関西P2M研究会コーナー
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某中小IT企業~変革への挑戦~

海藏 三郎 [プロフィール] :10月号

 あらゆる業種業界で厳しい経営環境が続いている昨今、IT業界も例外ではなく、厳しい状況下にある。特にリーマンショック後、中小ITソフト会社においては、売上が半減している企業が多いと聞く。大きな要因はSE(システムエンジニア)単価の大幅ダウンである。受発注元である大手企業の大幅コストダウン要請に加えて、オフショア開発推進への流れが、SE単価切り下げに拍車をかけたようである。
 新大阪に拠点を置くIT会社のX社も多くの中小IT企業同様に、リーマンショック後、大幅な経営悪化に喘いできた。人員整理以外は考えられる、あらゆる手段を講じながら経営体質のスリム化を行い、漸く昨年度は僅かばかりの利益を確保することが出来た。
 ただ、X社の社長は10年ほど前から自社独自技術を駆使した自前商品開発に拘ってきた。下請け的な体質を続けていては、経営の独自性や安定性は図れないと感じていたからである。リーマンショック後、この思いが加速した。産学連携等に積極的に取組み、自前商品開発に必要な基礎技術を持つ、大学教授等との知遇を得る。X社の変革への第一ステップとなるべき商材「三次元身体計測システム」開発技術を培う契機となった。
 「三次元身体計測システム(商品名:スタイルスキャン)」は、人のボディ(現状は首から下で、裾から上)を三次元的に瞬時に計測するシステムである。仕組み操作は到って簡単、約3.4メートル離れた両端にそれぞれIPカメラとプロジェクターを設置した装置を置く。中央に人を立たせ、スイッチを入れるとプロジェクターが点燈し、約3秒で専用コンピューターが被測定者のボディを撮影し、身体の3D画像を表示する。3D画像は、360度回転するので、1回の撮影で、あらゆる角度からの体形観察、身体計測が可能となる。用途として当面は、高機能ウェア等の開発販売を行うアパレル業界、スポーツウエア業界が主流だが、身体の線が明確に表示されるので、今後はオーダーメードウェアやダイビングスーツ等の販売ツールとしても応用範囲は広がりそうだ。
 販売価格は標準構成(撮影機器一式、専用パソコン)で250万円、年間使用料(ソフトのクラウドサービス料)は25万円である。現状、同様な身体計測を三次元的に行う装置は、1000万円前後の費用がかかると言われるので、価格的にも優位性のある商品である
 大手繊維メーカーの研究部門の協力も得ながら開発された当商材は、X社のオリジナル商材として、近々、一般リリース予定である。X社の大きな飛躍変革への一歩となることを祈念したい。

 さて上述のケースは、大阪府の「中小企業経営力アッププロジェクト」で筆者が関わった某中小IT企業の事例である。X社社長は早い段階から、次のあるべき姿を模索してきた。厳しい経営環境が続くと、現状打破のためのヒントを見出そうと必死にもがく企業経営者は多い。だが、ほとんどは“時すでに遅し”である。
 良いときのビジネスモデルが長期に亘って保障されることはない。常日頃から、自社のあるべき姿(ビジョン)を描き、現状のありのままの姿を冷静に分析した上で、ビジョン到達のためのシナリオを描いていこうとする、経営者の熱意ある姿勢が求められる所以である。
 まさにP2Mのプログラムマネジメントの実践である。少々飛躍するかもしれないが、今後の中小企業活性化のためには、中小企業経営者がP2M実践手法をマスターするとともに、それを支援していくためのP2Mコーディネーターが必要になるのではと筆者は考えている。
 関西P2M研究会のひとつに「環境変化におけるプログラムマネジメント」分科会があった。中小企業におけるプログラムマネジメント適用の実践手法にアプローチし2年間の研究成果を今年まとめあげた。過日(9月16日)は関西例会で成果発表し大変好評であった旨を伺った。
 本年度、一時的に休会した関西P2M研究会も来年度(2012年4月)は再スタートする予定である。今後も“中小企業とP2M”というキーワードは活かして生きたい。研究会メンバーが楽しく面白い活動を続けるとともに、結果として、社会に役立つ研究成果を残せれば本望である。
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