研究会報告コーナー
先号   次号

「稼働率99.9%保証について考える」

日本ユニシス株式会社 安嶋 健太郎 [プロフィール] :8月号

 現在私は「GOCE」というクラウド型メールサービスのPMを担当している。
「クラウド」「SaaS i」という新たなITビジネスにおいて必ず話題となるものにSLA iiがある。
SLAを定義する中で最も注目されるものが「保証稼働率」だ。本稿ではこの「保証稼働率」について考えてみたい。
 まずメールシステムとは、どんな企業活動においても必要不可欠な情報基盤として日々活用されている。
一般企業におけるメールの利用は1990年代から始まり、インターネットの発展とともにその進化を遂げてきた。メール普及は同時に様々な脅威を発生させている。ウィルスによる被害や宛先誤送信などによる情報漏洩が最たるものだ。それらの脅威からユーザを守り、大切な情報基盤を止めないために企業の情報システム部門には日々多大な努力が強いられている。追い打ちをかけるようにITの進化がシステムの複雑さを加速させ情報システム部門の負荷を増大させている。もはやコモディティ化されたメールシステムに対する多大な運用負荷は「割の合わないもの」と考えられ、併せてクラウドが認知され始めた現在は、メールシステムそのものをクラウド事業者へアウトソーシングする企業が後を絶たなくなってきた。
 保証稼働率を分析するにあたり、クラウド型メールサービスの代表的なサービスを3つ紹介する。
1つ目はGoogleが提供するGoogle Apps for Business、2つ目はマイクロソフトが提供するOffice365、いずれもパブリッククラウドの代名詞である。3つ目は私の担当するGOCE。これはパブリッククラウドでは物足りなさを感じる企業をターゲットにしたプライベートクラウド型のメールサービスである。
この3つのサービスとも稼働率として保証しているのは「99.9%」だ。しかし、「99.9%」と言っても中身が違うのが現実である。それではいったい「稼働率99.9%保証」とは何か?
 まず稼働率とは、一定期間にサービスを利用できなくなった時間(ダウンタイム)を差し引き、サービスを提供していた時間を百分率で表したものである。
ここでいう「ダウンタイム」や「稼働率の計算方法」、「ダウンタイムの対象」、「保証値を満たさなかった場合の対応(ペナルティ)」など、各社の考えや戦略が反映されており様々な内容となっている。三社の保証稼働率の内容をインターネット上からかき集め以下にまとめてみた。(表1)

保障稼働率内容

表中の「◎○△」は、顧客目線でもっとも優位なものを主観的に評価したものだ。
クラウド型メールサービスの市場は、極めて競争が激しいため、各社は運用実績や受注実績より顧客ニーズに即したSLAを模索している。Googleでは、10分未満の障害が稼働率計算に影響しないという考えは、改善を発表したようである。また私の担当するGOCEにおいても他社では保証していない「配送遅延」という事象に対しても一定の範囲で保証することで差別化を図っている。
 メールシステムのクラウド化を検討されている情報システム部門の方々においては是非とも参考にしていただきたい。本稿では保証稼働率について少しブレイクダウンし触れてみたが、やはり情報システム部門にとって万が一障害が発生した場合、サービス提供事業者からのタイムリーな情報提供と障害復旧までの時間の短さが求められるはずである。クラウド型メールサービスを選定するにあたり、その機能面や稼働率保証という契約だけを過大評価せず運用サービス面などあらゆる視点からのサービス評価が肝要である。私も一サービス提供事業者としてGoogleやMicrosoftなどのパブリッククラウドとは一味違ったプライベートクラウドをマーケットに広げていきたい。ご検討の際は是非ご一報いただければ幸いである。
以上

------------------------------------------------------------
i SaaS=Software as a Serviceの略。企業で必要とするITソリューション(業務アプリ)を自社で運用するのでなく、クラウド事業者がサービスとして提供するビジネス形態である。
ii SLA=Service Level Agreementの略。サービス提供者(クラウド事業者)とサービス委託者(顧客)との間で契約を行う際に、提供するサービスの内容と範囲、品質に対する要求(達成)水準を明確にして、それが達成できなかった場合のルールを含めて、あらかじめ合意しそれを明文化した文書、契約書のこと。
ページトップに戻る