東日本大震災に寄せて
先号   次号

原発における欧米とわが国との安全文化の相違

小石原 健介 [プロフィール] :8月号

 福島原発事故については発生以来4ヶ月以上を経過した今日、未だ明確な終息のめどは立っていない。またわが国の今後の原発政策についても政府の確たる方針は示されていない。

 たまたま私の大学のクラスメートがカナダへ帰化してオンタリオ州が経営する電力会社オンタリオハイドロの原発へ就職し10年余り原発の原子力技術者として勤めた経験があり、その彼からカナダにおける原発での運転、整備に必要な人材教育訓練の実態についての情報を入手しました。これによると新入社員はすべて会社が運営する教育機関で原発に関する原子力理論、原子炉、放射能とその防護、ボイラー、蒸気タービン、電気工学、ポンプ、熱交換器、などの理論と運転、整備の教育を受けており、教育訓練は教室での座学と併設されている訓練用の原発における実地訓練が行われている。

 そして入社して先ず、1~2年間は原発の正式な運転要員ではなく訓練生として働くことになる。またこれはエンジニアだけでなく、現場の作業員や化学試験所で働く者も含め原発で働く全ての部門に携わる者が対象となっている。また各科目には厳しいテストがあって、全てに合格すれば、初めて正式な原発の運転要員として認められ、各地の原子力発電所に配属されることになる。ちなみに、原発要員は全てこの会社の訓練制度を終了した者で全てが正社員であり、外部会社からの作業員などは決して原発では働くことができないことになっている。

 加えて、Shift Supervisor(当直責任者)に対しては、厳しい国家試験が要求されている。
テストの内容には、事故時、緊急時の咄嗟の適切な対応が求められ、一種のストレステストが含まれている。知識や学力でいくら優秀であってもこの事故・緊急時の対応テストに合格しなければ、不適性として資格を得ることは出来ない。普通、入社8~10年後に選ばれた者が受験を赦されている。

 私はこのカナダにおける原発での運転、整備に携わる者の教育訓練や資格認定の実態を知り、欧米先進国とわが国における安全文化についての大きな相違を強く感じました。すなわち欧米では、人間は過ちを犯す、事故は必ず起きると言う前提でそれに対するリスクアセスメントが実践されています。一方わが国では原発の安全性について、これまで政府や時の権威者の意向(権論)に対しての一部賢者の異論、指摘や懸念は意図的に排除され、原発では絶対に事故は起こらない、とする「安全神話」の虚像を創りあげてきた。そして今回私はこれを信奉してきたわが国社会の持つ致命的な危うさを痛感しました。
以上
ページトップに戻る