関西P2M研究会コーナー
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関西P2M研究会のプログラムマネジメント分科会を終えて
~P2M物語「地方自治体と薬局店」のバックグラウンド~

日本ユニシス 赤石 倫子 [プロフィール] :11月号

1 環境変化におけるプログラムマネジメント分科会
 去る2011.9.16の第95回PMAJ関西の例会で、私が所属していた関西P2M実践事例研究会の「環境変化におけるプログラムマネジメント」分科会の研究成果を発表する機会をいただきました。この分科会は、プログラムマネジメントをテーマに活動しており、今年度のテーマは「中小企業経営にプログラムマネジメントを活かす」でした。
そこで、中小企業の経営者や大学生・新入社員にもP2Mやプログラムマネジメントを理解して活用してもらえるような物語風の手引書を、環境変化に直面している業界ごとに作成することにしました。
抽出した業種・業界は、鉄鋼・印刷・商店街・建築・医療・不動産で、私はその中の医療について担当することになりました。本稿では、この物語の生まれた背景と私の日頃考えているP2Mおよび経営に対する考えについて述べたいと思います。


2 ストーリー作成のきっかけと背景
  薬局店を題材にしたきっかけは、自宅の一階を店舗にしていた近所の薬局店が、近年閉店したことです。長年の間、目の前に薬局がありながらここで購入したのはたったの一回だけでした。今やドラッグストアもネットショップも不自由なくアクセスできる環境において、そこで購入するメリットはなかったからです。ただ、もし、この薬局店に商品以外の近所ならではの付加価値(サービスや情報提供、コミュニケーションの楽しみなど)があればまた違ったのではないかと思うのです。
 同じような問題は、今多くの中小企業や個人事業主が直面しています。自分だったらこうしただろうと、考えていたことを物語りにしてみることにしました。

 この物語の舞台は、ある山間地帯の村です。そこで、近所の薬局店のように閉店の危機に直面している薬局店が、地方自治体の村役場の地域活性推進課のプログラムマネジメントの元に、新事業ドメインに方向転換を図ることで事業再生を実現し、他の事業主もそれに続いてP2Mフレームワークを活用することで再生の道のりを歩み、村自体がかつての活気を取り戻していく、という内容です。

 その舞台となった村は、近年私がスポーツイベントに参加するために年に数回訪れるようになった実在の村をイメージしています。初めて訪れた時に、イベントの様子を写真にとって村のホームページに載せてくださる村役場の方が大変感じがよく印象に残りました。それ以来、その村のホームページを定期的に見るようになり、村の状況が財政的にも非常に厳しく、村長を中心に財政再建に向けた施策を実施しようとしていることもわかり、応援しようという気持ちになりました。

 一方で、イベントに参加した側としての第一感想は、せっかく全国レベルのイベントの開催地として利用してもらうなら、単に場所を貸すだけではなくもっと積極的にイベントに関与して村の収益に結び付けるような施策があってもよいのでは、と思いました。
 たとえば、食事や宿泊が便利でない環境で、地元の食材を生かした健康によいお弁当がレース前後にあればとても助かります。また、自家用車が無い人はレース前後の行動がとても不便です。せっかく素晴らしい場所に来ても、良さを十分味わうことができません。そもそも、自家用車でない人たちは来ることを、諦めてしまうでしょう。実際私の知人も、このような理由でここでのレース参戦を断念している人がいます。これもまた、機会損失です。

 さらに、ちょっと残念に感じていたことは、雄大な自然と山岳信仰の長い歴史、温泉などよいものが数多くあるにもかかわらず、訪れた人に“幸福感”や“感動”を与え、“また来たい”と思えるようなおもてなしの表現が、必ずしもうまくできていない点です。たとえほかの有名な観光地のような華やかさはなくても、心温まる自然なおもてなしがあれば十分なのに、そのようなちょっとしたことができていないこともまた、非常に勿体ないことです。

 個人薬局店と山間地方の村を舞台に再生物語を作成しようと考えたきっかけは、以上のような理由からです。


3 サービスサイエンスとプログラムマネジメント
 このような改革をするには、一事業主の努力だけでは達成できません。やはり、地域を挙げて人々の意識を変え、経営問題と地域問題に取り組む必要があります。その部分をプログラムマネジメントの考え方として描きました。

 P2Mに関連する内容では、基本的なキーワード(P2Mタワー、アーキテクチャマネジメント、価値連鎖など)に加えて全体を通して「サービスサイエンス」の考え方に重点を置きました。物質が豊富で品質でも差がなくなっている現代社会では、人が求めるものはモノではなく心の充足感や感動やサービスであり、プログラムマネジメントもソフト面にフォーカスした価値の創造こそが意味を持ってきます。
 このようなサービスサイエンスの視点から、物語の細部には、日ごろ自分自身が意識し実践をしたいと考えている「非効率経営」「感動3.0」などの考え方も盛り込み、ストーリー性を出すことに努めました。

 そのために参考にした成功事例は2つあり、1つは隣の市の商店街です。その商店街は、近くにGMSがあるにもかかわらずいつも活況にあふれていて、どのお店に入っても例外なく応対が丁寧でとても感じがよいのにいつも感心します。また、環境に配慮したソーラーパネルや、銀行と連動したカードシステムやITインフラの充実がさらにそのステータスと利便性を向上させていて、中小企業庁の「がんばる商店街77選」にも選ばれています。これらは全て地域のリーダーを中心に一丸となって改革を進めた成果で、プログラムマネジメントの好事例と言えるでしょう。

 もう一つは、関東発のハンバーガーチェーン店です。そこにある手作り風のバナナケーキは、私自身大変気に入っているのですが(ハンバーガーは食べなくても、そのケーキだけを買いに立ち寄ることもあります。)それをお店に置くようになったのは経営者の奥様のアイデアだそうです。一号店の出店の条件として、奥様が自分で焼いた手作りのケーキをメニューの1つとすることを提案したところ、それが大ヒットして現在でも定番の人気メニューとなっています。(もちろん、今は全国チェーン店になったので、焼きたてでも奥様の手作りではありませんが!)

 このP2M物語も、新事業ドメインでは、女性の視点を多く取り入れることで事業の大転換を果たしています。おりしも、新聞には大手製薬会社もハーブの効能を利用した薬の開発に乗り出したことが書かれていました。この物語の主役ともいえる薬局店の奥様の将来予測も、それなりに当たっていたようです。

 今回、物語を通してP2Mタワーに当てはめたそれぞれの役割や推進方法は、どのビジネスにも当てはまる構図です。プログラムマネジメントの基本を理解してもらう、という目標は達成できたと思います。しかしながら、この物語を作成するにあたって、P2Mガイドブックなど関連書を改めて読んでみたものの、まだ十分納得・理解ができていないことも判りました。“誰にでもわかるP2M”物語をより充実させるためにはさらなる理解と工夫が必要と感じています。

 最後になりますが、P2M物語を例会の場で発表する機会を与えてくださった分科会やPMAJ関西の皆様に感謝申し上げます。個人的な趣向をベースとしたP2M物語を、例会という公の場で発表することに多少の抵抗もありましたが、よい経験になったと思います。また、舞台となりました村全体のさらなる発展を心より願っております。
~以上~
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