例会部会
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「第149回例会」報告

PMAJ例会部会 中前 正: 6月号

 日頃プロジェクトマネジメントの各分野でご活躍の皆様、いかがお過ごしでしょうか。3月11日に発生した東日本大震災の影響により、例会部会では、3月25日に予定しておりました第148回「世界のP2Mへの期待」を中止とさせていただきました。参加を予定されていた皆様に深くお詫び申し上げます。
 さて、今回は、2か月ぶりの開催となった第149回例会についてレポートいたします。なお、この第149回については“チャリティー例会”とし、東日本大震災で被災された方々への義援金として参加費全額を寄付いたします。

【データ】
開催日: 2011年4月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「ユーザー主導によるRFP作成実践」
講師: 匠システムアーキテクツ株式会社 代表取締役 前田卓雄氏

 今回は、外資系コンピュータベンダーのシステムエンジニアに始まり、独立後は情報戦略立案やプロジェクト管理、プロセス改善など、数多くのコンサルティング業務に従事してきた前田卓雄氏(以下、「講師」と表現)を招き、システムやITを使用するユーザー側が主導して、RFP(Request For Proposal。提案依頼書、要求仕様書などと呼ばれる)を作成することのメリットや方法論について講演していただきました。

 議論の入り口として、RFPを作成することがなぜ重要なのか説明されました。システムやITを調達する際は、意外と知らない自社の実情や、眠っているビジネスチャンスなど、ユーザーが現状(As-Is)をしっかり分析し、そのうえで自ら将来(To-Be)のあるべき姿を思い描くことが重要です。そしてこれらを盛り込んだRFPを作成することが、自社のビジネスイノベーションを実現するために重要であると講師は述べます。

 次に、そのような過程を経て作成するRFPに盛り込むべき内容について説明されました。講師からは、RFPを構成するものとして、「業務要件」「システム要件」「プロジェクト要件」「運用要件」「提案書の作成方法」の5つの要件が、テンプレートとともに紹介されました。この5つの要件を作成する過程において、いったい何を調達してどのように使いたいのかを明確にすることができ、そしてコスト削減や売り上げ増など、新システムによってもたらさせる本来の効果を確認できると考えられます。

 では、いったい誰がRFPを作成するべきでしょうか。RFPはベンダーに提案書の作成と提出を促すものですから、本来は当然、システムを調達する側のユーザーが作成すべきであると考えられます。ここで講師からは、自ら用意したRFPのテンプレートをダウンロードした人や、RFPを研究しているメンバーを対象にした意識調査の結果が紹介されました。現状では「ユーザーがRFPを作成するのは敷居が高い」という意識や、「RFPを書ける人がいない」「内部の意思疎通、トップの理解不足」といった問題があり、これらがユーザーによるRFP作成の障害となっていることが多いようです。

 講演の後半は、これらの障害、問題を乗り越えながら、ユーザーが自前でRFPを作成する手順について、講師がコンサルタントとして携わった実例も交えながら説明されました。上述した5つの要件のうち「業務要件」については特に詳しく解説されました。その核になるのは、業務に従事する主体者とその範囲を明らかにする「業務環境図」、業務の手順やルールを明らかにする「業務記載書」、そして業務の流れや全体像を明らかにする「業務フロー」という3点セットです。この3点セットは、まず、現状(As-Is)の課題を分析し表現したものから始まります。それに、課題の優先順位付けの結果や、投資対効果などの視点が加わることによって、将来(To-Do)を表現した3点セットに生まれ変わります。その結果、より具体的で詳細な「業務要件」を完成させることが可能となります。

 その他の詳細な作成手順については割愛しますが、筆者が感銘を受けたのは、ユーザー主導によるIT調達プロセスを成功させるために講師が挙げた、以下の3つの重要ポイントです。
1. 経営者・業務リーダーの経営・業務改革に対するやる気(経営・組織の活性化)
2. 従業員の「自社を自分達で守り・育て・良くしたい」という意欲
3. 初めて実践する人にも実践可能な手順(プロセス)
 この3点を育みながらRFPを完成させることにより、実務担当者から経営者まで、多くのステークホルダーが納得できる調達プロセスが実現できるのではないでしょうか。

 システム開発・IT業界においては、調達側であるユーザーがRFPを書くのではなく、それを提供するITベンダー側がRFPを書く機会が非常に多いという、やや矛盾した現状があります。そこには、これは筆者の見解ですが、企業内外のコミュニケーション不足や、役割分担の不徹底などの問題が根底にあるのではないでしょうか。今回の講演テーマであるRFP作成をはじめ、正しい調達・契約の手順が普及することによって、これらの問題が取り払われ、ユーザーもベンダーも、ともに成長できるような環境が整うことを期待したいと思います。
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