「下町ロケット」
(池井戸 潤著、小学館、2011年7月30日発行、第3刷、407ページ、1,700円+税)
デニマルさん:10月号
今回紹介の本は、2011年度の直木賞を受賞した作品である。1935年にスタートした直木賞は、今年で145回目になる。同時に発表された芥川賞は、今年は該当作品なしであった。ところで、この両賞の違いは「芥川賞が純文学作品、直木賞が大衆小説を対象として与えられる文学賞」とあるが、素人にはその違いが区別出来ない。いずれにせよ、共に新人や無名作家の発掘の場であり、同時に出版元や書店の大事な顧客戦略でもある。今回の作品は直木賞を受賞してから多くの話題を呼んでいる。一つは、早速テレビでドラマ化されて、この8月末にwowowで放映された。それとベストセラー手前の人気である。更に、東日本大震災と円高で落ち込んでいる日本経済、とりわけ中小企業が元気なるようなストーリィが話題を盛り上げている。更に、著者の過去の作品である小説「果つる底なき」(1998年、江戸川乱歩賞)、「鉄の骨」(2010年、吉川英次文学新人賞)、「空飛ぶタイヤ」も人気を呼んでいる。文学賞等の受賞をきっかけに、その作家の隠れた部分を世に送り出してくれた。
下町ドリーム ―― 町工場からロケットを飛ばす ――
「下町ロケット」というミスマッチの題名がいい。下町といえば、今でも人情味ある風情を感じるが、そう大きくない町工場もイメージされる。親から引き継いだ精密機械製造工場を経営する二代目社長、その社長の夢はロケットを飛ばすことである。学生から社会人となった主人公・佃航平の専門は、ロケット搭載の水素エンジンの開発である。そのエンジンの心臓パーツを製造する技術力の高い町工場が挑んだ下町ドリームのロマンである。
下町プライド ―― 大企業との品質競争 ――
町工場では、大・中企業の下請け製造を請け負っている。その製造には、自社で内製化しづらいコストや専門性の問題等の諸々の面倒な理由がある。と同時に、ロケットのような高い技術力が求められる製造には、技術問題以外に種々の特許事項が絡んでくる。更に、ロケット製造には、NASA基準といわれる高性能、高品質が求められる。町工場といえども大企業に負けない技術力と高品質、それと価格競争力がある。これが下町プライドである。
下町パワー ―― 日本を支える中小企業 ――
大中企業は、国内・国際競争力という大義名分で中小企業の製造費用を叩いているが、日本の多くの製造産業は、中小企業が支えている。今回の東日本大震災で、東北にある多くの企業が製造工場を失い、日本全体が大きな経済的損失を被った。しかし日本は必ず復興すると多くの人は信じているが、この小説は、明日への情熱を失いかけている日本人や日本企業に、夢と希望と元気を改めて教えてくれる。だから今話題性あるお奨め小説である。
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