グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」(第55回)
学との連携に向けて

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :10月号

 9月8日・9日に開催されたPMAJのPMシンポジウム2011は大盛況であった。定点観測的に参加者フィードバックに接している私にも、今年の大会には迫力あった、時機を得た内容であったと参加者意見が多く、全く同感で、大変良い大会であったと素直に喜んでいる。
 今年のPMシンポジウムはこれまでの理事長ではなく、大会プロジェクトチームの来賓接遇担当スタッフとして参加したが、これまでのPMシンポと異なりいくつかのセッションでは落ち着いて聞くことができた。
 大会プロジェクトチームの方々は生き生きと動いており、プロジェクトは楽しくないとうまく動かないし、繰り返しても長続きしないということを改めて実感した。
 2002年に当時のJPMFの会長に就任した総会後のPMシンポから、協会内の筋の紹介で、それまでの九段会館に替えて会場として「タワーホール船堀」を使いだして10年となった。私は小学校4年生から社会人2年目まで船堀に住んでおり、菩提寺も会場の近くであるので毎年地元での開催でありこそばゆい思いもしていたが、無事私のお役目が終わりご先祖様にも顔が向けられるという思いである。

 今月と来月は、PMAJの大学でのP2M講義について紹介したい。
PMAJ光藤理事長は就任の所信表明で重点施策として協会と産学官との連携を掲げられておられる。PMJAの将来は、まさにPMAJを真ん中に置いてこのトライアングル連携にかかっていると思う。またそのキャタリストとなるのが会員のみなさんという構図である。
 そのなかで、大学との連携であるが、質的には毎年成果が上がっており、PMAJは今後数的な拡大を目指しており、そのための方策を講じている。
 現在、国立東北大学大学院、国立北陸先端科学技術大学院大学(略称JAIST)、日本工業大学大学院、九州大学大学院に正規講義枠を持っており、ほかにスポットの講座をいくつかの私立大学で実施している。
 東北大学の博士課程後期院生とポスドク等の博士研究員の方々を対象にした高度技術経営塾ではコアとなるプロジェクトマネジメントコースをPMAJが担当している。本塾は現在第6期を迎えており、塾方式による実践的教育を実施し、社会のニーズに応え活躍できる多様な高度技術経営人財を育成することを狙いとしており、高度専門知識を実務に応用し成果に結び付ける「実務応用力」と、リーダーシップ等の「人間力」の修得を主な内容としている(東北大学ホームページより)。
 大学としてはきわめてユニークな、大学生え抜きの教授方と民間出身の客員教授方が協力して英知を絞って開発した塾のカリキュラムと活性教育の仕組みが素晴らしく、修了成果、そして何より卒塾者の就職率が極めてきわめて高い。
 今年は、私も「研究者とプロジェクトマネジメント」と題した導入講義を担当したが東北地域を中心に明日の日本を創る研究者たちの高度の知識・分析力とPMAJの講師の人材育成への情熱と学生を乗せるワザの間で火花が散り、素晴らしい講義となっている。

 JAISTでは、石川県鶴来市の本校と東京サテライトキャンパスで、大学院知識科学研究課程と情報科学研究課程の学生にP2Mに基づく「プロジェクトマネジメント初級」と「プロジェクトマネジメント中級」のすべて、および英語での「プロジェクトマネジメント上級」の一部をPMAJが担当している。

2月の北陸先端科学技術大学院大学石川キャンパス  JAISTの特長は何と言っても我が国知識科学のメッカであることで、JPMFの初代名誉会長でもあった野中郁次郎先生が初代知識科学科の学科長であられたが、現在は、お二人の教授にご指導を戴きながら講義をPMAJの講師が担当している。
 私は石川本校でPM上級のなかで4コマ(大学での1コマは90分)を使いP2Mを教えている。クラスは中国、ベトナム、韓国、台湾の留学生のなかに若干日本人学生が混じるという構成であり、教材、講義、学生からのフィードバックなどすべて英語であることもあり、海外で講義を行っているような感じである。
中国の学生が優秀であるのはフランスの大学院の講義でよく知っていたが、JAISTのベトナム人の学生も極めて優れているという印象を持った。
 ちなみにJAISTのキャンパスの周りには自然しかなく、いやでも研究に力が入るという環境もある。なお、JAISTがある鶴来市には、かつて私の勤務先の上司(原子力プロジェクトのプロで温泉と地酒と蝶をこよなく愛す)から日本一の酒であると推奨されて私も愛してやまない菊姫の蔵元がある。今度講義に行った是非蔵元を訪問したいと思っている。

 今年始まったのが、九州大学大学院東アジア環境研究機構での「環境プロジェクトマネジメント」コースであり、PMAJも大学の担当教授(経済産業省から出向)、JICAなどとともに出講の機会を得て4コマを担当した。今後九州大学のメインキャンパスとなる唐津に近い伊都キャンパスでの講義であった。
 コースではアジアを中心とした大学院留学院生を主体に40名が受講した。ここも講義は英語で、私と、英語をほぼ母国語として使用するPMAJの講師の方と二人で担当した。Project Management for Environmental Services という趣旨に沿ってP2Mを応用した内容にしている。演習もあり、このコースの学生がプロジェクトで取り組んでいる唐津市の環境面からの再整備による市の活性化提案について、3つのテーマ・ストリームに対して、P2Mプログラムマネジメントを適用して理解するというものであった。この成果も唐津市への提案会議に盛り込まれたとのこと。事情で受講できなかった留学生から評判を聞いて、追加講義をやってほしいとの声も出たとのこと(大学関係者)。

 また、これはPMAJの前理事長としてではなく、研究者としての田中の関与であるが、慶応義塾ビジネススクールKBS(大学院経営管理研究科)の慶應義塾創立150周年記念未来先導基金による”Grand Design by Japan“プログラムで、慶應大学の教授・名誉教授、東京工業大学の教授などと共に協力教員を務めている。
 月に一回日曜日に日吉キャンパスで開催されるプロジェクトフォーラムで意見を言い、時々短い講義を行うのが役目であるが、昨年12月には基調講義「日本のグランドデザイン策定を支えるプロジェクト&プログラムマネジメント」を行った。Grand Designを構築し、それを実現するにはP2Mプログラムマネジメントの活用を推薦する、という内容であった。
 会社時代からひたすらハードワーキングを繰り返すだけで遠い存在であった母校慶應大学であるあるが、70歳に近くなって懐かしの日吉キャンパスで教壇に立つことは夢のようなことであった。
 このGrad Design by Japanプログラムは来年度まで続くが、私の関与はだんだん深まっていく。

 最近大学や大学院での日本人学生の効率志向と覇気のなさ(最少の科目で最少の労力で単位を取る意識が強い、講義内容に興味を示さない)を嘆く声を教員の方々からよく聞くが、海外からの優秀な留学生を含めて、私が講義を行ったコースの学生は目が輝いていて、気持ちよく、インタラクティブに講義を行うことができているのは幸せなことである。
 次号ではフランスとウクライナの大学院でのP2M教育についてリポートする。
★★★★★

ページトップに戻る