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リスクベースド・アプローチの実践:「リスクの見える化」 (3)

河合 一夫 [プロフィール]
 URL: こちら  Email: こちら :9月号

 この連載では、リスクベースド・アプローチの実践事例として「リスクの見える化」手法について説明しています。先回は、「リスクの見える化」の重要な要素の一つであるモデルについて述べました。モデル化の方法としてHHM(HIERACHICAL HOLOGRAPHIC MODELING)によるモデルを説明しました。HHMによるモデル化は、単純ですが、単純であるがゆえモデル作成にいくつかのコツを必要とします。単純なツール(道具)ほど、使い手のノウハウを必要とします。前回は、モデルの概要について説明をしました。今回は、HHMを作成する際のコツから説明を始めたいと思います。
 HHMによるモデル化の特徴は、1)階層化により全体構造が容易に把握可能であること、2)プロジェクト要素以外の社会的要素に関しても取り扱う、という点です。2番目の特徴は、WBSを利用したリスク特定との対比で考えるとその違いを理解できます。WBSは、プロジェクトのスコープを規定したものです。HHMによるモデルはリスク特定時の対象をプロジェクトのスコープに限定しません。ローリング・ウェーブ計画法による段階的詳細化技法によりプロジェクトを計画し実施する場合、しばしば将来のリスクを見落としてしまう危険性があります。HHMによるモデル化では、プロジェクトとプロジェクトの環境を同じモデル上で表現することで、さまざまな可能性を検討することが可能になります。
 図に示すように、プロジェクト途中では、プロジェクトおよびプロジェクトが置かれている状況(環境)の全てを加味した計画は作成されていません(作成できません)。プロジェクト環境の変化によってプロジェクトに影響があるかも知れず、プロジェクトは段階的な詳細化に基づいて計画され実施されます。計画は随時見直されることになります。このような状況からもリスクを洗い出すためのモデルは必要となります。プロジェクトが置かれている状況を考慮したモデルを作成することが重要な意味を持ちます。

プロジェクトの理解の範囲
プロジェクトの理解の範囲

 モデル化に際して重要な点は、視点の設定です。前号でも述べましたが、「視点の共有」がモデルの理解を促し、モデルで表現している世界を関係者が理解することにつながります。視点を設定するためにいくつかの指針となる考え方があります。以下に、そのいくつかを示します。


 HHMによるモデルでは、ヘッドトピックと呼ばれるいくつかのカテゴリから階層構造を作成します。ヘッドトピックの作り方によりモデルの理解容易性やリスクの網羅度が影響を受けます。先回述べましたが、HHMを作成する際の考え方として以下に示す3点に着目することが重要であると述べました。
1. 階層的な構造に着目
2. 分析対象と対象外との境界に着目
3. ステークホルダーとの関係に着目

 この3点と上記に示した視点を元にヘッドトピックを決めます。モデルの作成は、直線的なプロセスではなく螺旋的なプロセスですから、何度も見直すことになります。ここで、先回掲載したマンションの大規模改修工事をHHMで表現した例をもとに少し考えてみます。
 この例では、改修工事を、住民、マンション、施工、関係者、災害の5つのヘッドトピックからサブトピックを作成しています。ここでは、マンションという構造部の階層構造を真っ先に思いつくと思います。それとステークホルダーである、近隣住民や行政。こういったことに加えて、プロンプトリストの一つであるTEPCO(技術、環境、政治、商業、業務)のカテゴリからヘッドトピックの候補を洗い出すことになります。プロンプトリストを利用するのは、あくまで候補を選ぶ際の補助的な手段として考えます。

マンションのHHM
マンションのHHM

 このように作成したモデルからリスクの特定を行います。リスク特定では、モデルからブレーン・ストーミングを利用してリスクシナリオを作成します。リスクシナリオを作成する過程で、モデルにない要素が出てくる場合があります。その場合はモデルを見直し、見直したモデルから新たなリスクシナリオを作成します。このプロセスは、3~5人程度で1~2時間位で行います。他の人が作成したリスクシナリオは、別の人にとっては気づきのきっかけになります。そのような過程を経ることで様々な視点によるリスクシナリオが作成されることになります。
 HHMによるモデルとリスクシナリオを用いるメリットは、網羅度が直感的に把握できるということです。モデルの要素がリスクシナリオ中に何度出てきたのかをカウントすることで、利用されている要素とそうでない要素を簡単に把握できます。利用されていない要素があれば、その要素に関連するリスクが未抽出であることはすぐにわかります。
 次回ではリスクシナリオに関して、もう少し踏み込んで説明をしたいと思います。そして、リスクシナリオをどのように評価するか、リスクシナリオをリスクメタ言語により表現する方法について話を進めていきたいと思います。
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