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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (12)-BMの勉強⑤-

渡辺 貢成:12月号

BM(ビジネスモデル)の話も5回目になります。先月は連載4回のまとめをしました。今回はBMをどのようにして創り上げるか、昨年BMG(Business Model Generation)という本が出版されたので、知的所有権に抵触しない範囲内でご紹介します。

1. ブルー・オーシャン戦略
   私達は厳しい競争社会の中で、あらゆる手を使って勝ち抜く努力をしています。ビジネス競争で最も重要なのが戦略です。有名先生の戦略論が脚光を浴び、1社が成功すると、他社が追従し、結果的に赤字競争を繰り広げています。2005年に「ブルー・オーシャン戦略」の和訳本が出版されました。ブルー・オーシャン戦略は経営基盤を支えていた従来の価値観を一新し、赤字の海から脱皮し、青い海原でビジネスの勝利をえるという戦略です。
図1 戦略キャンバス

アメリカは世界3位のワイン消費国で、カリフォルニアワインがその2/3を占めています。
残りがカリフォルニア産以外と他国からの輸入で、激しい競争を繰り広げています。この競争の中で業界再編が行われ上位8社が国内生産の75%を抑え、残り25%を1600社で分け合っている状況です。この競争の激しさで、経営力に乏しい弱小ワイナリーは淘汰されていますが、全般的に値下がり圧力が高く、需要も伸び悩んでいるというのが現状です。図1は戦略カンバスという概念を取り入れた解析手法を用いて黒字の海での操業を提案しています。
図はワインを評価する価値観をX軸にとり、価格をY軸にとった図です。この図を見ますと、競争している高級ワインとデーリーワインは同じ価値観で製造をしており、品質の差が価格の差となっていることがわかります。ここでの問題は需要が伸びないという問題です。

さて、ここからがクイズです。あなたなら何をしますか?
Aという頭の切れる男が「何故ワインの需要が伸びないかと」調べました。Aはあることに気がつきました。業界全員が同じ価値観で戦っていることです。欧米人にとって食事とワインは教養の一つです。ワインの知識がないと高級料理店で食事が楽しめません。当然若い人は教養も、金もありませんから高級料理店には行きません。Aは若者向けの飲みやすいフルーティーなワインを探しました。若者に試すと手ごたえがありました。そこで再度上図(戦略キャンバス)上の青い線を見てください。Aは飲みやすいワイン1種だけを市場に提供しました。そして従来の価値観を無視し、値段はデーリーワインより高くしました。若者はソムリエと相談することなく「食事と会話」を楽しむことができる「イエローテール」に飛びつき、この商品は爆発的に売れました。しかし、これはワイン市場という従来の市場とは別のマーケットを開発したともいえます。
さて、あなたが高級ワインの経営者ならどのようにして対抗しますか。高級ワイナリーが100年間も続けてきた価値観を放棄したら、屋台骨が崩れること、これは「ワイン市場」ではないことに気がつき、自身が被害を受けないと考え、従来の価値観を放棄する戦略を採用しませんでした。

2. BMG(Business Model Generation)
  ブルー・オーシャン戦略は見事に成功しました。戦略キャンバスを使って新しいBMをつくり上げたのです。この戦略キャンバスを使ってBMをつくり上げるしくみをつくったのが、これから説明するBMGです。今回はBMGによるBM構築の仕組みとそのプロセスをお話します。
図2 BMGの内容
2.1 BMGの構成
  BMGは図2に示されるように5つのセクションで構成されています。
1) Canvas: キャンバスは9つの視点でBMを眺めます。①顧客の選別化(マーケッティング)、②(商品、サービス、その他を含む)価値提供、③流通(販売)、④顧客関係性構築、⑤歳入の経路(収入源)、⑥主要経営資源、⑦主要業務活動、⑧主要なパートナー、⑨コスト構築構造(組織力)から成り立っています。BMは結局9つの視点に含まれる各要素の組み合わせになるという発想です
2) Pattern: BMには種々のパターンがあります。①BMの解体、②ロングテイル、③マルチ・サイド・プラットフォーム、④無料のBM,⑤オープンBM(詳細は次回)
3) Design: BMをどのような手順でつくり上げるかを示しています。
①顧客を洞察する、②洞察したことを概念化する、③発想を見える化する、④プロトタイプをつくる、⑤物語をつくる、⑥シナリオを書き上げる
4) Strategy: シンプルなBMはどこにもない。現実にあるのはたくさんの機会と、たくさんの選択です。そして私達はそれらをすべて覆い尽くさなければならない。
そのために①BMの環境の改善(今日の競争力は明日は時代遅れとなる)、②BMを評価する、③BMをブルー・オーシャン戦略で洞察する、④多様なBMを操作する
5) Process: BMを構築するための準備から、設計、現場で実行し、その反応を見て修正するまでの作業をプロセス化したもの
①成功するBMのデザインを立案する、②BM取り組みに必要な要素を調べ解析する、③実行可能なBMを選択しテストしてベストを選ぶ、④現場においてBM原型を実行する、⑤BM実行で市場の反応に対し修正を行う

以上がBMGの大まかな概念です。

私がこの問題を取り上げたのは、多くの日本企業が自ら行うBMを自ら創り出すという発想を持たず、依然米国からのおこぼれを待ち受けているからです。それは日本が製造業で世界一になり、自らが新しいBMをつくる時代が来たのに、待ちの姿勢で、20年間を過ごしてきました。この間米国は製造業で世界一になることを求めず、自らの技術と資本を新興国に委ねてしまったのです。韓国は製造業で米国からもはや得るものがなく、日本から学べと、この方針を徹底しました。そして企業にとって最も重要な顧客関係性構築を新興国に求めました。それは大きな需要は先進国になく、新興国にあると理解したからです。日本人自身が米国だけを見つめて、将来を見る目を持っていなかったことの証です。そして日本人は未だに日本の持っている可能性(ケーパビリティー)を理解せず、受身の議論に終始しています。
 日本人が開発したP2Mを日本のエリートは全く評価していません。しかし、欧州はPMBOKではなく新時代はP2Mということを理解しています。では、米国はどうしたかお話しします。日本がP2Mを2001年に発表した直後、遅れをとったことを理解し、直ぐOPM3のスタンドードを発表し、続いてプログラムマネジメントのスタンドードとポートフォリオマネジメントのスタンドードを発表しました。このスタンドードは個々に実施していた金融プロジェクトをポートフォリオで整理し、有望な類似のプロジェクト多数集めてプログラムとして管理し、利益を拡大することを狙ったものです。このプログラムは通常マルチプロジェクト型プログラムと呼ばれているものです。P2Mは多様化された社会で価値を生み出すには、異なる幾多のプロジェクトの組み合わせで、従来は達成できなかった価値を創り出すという価値創出型プログラムマネジメントです。最近米国も金融で一攫千金を狙うことをあきらめたのか、価値創出型プログラムマネジメントを発表すると聞いています。

 今年は大震災という災害を蒙りましたが、これを新しい日本を創り出す機会と捉える時と多くの有識者は考えています。韓国は国を挙げて、ポジティブに行動しています。従来からの日本の政治家はネガティブを政治の道具に使ってきました。国民は今でもネガティブ思考に慣れて、勢いがありません。そろそろ私達は日本人を信じて、ポジティブ思考に転換しませんか。そのために新しいBMをご自分で創ってください。次回はBMGの内容を少し掘り下げて紹介します。
以上
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