研究会報告コーナー
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グリーンコンストラクション

日本工業大学 太田 鋼治 [プロフィール] :10月号

 21世紀において、アジア/太平洋地区における建設マーケットは、いくつかの特徴があるが、アジアにおける国境のない経済の広がりと各国の成長の中、今やアジア地区は建設マーケットにおける世界のグローバリゼーションの中心となり、多様な新しいITとエンジニアリングの導入により、アジア/太平洋地区の建設産業は、急速な発展を遂げている。
 しかし日本の建設産業は、2008年のリーマンショックをきっかけにして、バブル経済が崩壊し、多くの建設プロジェクトは延期や中止となった。すでに成熟期にさしかかった日本では、この数十年で建設投資額は、1992年の85兆円をピークから、2010年には40兆円を下回るほどに半減している。(図表1-1)一方、すでに建設されている建物、施設などの建設/不動産のストックマーケットは、2,300兆円までに増加し、大きなビジネスマーケットとして成長している。この市場は、CRE(企業不動産)、PRE(公的不動産)や環境不動産などと呼ばれる新しい持続可能な不動産/建設分野の市場を形成し、次世代の建設市場として最近注目されている。これらの状況を踏まえて、新しい建設マーケットにおけるグリーンコンストラクションについて、P2Mにおける全体最適から見た価値向上の提案を試みた。
図表 1-1 建設投資(名目)の推移とGDP
図表 1-1 建設投資(名目)の推移とGDP (出典:資料[1])

1.日本でのグリーンビルディングへの提案
 海外での評価(今回は、シンガポールのグリーンマーク)に基づき、日本のグリーンビルディングの環境評価性能の提案を、P2Mの4つのマネジメント要素から提案する。
(1) ライフサイクル(目標マネジメント)
 ビルのライフサイクルには、機能、劣化、情報技術、エネルギー、地震など、いろいろな評価項目がある。P2Mの3つのサービスモデルに基づき、建設後の施設管理業務(施設サポートマネジメント)は、環境性能評価の計画として必要な企画段階において、ライフサイクルマネジメントの環境評価項目として、計画案とともに検討される(図表 1-2)。
図表 1-2 P2Mのサービスモデルと建設マネジメント要素との関係
図表 1-2 P2Mのサービスモデルと建設マネジメント要素との関係 (出典:資料[2])

(2) 自然エネルギー(資源マネジメント)
 持続可能な建物としてマネジメントするためには、自然エネルギーを効率的に運営することが重要である。その需要に対応するESCO(エネルギーサービス会社)は、ビルのエネルギー資源を、技術とファイナンスを融合したビジネスモデルの事例として活用されている(図表 1-3)。
 ESCO事業とは、省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、施設オーナーの利益と地球環境の保全に貢献するビジネスとして、省エネルギー効果の保証等により施設オーナーの省エネルギー効果(メリット)の一部を報酬として受取る。つまり、省エネルギー改修にかかる費用を光熱水費の削減分で賄う事業であり、省エネルギー診断、設計・施工、運転・維持管理、資金調達などにかかるすべてのサービスを提供する。また、省エネルギー効果の保証を含む契約形態(パフォーマンス契約)により、顧客の利益の最大化を図ることができるという特徴を持つ。ESCOは、米国のオイルショックの1973年に始まり、日本の政府は資金支援をして普及するために、1990年後半より日本でもESCOビジネスを支援始めた。特にESCOビジネスは、古いビルをエネルギー効率のいいビルに改修することに大きなメリットを持っている。
 ESCO事業者の提供するサービスは、以下のサービスの組み合わせから構成される。
  1)エネルギー診断にもとづく省エネルギー提案 2)提案実現のための省エネルギー設計および施工 3)導入設備の保守・運転管理 4)エネルギー供給に関するサービス 5)事業資金のアレンジ 6)省エネルギー効果の保証 7)省エネルギー効果の計測と徹底した検証 8)計測・検証に基づく改善提言などによる。
図表 1-3 ESCO(エネルギーセービング会社)と適応事例 (資料提供:省電舎)
図表 1-3 ESCO(エネルギーセービング会社)と適応事例 (資料提供:省電舎)

(3) 地域環境(関係性マネジメント)
 地域環境は、いろいろな関連する課題に配慮することが求められる。特に、国際会計基準の導入、各種関連法規制の改正などにも呼応して、CRE(企業不動産)/PRE(公的不動産)における不動産評価では、土壌汚染、アスベスト、PCB、建物耐震などのリスク要因が今後ますます重要になると思われる(図表 11-15)。
 例えば、現在、現場からの汚染土壌除去は、日本の不動産の固定資産に負の財産として計上されるようになり、土地の汚染土壌と汚染水は、土地や建物を所有するオーナーにとって大きな資産除去債務として影響を与えるようになった。しかし、最近の土地の改善技術は発達し、汚染土壌の効果的な予測と除去方法が提案できるようになり、環境保全に対する安全及びリスクを低減することが可能となった。その観点からは、調査・評価を行わずに放置すること、すなわち“知らぬふりをすること”が大きなリスクとなる。
図表 1-4 資産除去債務会計への対応(出典:(株)イー・アール・エスHP:http://www.ers-co.co.jp/)
図表 1-4 資産除去債務会計への対応
(出典:(株)イー・アール・エスHP:  リンクはこちら

(4) 技術融合(バリューマネジメント)
 グリーンビルに貢献する最新IT技術は、最近多くのメーカーから提案されている。例えば、最新のデジタル測量とITを融合した技術は、古いビルの紛失した図面の代わりに復元図面を作成するために、三次元CADと三次元レーザーを活用して正確な図面を短期間で作成することができる。これらの手法は、従来かかっていたコストと時間を大幅に削減することが出来るようになった(図表1-5)。
 この三次元データは、レーザースキャナーから出力された数十億の点データから構成されており、最近のソフトは、この大きなデータをノートパソコンで処理できるようになっている。また、計測した点データを自動的に三次元CADデータに変換して平面図や立面図として活用することができ、高精度の測量データとして、ビルのオーナーが不動産価値を価し、既存の建物を改修するための有力なツールとして実用できる時代になってきた。
図表 1-5 既存の建物を3Dレーザーで測定し図面化 (資料提供:富士テクニカルリサーチ)
図表 1-5 既存の建物を3Dレーザーで測定し図面化 (資料提供:富士テクニカルリサーチ)

2.まとめ
小原重信教授(2006年)は、P2Mの次世代モデルとして改革(革新的な体制)を提案した。改革は、開発、改善、革新から構成されシナジー効果によって更なる企業レベルの戦略に達成される。これらのマネジメント活動は、持続可能な不動産と建設に適応され、改革による価値創造の提案を1-17に示す。この活動は、プログラムマネジメントにおける経営戦略としてより高い付加価値を上げるための手法のCRE(企業不動産)やPRE(公的不動産)に活用され、環境配慮の向上に成果の向上を目指す。

① 開発
 企業の不動産は、土地と建物を融合した固定資産として評価されるが、これらの不動産のプロジェクトマネジメントは、レビューに始まる「RPDCA」と呼ばれる5つのプロジェクト活動によって実行される:(R)レビュー(実際の不動産状況を評価)、(P)プラン(計画)、(D)デザイン(建設/改修の設計)、(C)チェック(建設/改修)、(A)運営(フィードバック)。
 施設運営でのフィードバックを環境性能評価から(R)レビュー/評価して、環境配慮に適した建物として「顧客サポートマネジメント」ができるように経営戦略を立てるため、「プログラム」マネジメントとして検討する。このスキームモデルに基づき、システムモデルの段階ではデザインマネジメントと施工マネジメントを実施する。
② 改善
 土地と建物はより価値のある財産として活用されるべきであり、企業不動産における総合的な資産として向上すべきと言える。そのためには、不動産/建設に関わる各プロジェクトのプロセスにおいて、各プロジェクトの改善により恒常的なフィードバックを行い、個々のフィードバックを総合的に運営することによって「持続可能なワークループ活動」を行い固定資産の向上を目指す。その結果、総合的な不動産価値を向上することができる。
③ 革新
 価値創造は、これらの個別プロジェクトの「開発」活動と「総合的な持続可能な改善」活動に平行して、「革新」として外部要因からのマネジメントを取り入れることにより価値向上を目指した「革新」活動を行うことができる。今回のグリーンコンストラクションのモデルでは、外部要因として、本章で提案した4つのマネジメント活動:自然資源(資源マネジメント)、地域環境(関係性マネジメント)、技術融合(バリューマネジメント)、ライフサイクル(目標マネジメント)の活動によって、更なる全体最適な価値の向上を目指すことができると提案する。
図表 1-6 環境不動産における価値の向上(出典:資料[3])
図表 1-6 環境不動産における価値の向上 (出典:資料[3])

〔1〕 建築経済研究所 「建設経済モデルによる建設投資の見通し」2010年1月
〔2〕 太田鋼治「P2Mから見たCO2削減達成に伴うグリーンビル戦略への提案」PMシンポジウム2010、(NPO)日本プロジェクトマネジメント協会 2010年9月
〔3〕 太田鋼治“Some management appraisal of Green building development in new sustainable property and construction market”第25回インドネシアバリ太平洋不動産評価、鑑定、カウンセラー国際会議 2010年9月
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