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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (11)-BMの勉強④-

渡辺 貢成:11月号

BM(ビジネスモデル)の話も4回目になります。連載モノは話の筋が見えにくくなるために、簡単に何故BMをテーマに取り上げたかをおさらいします。
1. 過去3回のまとめ
  BMの1回:(ここが重要だよ)
 BMとは新しいビジネスモデルをつくることです。「ビジネスのネタ」を垂れ流していた米国から、日本は常に「新しいネタ」仕入れ、質の高い料理をつくり、先進国市場で大活躍してきました。米国では質の高さと価格はトレードオフ(質が高くなればコストはあがる)と考えていたのです。日本はコストを下げて、質を上げてしまったのです。これが日本のBMです。米国はこの日本のBMに負けてしまったのです。
 これを見ていた韓国(サムスン)は、「ビジネスのネタ」を日本からとることを考えました。サムスンは製品の品質においては日本に勝てないので、日本が目をつけていない新興国市場を開拓することを考えました。そこでサムスンは4つの素晴らしいことを実行しました。
  1) 日本の技術を徹底して吸収する
日本からCAD/CAMの技術を導入するために、日本人技師を役員として雇用し、徹底的にマスターしました。設計の細部では理解できない問題点に関しては、暗黙知のノウハウを持つ日本企業の定年退職者を再雇用し、これもすべて吸収しました。
  2) 全社レベルの情報のデータベース(DB)化
全社の各部門の情報が、どの部門でも利用できるまで整理、活用できる体制を確立しました。この成果は①意思決定の早さ、②コミュニケーションの容易さ、③製品開発のスピード化に貢献しています
  3) 設計プロセスの合理化
サムスンは日本製品を分解して、設計上の理解できない点は、日本人の定年退職者からの情報ですべて理解しました。設計プロセスを合理化する試みをしました。過剰な機能や、設計プロセスの削除です。次は各新興国のニーズに合わせた機能を追加すること。これらの作業を素早く行い、日本の新製品発売後直ぐに値段が安く、新興国向け機能を持った新製品で斬新なデザインの新製品を販売できる体制を整えました。
  4) 人材の意識改革
韓国は日本と違い、個人主義の強い国柄です。日本企業の特徴である協力体制が難しかったのですが、IMF危機で社員の意識がかわり、上記の改革を成功させるための意識改革ができました。
  5) 顧客関係性の構築
顧客関係性構築はOWモデルの第一です。ドラッカー博士は新社長が真っ先に行うことは顧客関係性を個人として再確立することだと言っています。サムスンは世界中の新興国に人材を派遣して、関係性の構築と、顧客の潜在的ニーズを収集して歩きました。

この5つの改革でグローバル社会で競争に勝ち抜く、企業組織改革に成功しました。この徹底したBMは現在新興国だけでなく、先進国市場でも通用するBMになりました。日経10月20日の記事によると、スマートホンの分野で、サムスンはアップル社のスマートホンの売上げを抜き、この目的に向かってまい進しています。

7月号でサムスンの業績とその基本的な発想を話し、1回目(8月号)でBM(ビジネスモデル)の重要性を説明しました。
 BMの2回目はITプロジェクトです。これまでのPM(プロジェクトマネジメント)は受注者のためのPMでした。P2Mは発注する側のためのPMを作り上げましたが、社会的には認識されていません。そこでP2Mを使って新しいBMをつくれるようにしようという主旨の話をしました。
2回目(9月号):
1) アナログ時代のBMの話をしました。
この時代は日本が天下をとっていた1980年代のものです。
2) デジタル時代のBMの話をしました。
2000年代に入り経営にデジタル化技術を取り入れ、米国企業が飛躍的に伸びた話をしました。
3回目(10月号):
1) 日本企業のIT化の現状をお話ししました。
日本のIT業界は金融業界で大きなビジネスが生まれ、経験のあるIBMがリーダーシップをとって、ビジネスが遂行されました。
日本の大手のITベンダーは金融業会でIT化の手法を学び、成長していきました。その後は米国で成功した経営のデジタル化BMを導入することがIT化の目玉となりました。いわゆる、ソリューションパッケージといわれるものの導入です。
2) 日本企業のIT化の問題点
  自社のIT化への要求を、ベンダーに依存してきた
ものを購入する時、自分が欲しいものは何かを自らが書き上げます。しかし、なぜか日本の企業経営者はベンダーにお願いしてきました。システムを導入すれば、経営が米国並みになると錯覚したのかもしれません。経営のデジタル化の効果を検討することをサボったと思います。ベンダーは米国で成功したパッケージを導入するわけですから、経営のデジタル化を果したパッケージを持参してきました。しかし、業務の現場であるユーザーは、従来から実施している仕事のやり方を固執しました。その結果、経営をデジタル化したシステムを金を掛けてアナログ式管理システムに転換してしまいました。
  事業部別のDB(データベース)化
日本企業の経営者の多くは米国の経営者(含む韓国)と相違し、現状しか見ておらず、グローバル競争に勝ち抜くという発想でIT化に取り組んでいませんでした。全社での意思決定のスピード化、設計のスピード化に対する考察は一切成されていません。
  構想計画をしないIT化
    構想計画はIT投資プロジェクトの成功と投資効果を検討するものです。米国と違って、日本ではIT投資を経費として認識しました。経費ですから、採算の検討は不要となりました。投資効果を考えないシステムの導入となってしまいました。そのため業務改革を伴わないIT化が実現しました。
  短納期、不十分な予算で、要求の拡大(不合理的な契約の概念)
    結果は失敗率が高い
    短納期、少ない予算、変更の増大は「不十分なシステム化」で、テスト費、運用経費、保守費の増大を招いている。(受注者は表に現れる損出を出し。発注者は隠れた膨大な損出を産み出しています。
  CIOの設置とその効果
金融を除く各企業のCIOは名目的に存在しているが、権限が明確でなく機能していなません。
  役所のIT化は表面化していませんが更にひどい状況のようです
合理化を望まないIT化は予算を使うだけで、意味を持ちません。役所のIT化がすすめば、人員が1/2に削減できるといわれています。

2. これからどうするか
前項で3回分の内容を説明しました。
  現状はアナログ時代の管理手法がそのまま実行されている
これまでの説明で日本企業がアナログ時代の感覚のままで推移していることがご理解いただけたと思います。このままでは日本の製造業も韓国に飲み込まれます。韓国は日本がアイデアを持っていることをよく知っており、日本が出したアイデアをいち早く掴み、グローバルへ商品として売り込んでしまう能力を備えてしまったのです。
  顧客関係性確立の重要性
ここで大切なことは技術だけではなく、顧客関係性が最も大切だというドラッカーの教えを日本人も噛みしめることです。日本は国際社会で標準化活動が下手だと言われています。日本のデジタル放送が始まったのは英米に遅れること5年、そのため日本独自の規格で、世界各国と異なった放送規格となってしまいました。そこで総務省は日本規格が、孤児となることを避けるために、中南米諸国への売り込みに成功しました。ところがサムスンはいち早く日本規格対応製品を製作し、売り込みに成功し、圧倒的な地位を確立しています。また、ブラジルに対する新幹線の売り込みも地元業者との提携で有利に売り込みをかけています。
  BMが大切なわけ:「ものづくり日本、技術開発」というBMでは勝てない
「ものづくり日本、技術開発」という発想を捨てない限り日本は世界で戦えません。BMとは技術ではなく、ビジネスが成り立つシナリオつくることだからです。BMでは、技術を開発しても、どこかで競争者以上の素晴らしい手を打つ必要があるということです。グローバル感覚のない現場任せのITでは目的を達成できません。グローバル感覚は経営者の最大の特徴であることを皆さん方は理解してください。そして、皆さん方は常に経営者の視点でBMを考えるようにしてください。
  日本は何に困っているか
円高で日本は困っていると皆さんは考えていますが、それは新聞が云っていることです。日本は貿易収支が黒字で安泰な国なのです。円高とは国民の努力が、お前の国はしっかりやっているから円を価値があると認めようという結果なのです。大切なことは円高の有利さをどのように活用するかという経営的発想が求められていることです。日本の庶民は賢いので、海外旅行や金の購入等をします。経営者は海外の優良企業の買収を考えると、現状を脱出できます。最も大切なことは、日本人の経営者にないグローバルセンスを持った経営者を購入することが手っ取り早いかもしれません。
  国内需要の開発
今、日本に求められていることは、日本全体として輸出の総額を伸ばすことではなく、国内需要の喚起です。日本人が持っているお金を使って、国民が楽しめる、役に立つ商品・サービスが提案できれば、国内の景気がよくなり、日本で流行するものは世界で流行するようになります。輸出も進み、海外から人々が押しかけてくるようになります。
経営者が過去のビジネスだけを追い求めても、サムスンに勝てません。新しい流行を生み出す試練に打ち勝たなければなりません。日本人ならできます。経営者だけでなく、私達で考えて見ませんか。

  次回以降は世界で起きているBMの情報を少しお話しし、国内需要を喚起するものとは何か皆様方からのご提案をいただきたいと考えています。
以上
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