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システム開発技術者から顧客(厚労省)への要件に関する質問 |
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検疫所はどこにあり、何をしているのでしょうか? |
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Ans ) |
小樽港、塩釜港、成田国際空港、東京港、横浜港、新潟港、名古屋港、大阪港、関西国際空港、神戸港、広島港、博多港、那覇港に検疫所を設け、検疫法・感染症法・食品衛生法などに基づき、渡航者や輸出入食品に対する検疫業務を行う。所管課は健康局結核感染症課および医薬食品局食品安全部企画情報課。 |
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今回のシステム開発で管理するのは輸入する航空機、船舶の単位とした場合管理する名称、コードはどのようにすべきでしょうか? |
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Ans ) |
航空機にあっては便名7ケタとします。
筆者コメント
航空機の便名にはスリーレターコードとツーレターコードがあり:Wikipediaによれば。
「各空港や都市名などの名前をアルファベットや数字の組み合わせ3文字で表した略号。東京はTYO、パリはPAR、ニューヨークはNYC。成田空港はNRT、関西空港はKIX、ロンドンのヒースロー空港はLHR。香港は都市も空港もHKG。航空会社にもスリーレターコードはあるが、国際的にはツーレターコードのほうがより一般的。(例)日本航空 JAL(3レター)→JL(2レター)全日空ANA(3レター)→NH(2レター)、ユナイテッド航空 UAL(3レター)→UA(2レター) ノースウェスト航空 NWA(3レター)→NW(2レター)」とある。
上記のようにWikipedia程度で裏付けができる場合もあるが、正式文書、法令等の調査を行う必要もある。 |
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船舶の場合下記のような数例の答えが考えられる。 |
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Ans 1) |
船舶にあっては調査後返事します。
その後調査結果を督促しなかった? |
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Ans 2) |
船舶にあっては船名とします。
桁数、字種(全角・半角)を確認しなかった? |
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Ans 3) |
船舶にあっては船名、30桁とします。
ヒアリング結果を議事録に記載せず、失念してしまった?
入国するのは航空機のみと思いこみ確認するのを忘れてしまった? |
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結果からすると、SE側の確認行為に大きな誤りがあったのは確実のようだ。
本原稿を書いていて分かったのだが船舶の名称の特定には「船舶識別符号」を名称として採用することを検討する余地があったような気がするが、「船舶識別符号」は厚労省管轄ではないようなので、開発側の技術者が調査し提案しないと検討もされなかったであろう。
官公庁のシステム開発では発注主の原課以外のことは業務内容であっても省内でも省外でも、開発側が主体的に調査しないと、発注主の原課の要求仕様自体が誤っていることもある。又ITの先進的技術については入札仕様書に実現不可能な記述がある場合もあり、開発側が積極的に調査提案しないと動かないシステムを開発しかねないこともある。官公庁では、システム化するに必要な業務知識がキャリアとノンキャリアで分断され、業務全体のマクロ的視点からシステム化するに必要な業務の詳細を一気通貫で理解している人員・組織を持っていないことが問題の根源にある。
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2. |
発注者側の仕様確認能力
今回の事例は厚労省という国家公務員の身分制度特有の問題がある。
実務に詳しいノンキャリアと承認行為を行うキャリアとの間には根深い身分上の問題があり、要件定義の内容をレビュー出来るノンキャリアは仕様の誤りに気がついても、キャリアは誤りに気付かず承認してしまうことがよくある。キャリアは実務を知ったかぶりし、ノンキャリアは承認の責任はキャリアにあるので誤りを指摘しないで逃げてしまう問題もある。ノンキャリアは日ごろの処遇の低さを、キャリアに誤りを教えないなどという低レベルの底意地の悪いしっぺ返しを行うことがよくある、実際に目にしたこともあった。
新人のキャリアに業務の基本的なことを教えない、退庁時間を待ってキャリアに翌日までに解答の必要な課題を投げてノンキャリアは退庁してしまうなどといういじめは、新人キャリアの誰もが会う洗礼のようだ。官公庁のシステム開発ではこのキャリアとノンキャリアの壁は、仕様決定、プロジェクト・マネジマント上の最大のネックになっている。より良いシステムを作ろうという姿勢が民間に比べて著しく低くシステム開発の効率は異常に低いものとなっている。
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3. |
顧客側に責任があるのか、開発側に責任があるのか?
業務要件が極度に専門的で、顧客特有のものであれば顧客側に責任があると言えるだろうが、この事例のように一般常識として船舶の入港を管理するのに船名が7桁で不足するのはシステム開発に関係の無い素人にも分かる、素人にも分かるようなことだからこそ会計検査院でも分かったとも言えるが、このようにシステム開発を行うプロでなくとも容易にわかるよう場合、顧客の確認・承認の有無に関係無く、顧客の責任を問うことは難しいだろう。SEとしての常識力が問われる典型的な例で、船名は「クイーン・エリザベスⅡ」などだれでも思いつくものであり、どう考えても7桁足りないことは明白である。
開発側の力量不足と呼ぶにもいたらないほどの低いレベルの開発力であり、この程度の力量で一億円ものシステム開発行ってはいけない。一億円のシステム開発なので名のある開発会社が元受だが、元受は設計仕様にタッチせず下請けに丸投げし、その先でまた丸投げ、下請けを繰り返し責任ある開発体制をとらなかったことがその原因の背景にあると思われる。
このように新聞に出てしまった事例で稀に発生したかのように思われてしまうかもしれないが、氷山の一角と思った方が良い。システム開発の至る所に本事例のような間抜けな事故は発生している。
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4. |
顧客の受け入れ体制
この事例のようにメインキーに誤りがあるようなシステムの納品を受け、検収するような場合、受け入れ検査自体を行っていないか、受け入れ検査を顧客側が行う能力がないか、受け入れ検査をシステム開発会社に丸投げしたかのいずれかで、顧客である厚労省が受け入れ者としての責任を果たしていなかったのも事実である。厚労省は年金のシステム開発でも致命的トラブルが発生に遭遇しており、厚労省のシステム開発力には大きな疑問がある。 |