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福島第一原子力発電所の事故処理は初動こそ(官と電力会社上層部で)大混乱を起こしたが、日本の関連エンジニアリングの底力が徐々に発揮され、米、仏など原子力技術先進国関係者の協力を得て、低温運転停止が間近になってきた。しかし、これから原子力電力利用の将来を含めてエネルギーミッックスが真剣に議論され、除染について長い闘いが続く。
私は2009年7月にウクライナのチェルノビル原発公社の研修所で総裁以下幹部達にイノベーション・プログラムマネジメントのセミナーを実施する機会を得たが、1986年の同原発4号機の爆発事故以来、当該4号機の廃炉、残りの3基の廃炉、石棺とよばれる、炉のドーム型遮蔽構築などを欧米諸国の技術を元に延々と行ってきたが、ドームには亀裂が入っておりこれから作り直し、段階的な除染を経て完全なさら地化にはあと50年かかると総裁は述べていた。 |
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被災したJRの幹線路線は復旧し、国道も三陸沿岸部を除いては復旧した。東北新幹線も大地震後40日で復旧し、すでに全線で本来の運行速度で営業している。つまり交通インフラ大国日本の強い面が発揮されている。その一方で、被災地沿岸部の一部の町の完全崩壊(消失)、消失までに至らなくても多くの建物がいまだに倒壊したまま、あるいは構造は残っても一階部分は空洞という状態が続き、港という港は壊滅的な被害を受けたために、大方の機能回復にはまだまだ道遠しといった状態が続いている。 |
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被災地の状況は7か月たって一層ひどくなっているという声も強い(10月19日に仙台市にて)。 |
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8月時点でのある県の復興への概算事業費(県の沿岸12市町で2.1兆円)を見ると、市町負担分が41%であることを以てしても被災地の復旧への道のりの遠さを実感したが、9月10日の新聞報道で、2011年度第3次補正予算で、「復興関連予算7~8兆円のうち、被災自治体(市町村)へ使途を厳密に決めない一括交付金として3兆円」、という報道があった。その後10月21日に纏まった3次補正予算案では、集落の集団移転や道路整備など40の復興事業への震災復興交付金が1.56兆円、それ以外の種々の復旧に充当する一括交付金が1.66兆円となり、道がついた。 |
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そして、産業日本は、しぶとい回復力を発揮し、9月の時点で、月次生産額では大災害の前のレベルを回復している。その間に企業間や地域間の連携・助け合いがあった。大震災が起こったときに世界のマスコミは、日本産業は今回も、持ち前のResilient Capability(復元力)を発揮して早期の回復を果たすであろうと予言したが、その期待を裏切らなかった。 |
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しかしながら、日本産業が回復しても世界経済の同時不況は根強く、ヨーロッパの金融危機があり、震災で大きなハンディキャップを負った日本の円が異常な高値を維持するという現象が続き、自然変動と経済変調の嵐が世界に吹きまくっていると思わざるをえない。 |
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大企業の被災地の工業生産拠点はアセンブリー型の工場においてはかなり機能回復が進んできて、生産アウトプットの回復も進んでいる。
トヨタは、震災後も東北を第3の生産拠点として強化し、その一環で関東自動車、トヨタ自動車東北、セントラル自動車を2012年に統合する。 |
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プロセス型生産拠点は広い工場いっぱいにフロー型の生産プロセスが配置されている典型的なプロセス・システム産業であるので、一か所でも機能回復が遅れる所があると生産工程全体が機能せず、設備の抜本的な更新やプロセス短縮による規模縮小を選択するなどが必要である。(大日本製紙石巻工場など)
これは復興計画でいうとこの、復旧にとどまらない抜本的な再構築の、産業版であろう。つまり、この際過去のしがらみを断ち切って思い切って競争力のある生産拠点にしよう、というモデルである。 |
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被災県のうち、岩手、宮城、福島は、農林水産県である。農水産関連の被害は壊滅的で、たとえば、宮城県では、工業被害が5,900億円であるのに対して、水産業被害が6,850億円で全県被害の半分強、農業が5,143億円(宮城県資料)である。宮城県の海面漁業養殖生産額は年間791億円、水産加工生産額が2,754億(2009年統計)であるので、復旧の道は大変困難である。しかし、単純に震災前の状態に戻せば問題解決、ではない。大震災前から日本の漁業は危機に見舞われており(WEDGE2011年10月号特集)、①全国的に漁業従事者はピーク時の5分の1で、減少の歯止めがかからず、②60歳以上の漁業者が約半数で、後継者がいるのは2割程度、③漁獲量はピークの3分の1、④生産技術はノルウェイなどの先進国に大きく後れをとっており、また、⑤漁業権という日本固有(他に歴史的な経緯から韓国と台湾に漁業権が存在する)の制度が漁業の近代化の妨げとなっている。
宮城県は、大震災の復興に向けて、いまこそ宮城の水産近代化の時期として、漁業特区の創設により、事実上漁協独占の漁業を、漁業者が参加する民間企業にも開放する復興政策を掲げて、これに反対する全国の漁協を巻き込んだ宮城漁協との間に全面バトルが起きている。 |
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農業では、宮城県では「経営の多角化や事業連携によって、関連産業の付加価値を取り組んだ農業経営を発展させるアグリビジネス」(宮城県資料)を展開して実績が挙がってきたところに大震災で、大きな痛手であったが、不退転の決意でアグリビジネスを展開するとしている。まずは、津波被害で農地に散乱しているガレキや雑多な金属分のクリーンアップと放射能汚染の可能性からの安全性の確認をこれから行う状態である。
本稿を作成している現在、日本のTPP参加を巡って賛否両論が渦巻いているが、国益と日本の農業のサバイバルからすれば、TPP参加は避けて通れない道であろう。 |
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観光では、東北・秋田新幹線が定常運転に戻り、仙台空港に国内線路線に加えて国際線のうちアシアナ航空のソウル便とコンチネンタル航空(スターアライアンス)のグアム線が再開し、太平洋沿岸部以外の都市では機能がほぼ正常に戻ったが、運輸・宿泊施設は在来のビジネス客と復興関連の関係者の需要がほとんどを占めており、観光客の本格的な出足回復はこれからである。
私には宿泊は仙台市、福島市、くらいしか経験がないが、穏やかで緑あふれる景観、食の質と値段の安さ、それと人情などに大き魅力を感じている。
なんでもよいので目的をつくり東北にでかけよう。 |