われている。
使いなれたPCやデバイスを自由に使える姿を想像しつつ、しっかりと議論することが大切だろう。
ここにcomputerworld社によるスマホ所有者のアンケート調査結果がある。
スマートフォンを業務に利用することで以前より生産性が向上したか。
  大きく向上した:23%、・向上した:46% ・変わらない:30%
生産性向上につながるポイントは
  持ち歩きやすく、起動も早いため、空いた時間に作業が出来る
  外出先でも電子メールが確認でき、応答も迅速になる
  PC無しで社内の情報リソース(グループウェアや資料)にアクセス出来る
  外出先でも幅広い情報収集が迅速に出来る
生産性向上を妨げるものは何か
  業務アプリケーションがスマートフォンに対応していない
  スマートフォンの文字入力が、ノートPCや携帯電話に比べて難しい
  社内ネットワークや社内システムへのアクセスが禁止されている
  機密情報や個人情報、顧客情報の取り扱いにかかるルールの存在
個人所有のスマートフォンやタブレットなどのデバイスを企業内業務でも積極的に利用しようとする動きがあるが、これに対してどう思うか
 (ここでは費用負担問題、セキュリティ問題は考えない)
  出来れば個人所有のスマートフォンを使いたい:21%
  やはり業務では会社支給のスマートフォンを利用したい:50%
  どちらでもよい(こだわりはない):27%
スマートフォンの業務利用による生産性向上効果は大方の認めるところだろう。
しかし、私物スマートフォンの利用には問題が山積だとも指摘している。
費用負担問題・会計上の問題・セキュリティ問題・私物に業務データが混在する
アプリ開発で対応させる機種/OSが増える・2台持ちの不合理 など
一方、私物利用のメリットも示されている。
私物、会社支給の2台を携行するのは面倒・自分の使いやすい端末、アプリ、環境設定で使える・会社の予算では、高性能な機種が支給されない・私物、会社支給の2台持ちでは情報が分散する など
2台持ち、その上にノートPCまで持つことになってはとても”スマート”とは言えないとの意見もある。もっともだ。
つまるところ費用負担問題と安全担保問題に集約され、生産性向上への期待とのトレードオフということになる。まさに経営者の意志決定に掛っている。
なにやら今佳境のTPP問題に似ているようだ。
コンシューマリゼーションの高まりは無視できない。ビジネスワークスタイルの変革に向けて大いに挑戦する必要があるだろう。
様々な議論とともに複雑な手続きとルール改訂を必要とする大企業とは違い、意志決定のスピードが特徴の中小企業ではただちに導入を検討すべきだと思う。
個人的には、乗り物や喫茶店・レストランで大勢がPCやスマートフォ相手に黙々と作業している姿は必ずしも歓迎しないが。是非エチケットはわきまえてほしいものだ。

報道によれば米国VMware社は2011年8月、同社が開発したスマートフォン/モバイル・デバイス向けのハイパーバイザを搭載したデバイスを韓国さSamsongや韓国LNGなどが製造する と発表した。朗報だ。これにより、1台のスマートフォンで、完全に隔離されたプライベート用/業務用の環境を切り替えて利用できるようになる。
さて、スマートフォンなどマルティデバイス活用を前提にしたワークスタイル変革を目指す企業の集団活動を一つのプロジェクトとして捉えた場合、経営者の意志と現場のニーズを調整しつつ最適解を得るプロセスはプロジェクトマネージャの腕の見せ所となろう。
以上
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