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リスクベースド・アプローチの実践:「リスクの見える化」 (4)

河合 一夫 [プロフィール]
 URL: こちら  Email: こちら :10月号

 今回はリスクシナリオについて説明します。本連載で説明するリスクシナリオは、シナリオ・プランニング[1]で利用されるシナリオをリスクマネジメントに適用したものです。まず、シナリオ・プランニングを概観し、次にリスクマネジメントへの適用に際しての留意点、具体例という流れで説明をしたいと思います。
 シナリオ・プランニングは、不確実な事業環境における意思決定手法として知られています。特に、ロイヤル・ダッチ/シェルがシナリオ・プランニングの利用により幾つかの危機を乗り越えて成長した話は有名です。シナリオ・プランニングは、不確実な事業環境において長期的な視野を持つためのツールであり事業環境を再認識するツールです。シナリオ・プランニングで作成されるシナリオとは、世界がどう展開するのかを記述した物語です[1]。また、シナリオは個々の出来事に意味を与える物語ともいえます。物語を通じて未来のことを想像することは、私たちにとってごく自然なことだと思います。シナリオによるリスクの記述が有効であることは、このことから想像できると思います。
 次に、シナリオを用いてリスクを記述する際の留意点について考えてみます。シナリオは、個々の出来事に意味を与えるものだと説明をしました。リスクは出来事(事象)が積み重なったものと考えることができるので、リスクをシナリオとして記述する際には、発生する可能性のある事象の因果関係に注意しなければなりません。現実の世界は複雑で様々な要素が複雑に絡み合っています。1つのシナリオで全てを記述することはできまんので、複数のシナリオに分けて記述することになります。従って、複数のシナリオ間の関係が明確になるように気を付ける必要があります。シナリオ間の関係としては、全体-部分、順序、派生といった関係があります。それらの関係に留意してリスクシナリオを記述します。


 例を用いてリスクシナリオを作成する過程を説明します。以前(8,9月号)に紹介したマンションの大規模改修におけるモデルを利用していくつかのシナリオを作成します。

マンションのHHM

 このモデルでは改修工事を、住民、マンション、施工、関係者、災害の5つのヘッドトピック要素とそれを細分化したサブトピック要素で表現しています。ここで、これらの要素からシナリオの構成要素である出来事をあげます。(マンションのサブトピックである「屋根、外壁、ベランダ、サッシ」のような「モノ」に関しては、FMEAにおける故障モードに近いものになります。)

1) 日当たりが悪くなる
2) 合意が得られない
3) 屋根から水が浸透する
4) 外壁が崩れる
5) 騒音が大きい
6) 資材が間に合わない、高騰する
7) 技術が不足している
8) 近隣住民から苦情が出る
9) 台風がくる
10) 火事になる
11) ...

 これらの出来事からリスクシナリオを作成します。今回は、マンションの住民の立場で作成してみます。例えば、「施工業者の技術が不足していたため外壁の補修が不完全ですぐに外壁が崩れてしまう」という品質問題、「台風により、予定工期を大幅に超過してしまう」という納期とコストの問題、「騒音が大きいため、近隣住民から苦情がでる」という問題、など多くのシナリオを短時間で作成することができます。勿論、シナリオの中には荒唐無稽のものも含まれるかも知れませんが、リスク特定時には多くのリスクをシナリオにより記述することで漏れを少なくする効果が期待できます。
 今回は、先回までに示したモデルを利用してリスクシナリオを作成する過程を簡単ですが説明しました。次回は、リスクメタ言語とリスクの評価について説明したいと思います。

参考文献
〔1〕 ピーター・シュワルツ,シナリオ・プランニングの技法,東洋経済新報社,2000
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