図書紹介
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「宇宙は何でできているのか」   ――素粒子物理学で解く宇宙の謎――
(村山 斉著、幻冬舎新書、2010年10月25日発行、第4刷、226ページ、800円+税)

デニマルさん:9月号

今年3月の東日本大震は、色々な意味で我々の日常生活に影響を与えている。身近な所では、放射能を意識した食生活、節電を考慮した職場や居住環境等々、今までの夏とは違っている。実は、この原稿も3月に書く予定で準備していたが、あの大震災で急遽変更せざるを得ない状況となった。さて、今回紹介の本は、2011年度の新書大賞を受賞している。著者の村山氏は、知る人ぞ知る素粒子物理学の日本の若きエースである。36歳の若さでアメリカ・UCバークレイの教授に就任し、2007年に現在の東大数物連携宇宙研究機構(IPMU: Institute for the Physics and Mathematics of the Universe)の初代機構長となった。一説によると東大総長を上回る待遇でスカウトされたという。この機構は、宇宙の根源的な疑問に答える目的で設立されている。その関係か、この本は素人にも宇宙のことが分かるように易しく書かれてある。著者は、この本の印税をIPMUの活動資金に寄付している。日本の研究機構が世界に伍していくためにも、この本を読んで色々な意味で応援していきたい。

宇宙の謎に関心のある人   ―― 宇宙誕生から物事を見る ――
幼い頃から太陽や月や天体を見て、少なからず夢と疑問を持った人も多いと思う。宇宙の誕生は、ビックバン(爆発的膨脹)からだという。この本は、その膨脹し続けている宇宙(物質)は何かを紐解いてくれる。ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン、小柴昌俊氏のカミオカンデンに繋がる宇宙(物質)と、その構成要素である素粒子(物質を極小化した粒子)の関係を説明している。見えない物を見る科学の歴史も分かり易く書いてある。

素粒子物理学に関心のある人  ―― 無限大の宇宙から素粒子まで ――
この本で宇宙と素粒子の大きさを述べている。数値の単位で、兆(10の12乗)や京(10の17乗)があるが、それでは表記出来ない大きさがある。宇宙は10の27乗メートル、素粒子は10のマイナス35乗である。因みに、太陽系の天の川銀河が地球軌道の10億倍(10の11乗メートル)の大きさだという。まさに宇宙全体は天文学的数値の無限大である。ガリレオが「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と言っているが、このことも紐解いてくれる。

身近な宇宙なら関心のある人  ―― ウロボロスの蛇を知る ――
この本ではウロボロスの蛇で宇宙から素粒子の関係を分かり易く図示している。ウロボロスの蛇はギリシャ神話に登場する「尾を飲み込む蛇」で、始めも終りもない『完全なもの』の象徴的な意味がある。蛇の頭を宇宙の銀河系(宇宙論)、そして太陽、地球、人間、生物(生物学)が胴部分で、DNAから原子(化学)、素粒子(素粒子物理学)が尾の部分である。この本は、万物が存在する構造から、その相関関係を身近な例で教えてくれる良書である。

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