研究会報告コーナー
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「MBAとPM、戦略策定と実行」

株式会社IHI 中村 元哉 [プロフィール] :9月号

 「環境ビジネスの大規模開発プロジェクトにおけるP2M活用モデルの調査研究」が完成し、その成果をセミナー形式でご紹介しようとしていた3月11日、東日本大震災は発生した。16:00からのセミナー開催に合わせて、ちょうど資料を鞄に入れて社を出ようとしていた14時46分のことである。

 その後、私たちは、これまでに予期していなかった、数々の課題に直面することとなった。圧倒的な情報の不足、交通障害、余震による二次被害の危険、放射線による被曝の危険。
 その中で、通信、交通、流通、エネルギー等の各業界の現場では、次々と目の前に出現する新たな課題に対して、工夫を凝らして、プロジェクトマネジメントを実行していった。過去に困難なプロジェクトに挑み、蓄積されていったスキルが、本当に大切な場面で、発揮されたと言って良い。火力発電プラントに携わる者の一人として、その復旧の過程を通して、強烈に実感している。

 さて、そんな最中、日本の中で起こっている出来事とは別に、世界は動いている。各国の政策の変化、為替の変動、市場成長率の上伸や減衰、新たな技術革新。その環境変化の中、グローバル市場の競合たちは、着々と歩みを進めている。復旧・復興は勿論大事であるが、その先の成長・発展のための戦略を描くことの重要性が増している。
 “その戦略により、開発が加速するのか?”“実用化が加速するのか?”“その結果、日本の民間企業の競争力が高まるのか?”
 震災後に打ち出された国家レベルの政策からは、これらの問いへの答えが見出せない。その原因の一つは、戦略策定者が実現可能性を高める実行計画とその遂行に不慣れなこと、そして同時に、実行計画・遂行に長けた者が戦略策定に関与していないことにあるのではないかと感じている。

 戦略の策定とその実行。日本の産業の成長・発展を実現するために、その成功確立を上げる方法はないだろうか?
 次のグラフを見て欲しい。


(出典) 文部科学省 平成23年度学校基本調査の速報について Ⅱ調査結果の概要[学校調査]
PMIホームページ
PMAJホームページ

 MBAやMOTと言った経営戦略に関わるスキルを備えた人材は、決して数少ない訳では無い。大学院専門職学位課程入学者数のうち社会人だけでも、毎年3,700名程度に上る。また、プロジェクトマネジメントのスキルを備えた人材も、PMPとPMSだけで、毎年2,000~3,000名規模で輩出されている。
 経営戦略を策定し、実行計画に落とし込み、それを遂行することが出来るP2Mの視点を持った人材(PMSホルダー等)の育成は、勿論大事なことであるが、各々のスキルを持った人材、例えばMBAホルダーと、各種PMホルダーとが、協働できる環境を整えることで、戦略の策定とその実行を、飛躍的に前進させることが出来るのではないかと考える。そして、その要所に、P2Mの視点を持った人材が関与すれば、共通言語での会話が更に促進されるのではないか。

 資源小国日本には、優秀な人財が既に存在する。その人財を生かし切ることで、日本の未来が描けたら、とても嬉しい。
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