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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~未経験のダイバーシティーに対応する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 この1カ月半近く、ダイバーシティーを様々な面で体験した。P2Mの講義をした九州大学では、日本人が学生の少数派というクラスを担当した。旅行で両親とイギリス人と国際結婚をしている姉の家族と滞在したカナダでは、会話は日本語と英語のチャンポンだった。甥は話された日本語は理解できるが、自分が話す時は英語、姪二人は会話も日本語でできるが、難しい話になると英語に切り替わる。高校生と中学生の姪たちとはFacebookで友達になっているが、生活している環境が全く違うから、彼女たちが同じ学年のお友達と交わしているメッセージの大半は理解できない。また先日は、出身校の学生後輩たちと話をするというイベントに参加した。OGの中でも、私の年齢が突出して高く、最初はちょっと引き気味だったのだが、私も自分の経験談をするのは好きだし、キャリアカウンセリングみたいな雰囲気で、今後の進路に迷う彼女たちの背中を押す時間は充実していた。
 7月からは、社外の女性団体に属している。先月号でも、戸惑いを感じていると書いたが、私にとって、未経験のダイバーシティーであるこちらでは、正直言ってまだ違和感を覚えている。P2Mのコミュニケーションマネジメントでもカルチャーショックのところで解説しているが、「表面に現れる違いに驚きを覚えショックを感じる」段階にまだいるのだろう。中学・高校と男女共学だったし、大学では、女性が圧倒的な少数派だった。ありがたいことに、今の職場では優秀な部下に助けられ、自分の強みを活かして自由に仕事をさせてもらっている。レジュメプロでの英文レジュメなどのコンサルテーションや、英語指導や本の執筆や講義という社外での仕事も、全て自分の強みを存分に活かし、父親や関係者の方々に助けられながら行ってきた。
 新しくメンバーになった団体では、自分の強みでない部分でも貢献することを期待されている。しかも、休みや夜の時間が、どんどん取られていく。これまでに接したメンバーの人たちは、皆多忙でも、時間をやりくりして熱心に関わっている。女性ならではの「真面目主義」と言おうか。若いメンバーが多いから、成長への意欲からか。そのすさまじいパワーに気後れしている自分がいる。大量に届くメールやSNS上でのやり取りの多さに、そしてこれから対処しないといけない作業量に、気ばかり焦っている自分がいる。「他のこともあるのに、そんなにたくさんできないよ」と泣き言を言っている自分がいる。「皆、そんなに飛ばさなくても・・・ダイバーシティーなんだから、ゆっくりじっくり取り組みたい人もいるんじゃないの?」と言い訳を言っている自分がいる。苦手なことに取り組む気力がおきずに、朝もぱっと起きずに、だらだらしている自分がいる。その結果、いろんな仕事が後手に回り、それらを後追いで処理している自分がいる。
 なんて情けないことだ。これまでにもいろんな経験を積み、困ったことがあっても対応できると思っていた。この連載でも偉そうに、「ダイバーシティーに対応する力」について論じてきた。でもそれは多くの経験を積んだ「グローバル」な分野でのことで、未経験のダイバーシティーの中に放り込まれ、自分に大きく影響がある環境では、全然対応できてない。「異文化に対応するには、自文化相対主義になってください!」と講義で偉そうに言っている自分が、自文化相対主義になっていない。この文章を読んでくれている皆さんからすれば、「メンバーになったのだから、やればいいだけじゃない。何、後ろ向きなこと言ってるの?」と言いたいかもしれない。
 でもその「やればいいだけ」が、器用でない私には簡単ではない。自分が好きなことや強みで対応できることであれば、どんなに多忙でも、慌てることなく、ひとつひとつを確実に処理していくことができる。でも、今は「学生症候群」だ。やらなきゃいけないことをぎりぎりまで後回しにしてしまっている。救いがあるとすれば、P2Mなどで学んだり、こうやって連載を書いたりしているおかげで、自分がなぜこんな気持ちになっているのか、そして、どこかで気持ちを切り替えないと駄目だ、ということが客観的にわかっているという点だ。昨日も団体関係の会議に出て、私よりも時間的にもっときつい人が、一生懸命に取り組んでいる姿を見て、自分も変わらなきゃ、と思う気持ちは芽生えた。やらないといけないことは山とある。この原稿を書いたおかげで、気持ちを整理することができたし、ひとつの「To Do」を終えたという満足感を得られた。これを糧に、いろいろ悩むことは保留して、「To Do List」にあることをひとつひとつ片づけていこう。まだまだ模索段階だが、未経験のダイバーシティーに対応すべく少しずつでも前に進んでいる様を来月は報告できるようにしたい。
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