例会部会
先号  次号

第150回PMAJ例会報告

例会KP 増澤 一英 [プロフィール] :7月号

「世界のP2Mへの期待」 ~ユーラシアからのP2Mブーメランに期待を込めて~
パシフィックPMイノベーション代表 田中弘様

先ず、田中様は、講演の経緯に触れられた。今回の話は3月11日の東日本大震災直後の、3月例会で準備されていたものである。結局3月は例会を自粛したが、150回を数える例会でも、中止せざるを得なかった例は非常に稀であり、このような大きな災害の復興に向けた、P2Mの社会的責任やP2Mへの期待にも触れつつお話したい。

講演は田中様の知見と世界のPMの動きに対する敏感な感覚を垣間見られる貴重なものであった。世界に広がるP2M、例えば、ウクライナでは、先ずP2Mのフレイミングとエッセンスであるプログラムマネジメントの理論を習得した。それを基に、独自のプログラム構想を構築し、財政再建プログラムとして、政府からの強いメッセージとして発信されている。チェルノブイリ事故の影響を強く受け、ナレッジマネジメントを基に強力に財政再建を目指す指導者に与えたP2Mの影響は、『P2Mはウクライナの多様な経済発展に有効であった』という大統領声明にも現れている。
時間の関係で非常に急ぎ足であったが、田中様が実際に講義されたワークショップのスライドが順を追って説明された。6W1Hをもとにした臨場感のあるものであり、私たちも受講したい気持ちになる。

田中様の海外の話は非常に面白い。田中様ご自身で語られる写真とエピソード、ことさら、海外の受講者とのスナップでは一人一人のプロフィールも紹介されるほどで、闊達な授業風景、親密な親交、そして、田中様の強い想いが伝わってくる。
財務大臣の要請で実施された、ウクライナ・イノベーションセミナーの際の写真で、P2Mに多大な支援を賜っているウクライナPM協会の会長セルゲイ・ブシュエフ氏との集合写真。フランスSKEMA Business Schoolでの、博士課程生が熱の入った討議と濃密な発表を行っているスナップ写真。これらの写真には、田中様から特に多くのエピソードが付け加えられた。

P2Mは、企業戦略の実行において、戦略の設計と戦略のデリバリーを結び付けて考える。戦略のデリバリーにはプロジェクトマネジメントが関与する。戦略を設計し、プロジェクトを統括するスキルとしてプログラムマネジメントが位置づけられる。また、イノベーションとは、コアテクノロジー(ボディー)、国の政策(フレーム)、ファイナンス(燃料)、システムエンジニアリング(エンジン)が揃ったとき実現されるが、このパイロットとなるのがメタプログラムマネジメントである。P2MのメタPM体系は、政治、経済、社会環境とプログラムとを結びつける『超越したPM体系』として注目され、イノベーションの柱となっている。
メタPMの細かい説明は割愛するが、田中様の描くPM体系観を垣間見ることが出来る説明があった。実は、メタPM体系を最初に提唱したのは、フランスの大学(SKEMA Business School)なのだが、PMAJとは、お互いにPM技術を紹介し、有益な手法を取り入れてより良い手法の確立を競い合うような、下地が培われていた。それあってこそ、メタPMはP2Mの基幹PM体系として完成したもので、まさに、グローバルに真に必要とされるPM体系を求めていく、田中様の熱血交流の賜物である。

お話は、メタPMからパッケージインフラに移る。経済産業省の新戦略5分野の市場創設(フレーム)の筋書きにどのように対応していくのか。パッケージインフラには、複合設備の構築と運営、上流構想からの政府の関与、企業連合での実施、政府の積極投融資、といった特性があり、国の大きな支援を伴うインフラ設備である。田中様は、代表的なモデルとして、現在進行中の、インドでのパッケージインフラ輸出の説明をされた。発電、スマートエネルギー、スマートビルなどを統合するパッケージで多くのステークホルダーがいる。そして、東日本大震災の復旧は、日本でのパッケージインフラ適用プログラムとして注目される。P2MとメタPM体系は、まさに震災復旧に役立てることの出来るツールである。

プログラムマネジメントを実施する上で、もっとも重要になるのがプログラムのミッションである。その国や地域の、あるべき姿と具体的な要件を定め、手法に落とし込み、リスクを洗い出す。これこそ、P2Mの肝であると感じた。そして、私たちが忘れてはならないのが、RESILIENCE(復元力、負けじ魂)とグローバルプロフェッショナルの意識である。

講演の中で、今回の講演テーマについても触れられた。
『世界の、P2Mへの期待』にやっと辿り着いた。10年後には『世界のP2M、への期待』となるよう皆でP2Mを高めていきたいと話された。人は生きている限り迷う、という言葉を思い浮かべた。迷うから進化があるのであり、P2Mも常に進化を続ける。メタPMの先にはどんな光があるのだろうか ・・・?
ページトップに戻る