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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~チャンスをつかむ力~

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 昇進やキャリアアップにつながる話を受けた際に、あなたは「はい、やります!」と言って受けるでしょうか。それとも、「私にその仕事ができるでしょうか?」と聞くでしょうか。そして場合によっては、その話を辞退することもあるでしょうか。
 私自身は、自分が得意な領域については、「これはできるはず」という効力感があるからか、自己PRし、新しいことにチャレンジしてきた。日本PM協会から提供されたチャンスはすべてつかんできた。その結果、日本でのPMS講座、2度にわたるフランスの大学院でのP2M講座、東北大と九州大、そしてAOTSでの講師を務めることができた。出版社に対し、4冊目となる本の企画書も今提案中だ。レジュメプロではどんなに難しいと思われる案件でも嬉々として受けてきた。しかし、それ以外の領域については、「臆病になり、できることならやりたくない」という姿勢で過ごしてきた。
 しかし、安全な環境にいるばかりでは、「自分の可能性に自らふたをしてしまっている」。そんな当たり前のことを再認識する機会がつい最近あった。11月上旬、ダイバーシティーを推進している社外団体の活動で参加した一週間のオーストラリア海外研修。その際に、企業や政府で活躍する女性たちの口から幾度となく、「チャンスをつかむことの大事さ」を聞いた。一般的に女性は、自分は完璧でないといけないと感じる人が多く、そのため、仕事のオファーがあった際も「自分にはできないのでは?」と考え躊躇しがちなのだという。その結果、女性は男性と比較すると自信がなさそうに見え、より大きな仕事を得るチャンスを逃しがちだ。それでは、社会の価値ある一員としての貢献が十分にできない。各人が持つ真のポテンシャルを実現するために、女性は目の前にきたチャンスをつかむ心構えをすべきだ。そんな激励を、いわゆるロールモデルと呼ばれる人たちから受けた。
 オーストラリアは労働者のうち4人にひとりが海外で生まれており、多様な人々で構成されている。研修中に会った人々も、イギリス、スコットランド、ニュージーランド、中国、日本の出身等、多様だった。そんなオーストラリアでは、日本と比べると、女性が働きやすい環境ができている。例えば、男女の役割に対する意識。夫婦間でどちらが働くのがより良いかを比較した結果、夫が主夫をしている夫婦のケースがいくつか紹介された。「パートタイマー制」の効果も大きい。これは日本でパートタイマーが意味するアルバイトとは全く異なる。諸般の事情によりフルタイムで働けない場合に、正社員としての立場を維持したまま活用する「フレキシビリティ ワーク」制度だ。例えば子育て中は、金曜日を休みにして月~木で働いたという人がいた。また、働きながら、週2日間平日に大学で学ぶ人もいる。この制度は、女性に限定したものではなく、男性も同様に活用できる。異なるニーズを持つ従業員が働き続けやすいような工夫がなされている。ある企業ではこの制度を活用している人が従業員の49%にものぼっていた。
 しかし、恵まれた環境だけでは、真のポテンシャルを実現することはできない。優れた実績をあげてきた女性たちには共通点があった。自分を信じ、自分が社会に対して価値を与えることができると信じ、休みから戻った後は、それまでの150%あるいは、2倍以上ものエネルギーを注いで、成果を出すことに集中する。女性だから、あるいは子育て中だからといって、与えられた権利以上の特別扱いや配慮は求めない。自分の業務と出すべき結果に対し強い責任感を持つ。仮に金曜日を休みの日としていても、何かあればすぐ会社からの連絡を受け取ることができる体制を整え、必要があれば、スケジュールを調整して出社する。ネットワークを大事にし、自分をサポートしてくれる環境がなければ、自らそれをつくる。男性社会の言葉を理解するために、男性のメンターの協力を仰ぐ。思うように事が運ばない場合環境のせいにするのではなく、「何をどう変えれば、Yesの返事を引き出せるのか」を戦略的に考える。自分にとって居心地のいいエリアから一歩踏み出る覚悟を決める。何よりも、チャレンジングな環境で学び成長し続けたいという強い意思を持つ。決断が常に楽だというわけではない。ロールモデルの中には、一晩中、「受けるか受けまいか」悩み眠れない時間を過ごした後、決断した人もいる。
 私も自分が得意な領域に加えて、他の領域でも少し前に進んでみようと思う。これまで上手くいかなかった記憶は多々ある。けれど、今日の私はこれまでの私とは違う。多くの経験を重ね、精神的にも強くなったはず。だから、たとえ最初は上手くいかなかったとしても、以前より上手くリカバリーができるはずと信じて!NHKの番組「プロフェッショナルの流儀」の「あと一歩、前に進もう」という歌を口ずさみながら。
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