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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (9)-BMの勉強②-

渡辺 貢成:9月号

P2Mとお付き合い頂き、17回目になりました。
先月はミッション・プロファイリングにおける「ありのままの姿」を終了し、「あるべき姿」を描くと宣言しました。下図のあなたの洞察力を使うところの話で、言葉を替えると種々のBM(ビジネス・モデル)を紹介します。
図1 ミッションプロファイリング策定図
1.  先月号はあなたもBMはつくれるという話
昨年まではコンサルタントが「アメリカ出羽の守」でアメリカものを商売にしていましたが、最近は本家の旗色が悪くなり、自分で考えろというようになりました。社会人大学院生相手の講座でも「ツール」ではなく、「考える講座」が喜ばれるようになりました。特に大震災後の復興では、アメリカものを求めることもできません。これは日本の再生にとって良いことです。

2.  BMの定義
先月からオンラインでBMを取り上げました。するとHBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)8月号で「ビジネスモデル 構想と決断」が発行されました。
そこで権威あるこの本から定義と種々な発想を拝借することにしました。しかしこれは「アメリカ出羽の守」を意味していません。研究会は何十年も前からBMの研究をしているからです。ですが定義等は素人より権威のある定義に価値があると思うのは人情です。
ビジネスモデルの正しい定義:「ビジネスモデル」とは端的にいえば「物語」、つまりどうすれば会社がうまくいくかを語る筋書きである。たとえば、アメリカン・エキスプレスは19世紀末にトラベーラーズ・チェックを生み出したが、それは当時のアメックス社長が旅行中の小切手支払いに難渋したことから考案されたものである。このトラベラーズ・チェックは小額の手数料で「安心」と「利便性」を購入でき、またアメックスの名前が小売店にも信用され、さらに、負債とリスクのサイクルを逆転させたことによってアメックス自身も無利子の資金を手に入れた。つまり、アメックスのトラベラーズ・チェックという物語には、説得力と洞察力にあふれた動機や構想、緻密な人物描写という健全なBMの要素がすべて備わっている。多くの人が無造作にBMについて語るが、誤った解釈は誤った行動を生みだし、最悪の場合、衰退へと向かわせかねない。BMは戦略でもなければ、戦術でもなく、また改善計画や行動様式でもない。未知なる価値を創造するシステムのことなのだ。

3.  P2Mで使えそうなBM
最近はBMに関する関心が高まっており、多くのBMが出現しています。簡単にその紹介をします。
1 ) アナログ型BM
下図は通常の企業形態を表した図です。製造業と捉えて考えるとわかりやすい。
APQC(American Productivity Quality Center)の業務共通プロセス区分定義とBMの型 Ⅰ.事業企画・設計業務
Ⅱ.基幹業務(SCMの軸)
Ⅲ.間接業務
Ⅳ.外部資源
その他企業に関連するステークホルダーがいます
①全工程の製品のサプライヤ
②商品の販売会社
③最終顧客
この関係が従来から存在し、長年継続してきたBMです。
型の説明だけにとどめます
M-1モデル:製造の外部依存型
M-2モデル:製造の垂直統合型
M-3モデル:製造の水平統合型
M-4モデル:購買代理店型
M-5モデル:仲介(コーディネタ)型 ネットオークション等
M-6モデル:直接販売(中抜き)型
2 ) デジタル型BM
これは経営にデジタル技術(D技術)を最大限に導入する場合のBMです。これまでの日本企業のIT化には大きな特徴がありました。多くの企業はまだ、その事実に気がついていないようですが、多くの場合ITシステムの導入が目的となっており、デジタル技術の持つ大きな能力を経営に活かす発想を経営者が怠っていることです。以下はD技術を大きく活かすBMの型です。
顧客への価値提案型:顧客の価値を高めるためのD技術活用型
社員に付加価値の高い業務をさせるためのD技術活用型
10倍の生産性にまで業務を高めるためのD技術活用型
業務プロセスのデジタル化とそれによる事業変化への対応力向上型
業務の意思決定のスピードと確実性の向上へのD技術活用型
顧客サービスのモデルを「供給者によるサービス」から「顧客のセルフサービス」への転進型
社内の情報の流れを「ラグタイム(遅延)」から「リアルタイム(同時)」するスピード型
組織を「独立したバラバラな活動」から「統合されたシステム」への発展型

以下に事例を添付します。
顧客への価値提案型:顧客の価値を高めるために活用されるD技術活用型
セメックス-顧客注文管理システム-
事例1:セメックス社:メキシコのセメント会社。
業務内容は顧客の要請でセメントミルクを建設現場に提供する。顧客の要請が彼らの工事遅延やその他の理由で中止、延期になるが、それらの要求をすべて引き受ける3K産業の代表であった。そこで新しいCEOは変革を実施した。
過酷なビジネス内容
資本集約型コモディティ事業で利益率、成長率が低い
経済状況、金利変動、政府や政策の変化で左右され、需要予測が困難
顧客の注文の絶えざる変更、天候、交通渋滞、ストライキで発生する常時緊急事態の解決
対応策(発想の転換)
過酷な条件は顧客のわがままではなく、顧客自身が悩んでいる問題
同様な過酷に直面している業界が既に存在する
これらは、宅配便業者、音楽配信、既製服ファッション
対応具体策
セメント工場と配送車間の信頼性ある情報の流れのシステム化
ビット・エンジンとして衛星を使った効率的なネットワークシステムの構築
87~89年通信用衛星システム「セメックスネット」で顧客からの注文・変更を的確に工場・配送車に伝達管理することを目指す、デジタル化経営の一歩を踏み出し、90年代初めに完成
デジタル化経営である、アトムからビットへの転換、資産管理でなく、情報管理で迅速性、ミスの減少、コスト軽減が図れた
成果
セメントの納入時間が3時間から20分に短縮
注文の取りそこねの防止
トラックの保有台数が35%に削減
燃料費、保守費、人件費の大幅な削減
この成果により、メキシコ国内で競争相手がいなくなり、次々に国内同業者を買収して世界3位のセメント企業に成長した。
事例2.GE社の事例
 ウェルチ会長はe-ビジネスの経営に与える大きさに気が付き、調査の結果、自社製品を購入しやすくするため、潜在的な顧客要求を質問形式化する。保守の要領等をWeb上に掲載し、日常の保守、定期的な小さい保守を顧客自らおこなう量を増やし、顧客関係性を構築した後、大きな保守や、日常的な保守まで含めてサービス事業を拡大した。下図はその後の業績の伸びである。
GE-世界一の企業が推進するデジタル化戦略- ●1981年
・売上:272億ドル
・サービス比率:15%
・従業員:44万人
・利益:16億ドル
●1998にはサービスにシフトし、
・売上:1004億ドル
・サービス比率:75%
・従業員:32万人
・利益:93億ドル
サービスへのシフトに伴い、D技術の高度な活用で、業績を大きく伸ばした。

社員に付加価値の高い業務をさせるためのD技術活用型
  この課題を達成するためには、データベースの一元化
  各種業務のプロセス化とその標準化
  社内のナレッジ蓄積と活用できる検索システムの整備
  この業務遂行方式を組織として正しくマネジメントできることが必要条件である。
10倍の生産性を達成するためのD技術活用型
アナログ時代の生産性の向上は3から5%程度であったが、デジタル化によって生産性を大きく伸ばすことが可能となった。以下に生産性向上の事例をスライド群で説明する。
生産性向上への成功の鍵-資産、コスト、サイクルタイム-(4/8)
DBDの効果は「資産」の効率向上、「サイクルタイム」の迅速性、「コスト」の削減で効果を発揮している。米国内で上図中の実績事例を以下のスライドで説明する。
生産性向上への成功の鍵-資産、コスト、サイクルタイム-(5/8)

生産性向上への成功の鍵-資産、コスト、サイクルタイム-(6/8)

生産性向上への成功の鍵-資産、コスト、サイクルタイム-(7/8)

未来への投資の重要性(8/8)

10倍の生産性のまとめ
残念ながら日本のIT業界及び日本企業のITシステム発注者の経営者はD技術の持つ魔法の杖を使うことより、「米国産のソリューション・パッケージ」導入を好み、アナログ的な発想で、10倍の生産性を選ぶより、社員の努力で10%の生産性をあげてきた過去の成功体験を貴重な資産として守り続けている。

以上
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