協会理事コーナー
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私のWBS観の今昔・・・・「習い」から「見える化」

デム研究所 城戸 俊二: [プロフィール] :7月号

はじめに
 ほぼ30年前になろうか、当時私はプラントエンジ会社で社内にPMS普及、指導を担当する少人数のグループリーダーをしていた。今で言うPMOの走りである。そこであるとき上司から“WBSの作り方は?”と聞かれて答えに窮した。確たる方法論を持たなかったからである。今でもその呪縛から完全には解きほぐされず、未だに日々研鑽の継続で、間もなくライフワークになるところである。
 PMBOK®などが普及した今でもWBSを作るのは“簡単だという人”、“難しいと唱える人”、“時と場合によってその難易は変わるという人”など十人十色であるが、当時私は先輩が作った資料を元に見様見真似で、習(マネ)た知見を嵩にきて“自分はWBSを作ることができる“と自負していた。思い起こせば、WBS論を見える形で持っていなかった自分としては方法論は無いものと半ば諦め、“WBSの作り方は「経験知」だ(出来上がった姿は形式知だがそれが完成するまでの過程には多くの暗黙知が必要)”と唱えた方が簡単だったからでる。以下にその呪縛から解放されたいがために苦悶し、形式知化した拙い考えの一端を紹介する。

WBS活用の目的狙い
 WBSを利用するには具体的な絵を描くことから始めるため、プロジェクトスコープの具象化(ピラミット状に)を終えたらWBSの構築は終わったとしてそれ以降の作業に手を抜く人も多いが、WBS活用論となると、そのフレームワークを踏まえて如何に要領よくパフォーマンスコントロールに活用するかと言う域に至る。その所以はプロジェクト遂行に関わる全てのデータや情報がピラミット状のフレームワークの中に抱え込まれており(或いは作為的に埋め込み)、そこからマネジメントの目的・狙いに叶う情報を如何に要領よく取り出し、活用するかに尽きるからである。
 このような目的で活用するWBSはそれなりの品質が必要である。ここに言う品質とはプロジェクトコントロールに際して、関心のある部位のパフォーマンス情報を適切にとり出せて、且つコントロールに当たって当該のWPに包含するマネジメント要素のTrade Offを容易に行えるWBS構造を兼ね備えたものを言う。このような品質のWBSを作るには形式知(マニュアル化された技術)だけでは事足りない。多くの暗黙知を駆使する、場合によっては関係者の衆知を集めることが必要で、特にコントロール計画の開始からベースライン完成に至るまでの思考過程を担当プロジェクトのコントロールに携わる人で共有することが重要である。このとき多様な役割と考えを持ったプロジェクトメンバーに共通のイメージを持たせるには、文字や数字で形式知化した資料を使って意思徹底を図るのは至難の技。暗黙知も含めて共通認識を植え込むにはビジュアル化(見える化)した手段が最も簡便である。
 計画段階では プロジェクトの進行途上で起こるであろう色々な事象を想定しながらベースラインを決めるので、この時に発想し或いは検討したケースやその過程が プロジェクト進行途上での問題に対処するのに非常に役立つことは万人共通の認識である。しかしベテランPMが独りで計画立案(紙上で数値や絵を並べて)するのでは不満足。ベースライン構築の過程も見える化し、その条件や予定からズレた時の対処方法なども共通に認識していることが重要である。これにはベースライン構築の過程を“見える化”するのが最も手っ取り早い。
 ベースライン構築の要領に共通のイメージを持っていれば、プロジェクト実行に際してのマネジメント要素間の動的な動きに共通のイメージを持つことができる。このことは一緒にプロジェクトを経験したメンバーがチームを組んで次のプロジェクトに当たれば旨く無駄なくできるのがその良い例である。

WBS/WPはどんなもの?
 読者各位はWBSやWP(Work Package)についてご承知と思うので、その説明は抜きにして、ここでは比喩的に解説しよう。ここに述べる例えはJPMF 平成17年7月号の「統合マネジメント談義(WBS その3)」で述べているので詳しくはそちらを参照願う。
 WBP/WPの姿かたちは大きな風呂敷包みを想定していただければ宜しかろう。小包の中には美味しいもの、生くさいもの、中には腐れ掛けたものもある。外観は一見はれぼったそうにも見える。眼力がない管理者は赤みがかった肌色を見て(きれいな風呂敷のデザインに惑わされて)、むしろ元気で快調と判断するかも知れない。実情は間もなく大病を起こす寸前である。状態の診断手段を持たない管理者は悲しいかなそれを予知する手段を持ち得ず、近い将来その包みに起こるであろう事象を予知することができずに、病根が侵攻するがままで、そのプロジェクトの近未来の惨状は推して知るべし。
 このような時、ベースライン構築の段階でベースラインの構成を知り、その構築の過程を知っていれば、プロジェクトの如何なる部位の事象でも認識でき、近未来を予測することができる。

プロジェクトコントロールの計画はアナログ(暗黙知てき)、ベースラインはデジタル(形式知てき)、その活用はアナログ(見える化を介した暗黙知の伝授)
 私は、ベテランの脳の中には適切なWBS構成能とWP活用能が醸成されていると考える。これはその人がPMを学んだ否かとは無関係で、多分に経験知(場合に拠ってはセンス)があらしめることと判断する。従ってWBSの作り方を伝授するには暗黙知をベースにすることが必定と考える。またWBSの作り方について人の云うことを真に受けては危険/惑わされてはダメである。世にWBSの作り方・使い方について紐解いた解説本も多いが、これを真似るだけでなく、これらから自分の手法を学び取ることをお勧めする。
 プロジェクトコントロールを計画するに当たって誰しもWBSを作るが、「WBSを使って・・」と言ってもその意味するところは各人各様で、その中身は微妙に異なる。この微妙なズレがプロジェクトを実行する段階で次第に拡大し、修復できない問題へと発展して行く。その都度、その場その場定義が.必要である(しないと危険)。これが四半世紀以上に亘ってPM特にPMSに携わっている私の信念である。
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